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コラム

2018年12月31日更新 text by 寺田辰朗

第8回区間毎の有力選手と見どころは?
主導権を前半でも後半でも握れる旭化成とトヨタ自動車
富士通とMHPSにも「ワンチャンス」

内容

12月30日に発表された区間エントリーでは、2つのニュースがあった。
1つはHondaの設楽悠太(27)が発熱のため欠場になったこと。大澤陽祐監督は「大砲はいなくなりましたが全員で確実につないで入賞したい」と目標を話した。
もう1つは旭化成の4区が予想された大六野秀畝(26)ではなく、市田孝(26)だったこと。12月2日の福岡国際マラソンに出場した市田の走りが、3連覇に大きく影響しそうだ。
区間毎の有力選手、各チームの狙いなどを紹介しながら、レース展開を展望したい。

1区は村山紘と服部弾の区間賞争い。的野、大西がダークホースか

1区(12.3km)は村山紘太(旭化成・25)と服部弾馬(トーエネック・23)が区間賞候補の双璧だろう。
村山紘は10000m日本記録保持者、服部弾は2018年の日本選手権5000m優勝者だ。どちらもラスト勝負を武器とする選手。速いペースの展開になればわからないが、おそらく2人の、壮絶なスパート合戦になるのではないか。1500mに3分42秒96のスピードを持つ的野遼大(26)も、18年シーズンでロードの力が上がっている。2人のラスト勝負に加わるかもしれない。
ロングスパートで勝負に出るとすれば早川翼(トヨタ自動車・28)、3000m障害17年世界陸上代表だった潰滝大記(富士通・25)、前回区間3位の梶原有高(ひらまつ病院・30)あたりか。関西予選の区区間賞の大塚倭(NTT西日本・22)と、九州予選1区区間賞の中村信一郎(九電工・25)の2人も好調が伝えられている。
東日本予選1区2位の大西一輝(カネボウ)は、日本選手権10000mでも2位。31歳のベテランが何かをやりそうな雰囲気がある。

復活組にも注目したい。
リオ五輪マラソン代表だった北島寿典(安川電機・34)が、手元の資料でわかる範囲ではリオ五輪以来のレース出場となる。群馬県出身。家族や知人の応援を背に力走する。西池和人(コニカミノルタ・25)は3年ぶりのニューイヤー駅伝出場で、北島と同様に故障に苦しめられてきた。16年大会は1区で区間3位。スピードが復活していれば区間賞候補だ。
2区(8.3km)は外国人選手出場が認められているインターナショナル区間。
東日本予選3区区間賞のキメリ・ベナード(富士通・23)、ベナードが2位だった八王子ロングディスタンス優勝のトゥル・メルガ(安川電機・19)、同大会3位で九州予選2区区間賞のダニエル・キプケモイ(西鉄・22)、前回区間3位のアブラハム・キャプシス(旭化成・25)らが区間賞候補。
1500mのケニア代表でジュニア世界記録を持つロナルド・ケモイ(小森コーポレーション・23)も、東日本予選3区区間2位と駅伝に対応し始めた。世界のスピードを上州路で披露する。
日本人では前回1区区間賞の遠藤日向(住友電工・20)が、どこまでアフリカ選手に食い下がるかが注目される。

スピードの3区は大石、花の4区は市田孝。2人の復調が優勝争いを左右するか

3区(13.6km)は3・4・5区の主要3区間のなかでも特に、スピードが要求される区間。
追い風の吹くコースで、前半は1kmあたり2分40秒を切るすごい速さで展開する。
5000mで17年日本選手権優勝者の松枝博輝(富士通・25)、日本歴代2位タイムを持つ鎧坂哲哉(旭化成・28)が区間賞有力候補。富士通と旭化成は1・2区で先頭に立つか、トップ集団に位置すると予想できる。3区でトップに立つ可能性は十分ありそうだ。
3強の一角のトヨタ自動車も、大石港与(30)が復調してきている。18年シーズンは内臓疲労などでブランクがあったが、区間賞を取った2年前に近い走りができれば先頭集団を確保するだろう。

初優勝を狙うMHPSは目良隼人(26)がここで踏ん張れば、4区の井上大仁(25)でトップに立てる。
区間賞争いのダークホース的な選手が東遊馬(九電工・23)で、八王子ロングディスタンスでは28分03秒46と大幅に自己記録を更新した。個人種目や駅伝1区で好結果を出しているが、前を追ったり追われたりする中間区間はニューイヤー駅伝では初めて。その力を発揮すれば、トップに立つ可能性もある。東日本予選6区区間賞の平和真(カネボウ・24)も同じように、トップを狙える力をつけてきた。
青学大出身の藤川拓也(中国電力・26)と田村和希(住友電工・23)は、3強の3区選手ほど爆発力はないが、ともに10000mで初27分台を18年シーズンにマークした。両チームとも2区が日本選手。そこの後れをどの程度取り戻すか。

4区(22.4km)は最長区間で各チームのエースたちが激突する。
コラム第4回でMHPSの井上、コラム第5回でトヨタ自動車の藤本拓(29)と富士通の中村匠吾(26)、コラム第6回で日清食品グループの佐藤悠基(32)、そしてコラム第7回でトヨタ自動車九州の今井正人(34)を紹介してきた。誰がトップに立っても不思議ではない。
市田孝の状態がその後の展開も大きく左右する。旭化成は前回も走った大六野秀畝(26)を4区に予定していたが、最後の10kmの練習後に変更した。その理由を西政幸監督は次のように話した。
「大六野は夏から故障があって、その影響が最後の10kmの動きに出てしまった。本人も4区にプレッシャーを感じているようでした。それに対して孝は4区を走るために1年間頑張ってきた。その強い気持ちがあったので孝にしました」
2年前の4区区間賞選手だが、福岡国際マラソンに出場した疲れが完全に取れたわけではない。市田孝本人は「守りの4区ではなく攻めの4区です」と強気の姿勢で臨むが、走り始めてから自身の状態を判断するケースだろう。前後を走るライバルチームとのタイム差も関係してくるが、市田孝が正確な判断ができれば旭化成が3連覇に一歩近づく。

MGC出場資格を持つ山本憲二(マツダ・29)、大塚祥平(九電工・24)、園田隼(黒崎播磨・29)、岡本直己(中国電力・34)、上門大祐(大塚製薬・25)、福田穣(西鉄・28)らも、粘り強い走りを見せてくれそうだ。
その他で注目したいのは蜂須賀源(コニカミノルタ・24)と栃木渡(日立物流・23)、木津晶夫(カネボウ・24)ら。特に蜂須賀は、コニカミノルタがエースにと期待する選手。練習での強さを試合で発揮できなかったが、区間⒋位ではあったが東日本予選2区できっかけをつかみ、八王子ロングディスタンスで28分05秒32と自己記録を大幅に更新した。コニカミノルタは1区の西池に加え、3区にも16年大会区間2位、17年区間4位の菊地賢人(28)が2年ぶりに入った。優勝8回の名門チームの復活も期待できる。

3年連続区間賞に挑戦する5区の村山謙と6区の市田宏。トヨタ自動車も服部勇、窪田が強力

5区(15.8km)は2年連続区間賞の村山謙太(旭化成・25)が区間賞候補の筆頭。本人は「向かい風も上りも得意ではない」と言いながらも、「チームが期待していること」と、この区間で優勝を決めるつもりで臨む。
トップを走れば村山謙の強さが過去2回と同様に発揮されそうだ。

トヨタ自動車は福岡国際マラソン優勝の服部勇馬(25)で、村山謙とは高校が同じ宮城県だった。学生時代の箱根駅伝も含め、ロードレースでは村山謙に対して勝率が良い。4区でトヨタ自動車が先行できれば、5区で追いつかれたとしても服部が競り合いに持ち込める。その場合はメンタル的には服部勇優位か。
富士通はベテランの星創太(30)を起用してきた。日本選手権5000mに優勝したことがありスピードランナーの印象が強いが、前回は向かい風が強い7区を区間4位で走った。MHPSは前回区間10位の定方俊樹(26)で、チーム内では井上、的野に並ぶくらい練習が強い選手だという。両チームとも優勝するためには、4区終了時にトップに立ち、次の5区で踏みとどまる必要がある。
6区(12.5km)は2連勝中の旭化成もそうだが、13・14年に2連勝したコニカミノルタも、15・16年2連勝のトヨタ自動車も、この区間で区間賞を取っている。
向かい風の強い区間。選手層の厚いチームが力のある選手を残すことができるのが前提だが、独走している選手の方がコース取りなどで風対策がしやすいという。集団になるとお互いを風よけにしようとするため、牽制し合う展開になりがちだ。

市田宏(旭化成・26)が3年連続区間賞に意欲を見せているが、トヨタ自動車も10000m27分台ランナーの窪田忍(27)を、この区間に起用できる選手層の厚さがある。MHPSも「6区に木滑(良・27)を残せたのが大きい」と、黒木監督は自信を見せる。
コニカミノルタは宇賀地強(31)、富士通は横手健(25)と、この2チームも27分台ランナーを6区に残す。3強の1つの富士通は、18年シーズンは不調だった横手の復調次第で、勝機が残っている。コニカミノルタも5区まではそれなりのメンバーを組むことができている。4区・蜂須賀が踏ん張れば、宇賀地で勝負ができるかもしれない。
Hondaも大澤監督が「5区の山中(秀仁・24)、6区の服部(翔大・27)で追い上げたい」と話す布陣。エース設楽を欠いたが、優勝候補の実力を見せたいところだ。

アンカー勝負なら大六野の旭化成が有利

7区(15.5km)に旭化成は、日本選手権10000m優勝者の大六野を残している。最後のポイント練習を外したため4区から変更になったが、外したのはその1回だけだという。ライバルチームに独走に持ち込まれていない限り、アンカー勝負でも旭化成が優位に立つ。
向かい風も強い区間でトラックの実績が反映するとは限らないが、松本稜(トヨタ自動車・28)や佐藤佑輔(富士通・28)が記録的には良い。旭化成に対抗するとすればやはり、3強だろう。
コニカミノルタはMGC資格を持つ谷川智浩(29)、MHPSはマラソンで2時間12分台を持つ岩田勇治(31)と、スタミナ型の選手を起用してきた。向かい風にも強い選手で3強に立ち向かう。

5区以降で今回も強い向かい風が吹くと仮定すれば、やはり5区でトップに立ち、6区で差を広げるのが勝ちパターンといえそうだ。
4区まででリードを奪い、5区もトップを守りきるパターンに持ち込みたいのが富士通とMHPSだ。富士通は3区、MHPSは4区のエースが強力で計算できる。
旭化成とトヨタ自動車もそのパターンに持ち込むことができるが、この2チームは5区でも逆転が期待できる布陣になった。さらに両チームとも、6・7区でもう一度勝負ができる。
勝機の多さを考えれば、旭化成とトヨタ自動車の確率が高く、富士通とMHPSにも、富士通・福嶋正監督の言葉を借りれば「ワンチャンス」がある。
本命チームが力を発揮して横綱レースを見せるのか、ダークホース・チームがサプライズを起こすのか。
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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール

陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。

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