[第4回] これぞ司会術の真骨頂！『ザ・ベストテン』司会者・久米宏の生放送トークが凄すぎる！
2021年3月12日
伝説の歌番組「ザ・ベストテン」の魅力を再発見していく、こちらのコラム。2021年も引き続き、貴重なエピソードを織り交ぜながら、掘り下げますのでどうぞ、お楽しみ頂きたい。
第4回は司会者・久米宏さんのトークの凄さを振り返りたい。
3月21日(日)よる9時から「ザ・ベストテン」（1979年9月27日放送回）がCS放送TBSチャンネル2で放送される。「スポットライト（ベストテン圏外の話題曲を紹介するコーナー）」では松坂慶子さんが妖艶なドレス姿で番組初登場。「愛の水中花」を歌う。また、「ザ・ベストテン」ならではの斬新な演出も存分に楽しむ事が出来る回である。
黒のドレス姿で「愛の水中花」を歌う松坂慶子さん
4人組のグループ、サーカスがセットの旅客機上で歌唱し、背景では世界旅行が表現される鮮やかな演出、レーザー光線が飛び交う宇宙空間での八神純子さんの歌唱、氷山がピラミッドに変化する西城秀樹さんの大がかりな美術装置、金沢市中心街のデパート屋上からの桑名正博さんの中継出演、熊本のコンサート会場からのゴダイゴの中継出演など見所が満載である。
その中、特に注目したいのは、久米宏さんの卓越した司会術である。とにかく淀みのない進行ぶり、圧巻の話芸に唸らされる。まずは、冒頭の「四要素（レコード売上げ・有線放送・ラジオリクエスト・ハガキリクエスト）」の一気読み。後期のベストテンでは四要素がテロップで紹介され、中継先の映像や企画紹介などが展開されていたが、この初期の放送回では久米さんが早口ながらも明瞭に紹介している。常人なら間違いなく舌を噛むスピード。そして、手持ちの原稿ではなく明らかにモニター画面を見ながらのコメントと、この凄技にぜひ注目していただきたい。
凄技2つ目は、第10位の、あの名曲(本編でのお楽しみに！)の紹介シーン。この曲はイントロが10秒→少し歌があり（頭サビ）→再びイントロが5秒となっている。本来ならイントロ10秒で「今週の第10位、（曲名）」と喋って、頭サビが入り、その後のイントロ5秒は何も喋らないパターンのはずである。ところが久米さんは違う。
イントロの10秒で久米さんは「今週第10位。1日と2日初めてのリサイタルを控えて今元気いっぱいです。食欲もありましてねぇ。200グラムのステーキを…。続きは後ほど」と10秒で語り、頭サビを聞かせます。そして、残りのイントロ5秒で「大好物の200グラムのステーキペロリ。周りが驚いています。今週第10位初登場！」という風に「続きは後ほど！」というワードを用いて曲紹介を分断しているのである。この手法はなかなか見応えがあり、実に興味深い。第10位の曲が何なのか？ぜひ放送に注目していただきたい。
そして3つ目の凄技は「謝罪」である。出演しない方については、事実をスルーせず、理由を正直に伝える事が斬新でもあった「ザ・ベストテン」。ファンはがっかりするだろうが、ここでの久米さんの「謝罪」に注目すると実に面白い。
第7位「カリフォルニア・コネクション」水谷豊さんが出演しない際の謝罪のやりとりでは…
久米「申し訳ありません！」
黒柳「あなたしょっちゅうお辞儀ばっかりしてる、とね、血が上がったり下がったりして具合悪くなりません？」
久米「ちょっと、めまいがするんです。」
第2位「関白宣言」さだまさしさんが出演しない際の謝罪では…
久米「さださんは、岡山市民会館でコンサートを終えまして楽屋でグロッキー状態でございます」（漫画家・針すなおさんが描かれた、楽屋で疲れたさだまさしさんのイラストを見せて）
久米「仕事が終わって楽屋へいらっしゃると、あの方は、声はガラガラ、全身汗みどろ、髪はバラバラ、眼鏡はずり落ち、目はうつろ、頬はこけて…」
黒柳「息もたえだえ」
久米「頭の毛の不自由な断末魔のカマキリのような状況だそうでございます」
黒柳「ぜひそうでないキリッとした状況で出ていただきたいと思います」
と、漫才のようなやりとり。謝罪すら見所にしているのが「ザ・ベストテン」の凄みなのだ。
歌のすばらしさ、演出のすばらしさと共に、久米さんの話芸にもぜひ注目してみてほしい。あの時代、あの時の青春が蘇る「ザ・ベストテン」の貴重な再放送をどうぞ、お楽しみに！