第5回2019年長距離界最大イベントへの序章
MGCファイナリストが“花の4区”で競演
その2 “3強”4区候補たちの戦い方
内容
ニューイヤー駅伝最長区間の4区(22.4km)には、MGC(*)出場資格獲得者(MGCファイナリスト)が多数出場し、激しい戦いを繰り広げる。
前回区間1位の設楽悠太(Honda・27)と区間2位の井上大仁(MHPS・25)は、2月の東京マラソンでそろって2時間6分台をマークした。井上はアジア大会も、日本人32年ぶりの金メダルと活躍した。
その2人が今回も区間賞候補だが、“3強”と言われる旭化成、トヨタ自動車、富士通の4区選手も簡単に引き下がらない。特に終盤で競り合いになったときは、1秒でもいいから前でタスキを渡そうとするだろう。
駅伝エース区間での頑張りが、2019年長距離最大イベントのMGCへの序章となり、そして2020年東京五輪へとつながっていく。
*マラソングランドチャンピオンシップ。東京五輪代表が最低でも2人決定する選考レース。9月15日に東京五輪に準じるコースで開催される
富士通・中村は向かい風の競り合いに実績
富士通はMGCファイナリストの中村匠吾(26)が4区を走ることで、チーム内の意思統一がとれている。求められている役割は「最後は1秒でもいいから前に出て5区に渡すこと」(高橋健一駅伝監督)だ。
富士通はコラムコラム第3回で紹介したように、2区のベナード・キメリ(23)と3区の松枝博輝(25)が区間賞候補。トップで中村にタスキが渡る可能性がある。
しかし4区の最初から驚異的なスピードで飛ばすと予想されている設楽や、今季10000mで27分台のスピードを身につけた井上の追い上げがあることも、中村は覚悟している。
「レースをイメージした練習を積んでいく時、自分の力量を知ることも重要です。設楽さんの力はわかっていますから、追い上げられる展開もあると思います。しかし自分も、練習を積み重ねて付けてきた力があります。仮に追いつかれても後半勝負に持ち込んで、そこで引き離すことができれば区間賞の可能性もなくはない。それができればチームの優勝にも近づくと思います。最後までしっかり走りきって、22.4kmトータルで勝負します」
MGC出場資格を獲得した3月のびわ湖マラソンも、9月のベルリン・マラソンも、コラム第3回で紹介したように最後の2.195kmでスピードアップした。
学生時代も、駅伝の最後で競り勝つシーンが多かった。箱根駅伝は2年時の3区、4年時の1区がそうだった。
特に2年時の3区は2位争いの集団が激戦となった。区間賞はトップを独走していた設楽(当時東洋大3年)だったが、2位集団は大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト。当時早大3年)、井上(当時山梨学大2年)、山中秀仁(Honda。当時日体大1年)ら、現在活躍しているメンバーで構成されていた。その中で残り2kmから中村がリードを奪い、2位で4区に中継したのである。
その年の箱根駅伝往路は珍しく向かい風が強く、3区後半の海岸通り(国道134号線)は真正面から風を受けた。
ニューイヤー駅伝4区の最後も、高林交差点を左折すると強い向かい風だ。設楽や井上と再度、向かい風の中で雌雄を決する展開があるかもしれない。
旭化成・大六野は日本選手権の残り2000mで強さを発揮
3連覇を目指す旭化成は主要区間候補が多数いるが、4区は前回も走った大六野秀畝(26)が有力だ。
ニューイヤー駅伝では16・17年と連続で3区を走り、区間6位と区間3位。前回は直前の状態の良さを買われ、17年区間賞の市田孝に変わって4区を任された。だがハイペースで飛ばした設楽に追い上げられ、最後は並ばれてしまった。同タイムでかろうじてトップ中継したものの、区間5位と期待を下回る走りだった。
「僕個人は主要区間を3年間任されていますが、一度も区間賞がありません。区間賞を取って3連覇に貢献したい」
大六野は村山謙太・紘太兄弟、市田孝・宏兄弟と同期入社だが、入社当初から練習で長い距離への適性を示し、マラソンでの期待度が高かった。しかし故障も多く、マラソンのスタートラインにはまだ立てていない(19年2月の別大マラソンに出場予定)。
ただトラックでの成長は目を見張るものがある。10000mで日本トップクラスの証である27分台で2度走り、今季は日本選手権にも優勝した。18年シーズンは5000mも含め、トラックでは一度も日本人に負けていない。
前回の失速はコラム第1回で紹介したように、15km手前から手脚がしびれてしまったからだ。最後の4kmは両脚の付け根が痙攣しそうだったという。
「4区はある程度のペースでずっと押して行く区間。最低でも(1km毎が)2分55秒が必要で、それ以上かかったらダメだと思っていましたが、前回はしびれ出してからは3分2~3秒以上かかっていました。区間はわかりませんが1年前のようなことがないように、走る前の食事や水分摂取にも気をつけて体調を整えたい」
旭化成も富士通と同様にトップか、それに近い位置で4区にタスキが渡ることが予想されている。前回の大六野は10kmを28分37秒で通過したのに対し、設楽は27分54秒で追い上げた。設楽の序盤の飛ばし方は追い風とはいえ、22.4kmの距離を考えたらなかなか真似できない。
大六野は夏に故障があり、10月に復帰したが別大マラソンに向けての練習に入っているため、スピードを上げた練習はあまりやっていない。前半で設楽のスピードに挑むよりも、10km以降で最低でも2分55秒をキープする走りで対抗するのではないか。19kmの高林交差点以降の向かい風の部分は「前回は体がきつくて風のことは覚えていない」(大六野)が、そこでの勝負に持ち込みたい。
日本選手権ではレース前から残り2000mからスパートすると決め、その走りを実行して2位に3秒59差をつけた。圧勝とまではいえないが、終盤の強さは際立っていた。
同じ強さをニューイヤー駅伝の高林交差点を左折してから見せられれば、旭化成が3連覇に大きく前進する。
トヨタ自動車・藤本&服部も終盤の競り合いに実績
トヨタ自動車の4区は10月のシカゴ・マラソンで2時間07分57秒の快記録をマークした藤本拓(29)と、12月の福岡国際マラソンに2時間07分27秒で優勝した服部勇馬(25)が候補。2月の東京を2時間08分45秒で走った宮脇千博(27)もMGC出場資格を持っているが、宮脇が故障明け間もないことを考えると藤本か服部の可能性が高い。
藤本はコラムコラム第2回で紹介したように、ニューイヤー駅伝では1区しか走ったことがない。初めて中間区間を走ることになりそうだが、「自分の走りをするだけ」と覚悟を決めている様子。今季は複数のレースパターンで結果を出してきた自信があるのだろう。
11月18日の中部実業団対抗駅伝はいつもの1区ではあったが、5kmから前に出て残り7kmを独走した。11月24日の八王子ロングディスタンス10000mは28分08秒30の自己新。集団の中で速いペースで押して行くレースになった。そして12月2日の甲佐10マイル(約16km)では、終盤で抜け出して45分57秒の好タイムで優勝した。表面的には国際競技者の部のケニア選手たちと競り合う形になり、ジョン・ムリツ(トヨタ自動車九州・22)には1秒差で負けたものの、ケニア人2選手には競り勝っている。
「マラソンを目指す過程で自分の意識している走りがあります。3週連続で中部も八王子も甲佐もしっかり走ることができたので、駅伝も走れると思っています」
調子が格段に良ければ、中部実業団駅伝のように残り数kmの地点でスパートし、独走に持ち込むのがベストだろう。4区のメンバーを考えると簡単なことではないが、そのときは甲佐のように、中継所前で競り勝つ展開に持ち込む力もつけた。
ニューイヤー駅伝が行われる上州路ほどではないが、シカゴも“ウィンディ・シティ”と言われるほど風がある。実際、シカゴ・マラソンの終盤は向かい風と雨でかなりの悪コンディションだった。
高林交差点を左折してからの向かい風は初体験になるが、藤本にひるむ理由はないように思える。
もう1人の4区候補の服部はどうか。
入社1年目の17年大会で4区を走りし、区間5位ではあったがチームを3位から2位に押し上げた。故障明けで不調だったとはいえ、並走していた設楽を12km過ぎに突き放した。トップを行くDeNAとの差もずっと縮めていたが、15km付近から少しずつ引き離され始めた。しかし最後には再び縮めて、5区への中継では4秒差に迫った。
箱根駅伝エース区間の2区でも、服部は東洋大3・4年時に連続区間賞を獲得した。3年時は最後3kmの上り坂で、村山謙太(旭化成・25。当時駒大4年)や一色恭志(GMOアスリーツ・24。当時青学大2年)との壮絶なデッドヒートに競り勝った。
福岡からの回復次第だが、任されれば必ず役割を果たす選手である。
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MGCファイナリストが競演する今回の4区。コラム第4回で紹介したように、前回区間賞の設楽と区間2位の井上が今回も区間賞候補だが、3強の4区候補も勝負強さを持つ選手ばかりだ。
タスキを受けたときのタイム差や選手の好調度によっては、独走に持ち込むチームが現れるかもしれない。だが4区が最長区間になった2009年以降の大会で、4区終了時の1・2位最大差は、16年大会でHondaが2位のトヨタ自動車につけた17秒(約100m)である。4区は接戦が続いている可能性が高い駅伝といえるだろう。
その4区の終盤約3km、高林交差点を左折してからは強烈な向かい風になる。そこの頑張り次第で数秒から10数秒の違いが生じ、その差が5区の展開にも影響する。苦しくても絶対に引けない3kmなのだ。
MGCのコースも37km付近から40km付近まで、終盤の上りが勝負どころとなると言われている。ニューイヤー駅伝4区の最後3kmの戦いが、MGCへも何らかの形でつながるのではないか。