インタビュー

vol10.吉田健さん(監督)

この作品を演出することが決まったときのお気持ちというと?

かれこれ野島さんとは20年以上の付き合いがあり、彼がTBSのドラマで脚本を担当するときは、ほぼ私が演出に携わってきました。今回、この作品について彼は監修という形での関わりですが、世界的に知られている原作をドラマ化するに当たり、野島さんが創ってきた作品の集大成となる予感がありました。そんな作品に、山下智久という独自のスタイルを持つ俳優を主演に迎えるということで、ある意味、野島さんが辿り着くべきゴールに近い作品になるだろうという予想もあり、それならばぜひ私が演出したいという気持ちが湧きました。

この作品の骨格はどう創られていったのでしょうか?

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昨年の秋頃から野島さんとプロデューサー、そして脚本をお願いした池田奈津子さんと台本作りを始めたのですが、当初、野島さんが言ったのは「原作の読後感がとても悲しいものなので、原作のラストとは違う形にしたい」ということでした。最終回を前にここで詳しくは言えませんが(笑)、原作のチャーリィに訪れる悲しい最後ではなく、咲人には何かを残したいということでラストの方向性が決まり、そこから逆算してストーリーを落とし込んでいきました。
野島さんはどちらかというと、まずラストをイメージしてから全体を組み立てていくことが多く、今回の場合も「ラストがこうなら物語の導入部分はどうするか?」ということから組み込んだのが、ちょっとワケアリな男たちが集まるドリームフラワーサービスという会社と、そこで働く咲人の姿でした。そしてもう一方が、咲人が暮らす全く別世界として、遥香や蜂須賀がいる脳性理化学研究センターという場所です。
この2つの世界を咲人が行き来することになるのですが、その設定の話しが出たとき、ドリームフラワーという男たちばかりの世界感が、『未成年』のときに描いた、馬鹿馬鹿しくもピュアな青春像に通じるものだと直感しました。このドラマの導入部は、野島作品に慣れ親しんだ方には懐かしく思っていただけたでしょうし、野島さんのドラマを観たことのない方でも、楽しく観ていただけたかと想像しています。

この作品を演出する際に念頭に置いたポイントというと?

物語を大きく分けて、前半の知的障がい者としての咲人、手術を受けて天才となった咲人、そして最終回へと向かうという構成は原作と変わりませんが、まず考えなければならなかったのが、咲人というキャラクターをどう作っていくかということです。ドラマを観ていただいたみなさんに「咲人という人物を受け入れてもらえるかどうか?」「咲人を魅力的に見せるにはどうすれば良いか?」これが、このドラマを作っていく中での、大きなテーマでした。今まで野島さんと一緒にやってきた作品にも、知的ハンディキャップを抱えているキャラクターを中心に据えたものがありましたが、それらの作品とは比べられたくないという想いと、今までの作品を超えなければ意味がないと考えていました。
その点ではとても苦心しましたし、咲人を演じる山下君も相当悩んだと思いますが、スタッフと本人とで何度も話し合いながら形にしていき、みなさんにご覧いただいたようなチャーミングな咲人が生まれたと思います。第1話、2話を撮影していく中で、とても魅力的に撮れているぞという手応えがあったので「これは行けそうだ!」という確信が持てました。
ただし、前半部分での咲人という人物像が完成形へと近づくにつれて「天才になったときの咲人をどう見せれば良いのか?」どう落差を付ければ良いのかという不安は、私も山下君も撮影当初から抱いていました。天才になるということで、セリフや仕草などなど、どうしてもクールなお芝居になってしまう部分は避けられないところ。ましてや、恋愛の要素も加わってきますので、これはどうしたものかと(笑)。山下君は今までクールで孤高な印象を持ったキャラクターをたくさん演じてきましたが、今回はそれとは違う、“新しい山下像”を見てもらうこと、これも、この作品における大きな目標の一つだったのです。
そんなこともあり、第1話、2話を撮影している段階から、このことについて山下君と話し合っていましたが、山下君から出たアイデアの一つが、「ホワイトボードに難しい計算式などをワーッと書いているようなお芝居をやってみたい」というものでした。それを聞いたとき、これはいけるなと思い、天才へとなっていく第5話でボードを使ったお芝居を取り入れました。

実際に撮影に入り苦労したところなどありますか?

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全てが苦労と言ってしまえばそれまでですが(笑)、主演を務めてくれた山下君をはじめ栗山千明ちゃん、そのほか出演されたキャストのみなさんには、今まで演じてきたことのない役柄に挑戦していただいたこともあり、それぞれの役柄を「どう組み立てていけば良いのか?」ということも、この作品を作る上でのテーマとして、演出チームとキャストのみなさんと一緒に苦心した部分でした。新しい役柄に挑戦するキャストの演技を、ドラマをご覧いただいた方たちに楽しんでいただき“はまり役”だと思っていただけたなら、苦労は報われたのかなと思います。
山下君の演技について言うと、撮影現場のモニターを通して見たのと、それとは別に編集室で見たときと、別の見え方をすることがよくありまして、第1話の煙突に登るシーンは、撮影当初の中でも印象に残る一つです。
実際に本人に登ってもらうという危険な撮影だったということもあり、正直なところ、とにかく画が撮れていればOKにしようという気持ちもあったのですが、編集室で見ると、とても素晴らしいものになっていました。それは、彼の表情や動きからリアルな不安さが見て取れたからなのですが、その様子が咲人の置かれている状況、これからの不安みたいなものがオーバーラップして見えるシーンになりました。「想像していた以上に怖かった」と本人が言っているくらいなので、演じている最中にもその不安が自然と滲み出ていて、そこは嬉しい誤算といったところでしたね。
あと、いちばんわかりやすい苦労話といえば、やはりネズミのアルジャーノンを撮影することでしょうか。ある意味、アルジャーノンはこのドラマの主人公でもありますし、どう撮影していこうかと、いろいろと考えました。もちろん、本物のネズミが演技できればいちばんですがそうはいきませんし(笑)、特に、撮影で使ったネズミのラットは、あまり人間に懐かないらしいんです。それと、想像はされていると思いますが、アルジャーノンは一匹ではなくて、生後1か月のラットを数匹、ネズミのコンディションも見ながら撮影していきました。もちろん、シーンによってはCG合成も使いましたが、アルジャーノンの表情を撮る場合は、それこそいい顔が撮れるまで待つという忍耐勝負で、第1話、2話の撮影では、丸1日、アルジャーノンを撮るという日もありました。

番組が始まる当初、知的障がい者を取り上げるドラマは観たくないという声もありましたが、その様な意見についてどう思われますか?

ドラマの中でハンディキャップを抱えている人物を描くということは多々ありますが、特に、生まれながら知的ハンディキャップを背負われている方は、私たちの想像を超えるご苦労をされていると思います。それと、社会生活の中において、どちらかというと私たちの日常から見えないところに隠されている部分もあるので、そういった方を見るのは辛いという感覚や心情はとてもわかりますし、私たちドラマを制作している側にとっても、とてもデリケートな部分です。
ましてや、“お涙頂戴”“あざとく同情を買う”という囚われ方になりがちなところもありますが、『アルジャーノンに花束を』という作品については、そもそも原作の導入がそうであるからこそ、咲人という人物像をしっかりと丁寧に描かなければならないと考えていました。また、ドリームフラワーサービスという会社の中で、生き生きと暮らしているという背景を、ドラマを観ていただいた方たちにしっかり感じていただければ、変にジメジメすることなく、きっとこの作品を楽しんでいただけるとだろうと想像していました。

ロケ地や撮影セットへのこだわりというと?

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先ほどもお話しましたが、咲人が暮らす“ドリームフラワーサービス”と“脳生理科学研究センター”という、ベクトルのまったく違う世界を、主人公が行き来するということがあったので、まず「そこをどう作っていけば良いのか?」を考えました。この2つの場所を、まったく違う世界として感じていただくことは、ドラマとしてこの作品を成立させる上で、とても重要なことだと思います。
昨年末からロケハン(=撮影場所を決めるロケーションハンティングのこと)を始めましたが、研究センターに関しては、近未来的な外観が目を引く建物は、数的にもそれほど多くないということもあり、割とすぐ決まりました。その逆に、ドリームフラワーサービスをどこにするかが、ちょっと苦労しましたね。倉庫というと、それこそどこにでもありますが、設定上お花を扱う会社なので、それなりに清潔感があり、花を並べたときに画になるということを念頭に置いて探していたのですが、なかなか見つかりませんでした。それと、毎週撮影を行うレギュラーロケ地となるので、都内からあまり離れた場所へは行きたくありませんしね(笑)。

野島作品で活躍されたいしだ壱成さんや河相我聞さんと再会したお気持ちは?

壱成君と仕事を一緒にするのは『聖者の行進』以来ですが、我聞君とは、それこそ『未成年』以来なので20年ぶりです。失礼な言い方ですが、二人ともちゃんと“大人の芝居”ができるようになったんだなと思いましたね(笑)。再会できたのはもちろんですが、それがとても嬉しかったです。
特に、当時、壱成君はギラギラした青年でしたが、あれからいろんな人生経験を積んで、それが良い形として表れている大人になったと思います。彼はとても繊細なニュアンスを出すのが得意なので、今回演じてもらった久人のバックグラウンドは紹介されていないにも関わらず、久人を見た人が「この人はこういう人なんだろうな…」と、何かしら想像できるような空気感が出ていたと思います。それこそ、久人が咲人に残した「あいきょでしょ」という言葉が、咲人が幼い頃、久人が毎日のように咲人に言っていたのが今の咲人に染み付いている、“咲人への大切な言葉”だったのだろうと、ドラマを観ている方たちが自然に想像できるんですよね。 我聞君に関しては、どちらかというとバイプレーヤーで光るものを持った手堅い役者だと思っているのですが、そういった立ち位置の中でも、とても奥深い表現力を身に着けてきたなと感じました。蜂須賀率いる研究チームの中において、ビシッと大人の雰囲気を醸し出して、シーンを引き締めてくれていたと思います。

最後に、監督としてこの作品から何を感じていただきたいとお考えでしょうか?

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原作に即したところで言わせていただくなら、人間の価値というのはそれぞれだということでしょうか。一つ具体的に言うなら、頭が良いから悪いから価値が変わるわけじゃない、それぞれの人間にそれぞれの価値があるということ。柱としてそれがあり、さらに、野島さんの作品に一貫している“君は独りじゃない”というメッセージが、この作品にも込められています。
演出を務めさせていただいた側から考えても、これだけ緻密に作り上げられたドラマは、そうそう出会えるものではなく、私自身の監督人生において思い出に残る作品になったと感じています。最終回へ向けて、咲人とその周りの人間関係から“君は独りじゃない”というメッセージを感じ取っていただければ嬉しいです。

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