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歌舞伎コラム

『ぴんとこな』をより楽しむための「ことば」「演目」「約束事(しきたり)」を“歌舞伎コラム”として紹介します。

かつら

歌舞伎の鬘(かつら)は見た目も豪華ですが、たとえば吉原の最高位の傾城がつける「伊達兵庫」(「立兵庫」)など、かんざし・櫛などきらびやかな飾りも着いていますから、役者でもその重さで首が相当つらいそうです。まして「ぴんとこな」の出演者の皆さんは大変でしょう。 鬘は幕内では「あたま」とも言います。江戸時代も初めの頃は役者が役柄ごとに自分の髪を結い上げていたようですが、ドラマが複雑になり、登場人物の役柄も細かく分かれるようになって「鬘」が必要になってきたようです。
鬘は、まず鬘師が土台になる「台金」という金具を作って役者の頭にぴったり合わせます。これが「頭合わせ」。次に「床山」(とこやま)が、役柄に合わせて髷などを結い上げる、という分業制になっています。
鬘は、単に男女の区別だけではなく、善悪・老若・二枚目・三枚目と、その役自体を規定します。つまり、歌舞伎を見慣れてくると、その鬘だけでこの役は善人か悪人か、とわかって来るのです。細かく分ければ、女形で400種、立役(男)で1000種あると言われています。
たとえば、物事をわきまえ善悪をさばくキリリとした立役は「生締(なまじめ)」、腹黒い謀反人は「燕手(えんで)」、地位が高く天下を狙う悪人は「王子」、大盗賊や妖術使いは「大百(だいびゃく)」という具合に、鬘にちゃんと名前があるのです。
女形だと、御殿女中が「文金島田」、時に悪にも手を染める男まさりの女が「馬の尻尾」。地位の高いお姫さまが「吹輪(ふきわ)」、落ち着いた武家の女房や局が「片はずし」です。 女形は、世話物は娘、時代物は姫から修業していき、役どころのステージを上げていきます。「片はずし」を用いる役は女形でも大役といわれ、「吹輪」から「片はずし」へ、というのは、そのままひとりの女形の成長の軌跡を示してもいるのです。

犬丸 治(いぬまる おさむ)

演劇評論家
著書「市川海老蔵」
(岩波現代文庫)など

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