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歌舞伎コラム

『ぴんとこな』をより楽しむための「ことば」「演目」「約束事(しきたり)」を“歌舞伎コラム”として紹介します。

屋号

歌舞伎をはじめて劇場でごらんになった方は、幕が開いた途端、客席の奥から「○○ヤァッ!!」と声が掛かるので、ビックリされる方もいるでしょう。あれが「掛け声」。掛けているのは、ごひいきの役者の「屋号」なんです。
ドラマでも、河村恭之助は「木嶋屋」、ライバルの澤山一弥は「轟(とどろき)屋」です。歌舞伎役者は、皆それぞれ、自分の家の「屋号」を持っているんです。 歌舞伎役者は、芸名として姓を持っていますが、江戸時代はもちろん武士階級ではありませんでした。そこで、苗字に加えて町人や商人と同様、屋号を持って、自分たちのシンボルや通称にしようとしたんです。
今の歌舞伎役者では、たとえば市川海老蔵は「成田屋」。これは、初代市川團十郎が成田不動を大変信仰していたからです。中村獅童は「萬屋」(よろずや)。松本幸四郎・市川染五郎親子は「高麗屋」、中村吉右衛門は「播磨屋」、尾上菊五郎・菊之助親子は「音羽屋」、坂東玉三郎は「大和屋」…といった具合です。
歌舞伎役者はそれぞれの家で得意とする「家の芸」や、演目の役について、独自の演じ方(「型」)を持っていますから、「あれは成田屋の型だ」という言い方をするのです。
歌舞伎座などへ行くと、筋書にそれぞれの役者の屋号がちゃんと載っています。
いま、「掛け声」は「大向う」といって、もっぱら専門の人がかけていますが、皆さんが掛けてもまったくかまいません。
でも、「間(ま)」をはずすと、それこそ間が抜けたことになりますので、十分ご注意を。

犬丸 治(いぬまる おさむ)

演劇評論家
著書「市川海老蔵」
(岩波現代文庫)など

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