第1回驚異的な選手層の厚さで旭化成が3連覇に“挑戦”
“トリプルエース”が好調だが、市田孝の復調次第で4人エースの布陣も
内容
2連勝を果たした前回の旭化成は、「ダブルエース」(西政幸監督)でニューイヤー駅伝に臨んだが、今回は「トリプルエース」で臨む。
1年前のエースは市田孝(26)と大六野秀畝(26)だったが、今回は鎧坂哲哉(28)、大六野、村山謙太(25)の3人。
12月2日の福岡国際マラソンに出場した市田孝がカウントされていないにもかかわらず、エースの人数が増えている。
そこが今季の旭化成の強さだろう。
市田孝と宏(26)の双子兄弟ら、福岡に出場した選手もニューイヤー駅伝に意欲を見せている。
さらに前回メンバーを外れた10000m日本記録保持者の村山紘太(25)も、今季は復調してきた。
平成最初の大会から6連勝した旭化成が、平成最後を3連覇で締めくくる態勢を整えている。
大六野がトラックではシーズン無敗
大六野は18年シーズン、トラックで日本選手間無敗を続けた。
4月の兵庫リレーカーニバル10000mと織田記念5000m、5月のゴールデンゲームズinのべおか10000mと九州実業団10000m。そして6月の日本選手権10000mでは日本一の座に就いた。
「日本選手権は狙って勝ち切れたので、自信になりました。体調のもって行き方を、去年よりも明確にイメージできたからでしょう。8000mから行くと決めて、最後まで押し切れたことは良かったと思います」
7月以降は股関節の痛みが左(7月)、右(9月)と出て、10月後半に練習を再開したが、「完全に大丈夫」になったのは11月半ば。
11月の九州実業団駅伝出場は回避した。12月2日の甲佐10マイルは46分30秒で8位だったが、「そこからの体調の上げ方はわかっている」と、トラックシーズンで得たノウハウでニューイヤー駅伝に合わせる。
大六野は前回初めて最長区間の4区(22.4km)を任されたが、苦い思い出がある。
「15km手前から手脚がしびれて、途中棄権もあるのでは!?と背筋がゾッとしました」
脱水症状から起きる状態だったと自己分析している。設楽悠太(Honda)に追い上げられたが、高林の交差点では20秒差があった。
そこから一気に同タイムまで詰めらたが、辛うじてトップで中継した。
今回も4区と決まったわけではないが、大六野にとっては嫌なイメージを払拭して、2月に予定している初マラソンにつなげていきたい。
新たな試みを進行させている鎧坂
明大の先輩になる鎧坂の復活も大きい。
鎧坂は15年には3区(13.6km)で区間賞を取り、同年の北京世界陸上10000mに出場。
その年の7月には5000mで、11月には10000mでともに日本歴代2位(13分12秒63と27分29秒74)をマークした。
だがリオ五輪を目指した16年は不調に陥り、ニューイヤー駅伝も17年、18年と3・4・5区(15.8km)の主要3区間から外れている。ただ、外れたといっても17年は2区(8.3km)で区間日本人1位、18年は7区(15.5km)区間2位で2連勝に貢献している。
この2シーズンは不調というよりも、新しい試みを実行している。数多くの大会に出て、1500mや3000mを何度も走った。
昨年は3000mで7分52秒70の自己ベストを出し、10000mも27分台は残している。今季はハーフマラソンやマラソンまで走った。
「色んなレースを連戦し、疲れがあるなかでどのくらい走れるのかを試しました。記録も狙おうと思えば狙えるタイミングもあったと思いますが、それよりも国際大会で勝負できる力をつけたいと思ってやってきたんです」
代表には17、18年ともなれなかったが、19年のドーハ世界陸上には、新たな鎧坂としてチャレンジできるだろう。
11月に出した27分55秒85は今季日本最高タイムであるが、それほどすごいタイムではない。
過去2シーズンと違うのは、駅伝前の11月に走ったことだ。
ニューイヤー駅伝は「言われた区間を、監督の想定した走りをすること」を考えている。どの区間でも走れる選手として、インターナショナル区間の2区を含め、過去4つの区間(1・2・3・7区)を走ってきた鎧坂らしい。
また、「駅伝は何が起きるかわからない。自分に起こらないとも言い切れない」というコメントからは、チームの良い状態に油断して、自身の状態を見誤らないように、と戒めていることも伝わってくる。
市田兄弟と村山兄弟、2組の双子兄弟の印象が強い旭化成だが、今回のニューイヤー駅伝は明大OBコンビが中核を担う。
村山兄弟の“覚悟”
絶好調とまでは言えないが、村山兄弟も駅伝に向けて順調だ。
2年連続5区区間賞の謙太は、7月のゴールドコースト・マラソンで2時間09分50秒と、苦しんできたマラソンで結果を残した。だが、そのときの疲れがなかなか抜けず、本当に狙っていた9月のベルリン・マラソンでは2時間15分37秒の16位と失敗。11月の九州実業団駅伝でも5区区間6位とピリッとしなかった。
それでも八王子ロングディスタンスでは28分12秒53(5組1位)、1週間後の甲佐10マイルでも46分51秒(12位)とまとめてきた。その2試合は、3月の東京マラソンに向けたマラソン練習のなかで出場していた。
「八王子から中2日で40km走をして、甲佐のあとまた中2日で40km走をやりました。調整して甲佐のトップを取りたい気持ちもありましたが、小島(忠幸)ヘッドコーチと話して、我慢しようと納得できたんです。その流れで、今も状態は上がってきています」
15年の北京世界陸上に10000mで出場したスピードランナーでもある。
前回はほぼ同時に中継所を出たHondaの山中秀仁を、スタートダッシュで引き離した。
「(26秒後にスタートした)大石(港与・トヨタ自動車)さんが追ってくると思ったので、それも考慮してあの走りをしました」
追い風で、前半からハイペースで入る3区の方が、「自分のタイプ」かもしれない。「エース区間の4区を走りたい」気持ちもある。だが「チームとしては5区で勝負を決める走りを期待しているのかな」と理解もしている。
「5区は向かい風が強いですし、微妙に上っているのでペースもグッと上げることは難しい。タフなコースで不安要素しかありませんが(笑)、2年連続区間賞を取っているので、もし走ることになったら、堅実な走りで3年連続区間賞を取って3連覇に貢献したい」
謙太らしくユーモアを交えながら、5区への覚悟を話していた。
弟の紘太は2年前には1区(12.3km・区間13位)で優勝メンバーに名を連ねたが、前回はメンバーから外れている。
故障以外の理由で日本記録保持者が出られない。それも旭化成のすごさを示している。
「外れた時は悔しかったですけど、それだけ旭化成の層が厚いということ。納得してサポートに回りましたし、優勝してもらわないと困ると思っていました。優勝したときは、この人たちがメンバーで良かったと思いましたね。今回は走ると思うので、走れなかった人たちの分まで走りたい」
15年11月に日本記録を出し、リオ五輪にも出場できた。しかしその後は、日本記録保持者の難しさを突きつけられた。自身ではさらに上を目指す気持ちになっても、試合に出る毎に肩書きがのしかかってきた。
「日本記録保持者なのになんだ、とか聞こえてきたりして、試合に出るのが怖くなっていた時期もありました。特に昨年の11~12月頃は試合が来てほしくなかった」
練習はできても試合の結果に結びつかないことも、その気持ちを増幅させたようだ。
18年シーズンもまだ、「その気持ちは少しある」ためか、以前のような快走はない。だが、九州実業団駅伝では4区区間賞で、区間2位に大差をつけた。八王子ロングディスタンスでも外国勢の組に入り、27分台は出せなかったが28分10秒39で踏ん張った。
「悪い流れをニューイヤー駅伝で変えたい」
兄とはまた別の覚悟を持って、紘太もニューイヤー駅伝に挑む。
市田兄弟の“挑戦”
市田孝・宏の兄弟はそろって福岡国際マラソンに出場し、兄の孝が12位(2時間12分32秒)、宏は46位(2時間24分05秒)に終わった。
レース後のダメージは、宏の方が少ない。福岡後のポイント練習も、福岡に出ていない選手と同じメニューを、同じペースで行ったという。
「マラソンでスタミナはついているので、あとはスピードを付けて駅伝仕様に変えています」
一方の孝は、「ポイント練習を、あまりないことですが、宏の後ろにつかせてもらってやりました」と言う。
本数を少なくしたり、距離を短くしたりして、調整しながら状態を上げている。
ニューイヤー駅伝で孝は4区と3区で連続区間賞、宏も6区で連続区間賞を取り、2連覇の原動力になってきた。市田兄弟がどういう状態で出られるかで、旭化成の区間配置やレース戦略も変わってくる。
取材した12月19日時点の感触では、3・4・5区は「トリプルエース」の鎧坂、大六野、村山謙太で分担することになりそうだ。
村山紘太の後半区間は考えにくいので、2年前と同じ1区だろう(3区の可能性もある)。
市田兄弟は宏が3年連続6区、孝がアンカーの7区の可能性が高い。
リオ五輪マラソン代表だった佐々木悟(33)も、福岡を走ったが回復すれば7区候補だ。
だが、「前回も最長区間の4区を走って区間賞を取りたかった。今回も駅伝だけは譲れない気持ちがある」と言う孝の状態が、残り10日間で上がってくれば主要3区間に入る可能性はある。トリプルエースが4人のエースになれば、旭化成は3連覇に向けて万全の布陣となる。
3連覇に対して市田兄弟は、事前に話し合ったわけではないが同じ内容を話していた。
「前回も優勝を守ろうという気持ちよりも、挑戦者の気持ちで臨んだから2連覇できました。2連勝しているから3連勝できる、ではなく、3連覇に挑戦する気持ちで臨みたい」(孝)
「自分の中では毎年ゼロから優勝を目指す気持ちです。連覇、連覇と見過ぎると、マンネリが出たり、余分なことをやったりして悪循環になる」(宏)
2年連続兄弟区間賞を取っているが、その点についても守ろうという意識はマイナスになる。福岡国際マラソンに出た今回は特に、兄弟区間賞はチャレンジングな状況だ。
それでも「3年連続兄弟区間賞は、宏と約束して臨みたいですね」と孝。出場区間に関わらず、双子兄弟の頑張りは旭化成に欠かせない。