帰ってきた!お江戸マメ知識

まるで本当に見てきたかのように「江戸のアレコレ」を語ってくれる、時代考証の山田順子先生による人気コーナーが復活!毎週気になるシーンについて解説していただきます。

第10回

作品の中に、久坂玄瑞の「辞世の句」が登場しましたが、武士というのは辞世の句をあらかじめ作って用意しておくものなのでしょうか?

武士が死ぬことを覚悟したとき、辞世の句(短歌・和歌)を作るのは“武士の教養のひとつ”であり、それも作れないようだと「武士失格」だと考えられていたの。そのため、彼らは日頃から短歌を作る練習をしていたし、なにも辞世だけでなく、ことあるごとに短歌を作っていて、それを披露する場というのもあったのよ。
ちなみに、久坂玄瑞も短歌を作るのが得意だったようで、かなりたくさんの作品を残しているんだけれど…その多くはまるで辞世の句ではないかと思えるぐらい、死を覚悟して作ったような内容の短歌が多いの。今回劇中で使った短歌も、実はその中のひとつ。実際の『蛤御門の変(禁門の変)』では、辞世の句を残していないといわれる久坂だけれど…もしかしたら、作っていたのに混乱の中で消失してしまったのかもしれないわね。そこで、ドラマの中では、生前に久坂が作ったとされる短歌の中から、今回のシュチュエーションにふさわしい作品を選んで使用したの。
坂本龍馬も短歌を作るのが好きだったみたいで、いくつか作品が残っているわ。残念ながら辞世の句らしきものはないけれど、もし暗殺されることが事前に分かっていたら、作っておいたかもしれないわね。

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咲さんや栄さんの着物の着こなしが素敵で、毎回ふと見とれてしまいます。ところで、当時の人たち(町人など)は、着物をどのくらい持っていたのでしょうか?マメに洗濯していたのですか?

今回の完結編では、『仁友堂』の家計が苦しいという設定のため、咲さんはほとんど着替えをしていませんが、前作では何枚も違う着物を着ていましたし、最終話の結納のシーンでは、袖の長いピンク色の振り袖も着ていましたよね。これは、咲さんが「旗本(武家)の娘」ということで、その格を表すために、華やかに見えるよう着てもらっていたのです。でも、実際のところ、橘家は無役の150石という旗本では一番収入の少ないランクの家なので、かなり家計は苦しいはず。だから、本当であれば、もうすこし着物のパターンが少なくてもよかったのかなと思っています(笑)。でも、着物の良いところは、縫い目を解いて、洗って、縫い直すという“仕立て直し”の作業をすれば、また別の人が着れるということ。咲さんもきっと、お母上が若い頃に着たものを直して着ていたことでしょう。
そして、『町人』はというと、その収入でピンキリ。大店の主人や家族なら、数え切れないくらい持っていて、毎日着替えたかもしれないけれど、長屋に住む“その日暮らし”の庶民は、1枚2枚という人たちも多くいたと思うわ。1枚しか持っていない人たちは「洗濯する時はどうするんだ」って思うかもしれないけれど、冬の間は洗濯をせず着続けて、夏になったら洗濯し、干している間は裸で待っているなんてこともあったみたい。しかも、同じ着物を冬は裏地をつけて合わせで着、夏は裏地を取って単(ひとえ)で着たというから、こうすれば、1枚でオールシーズンいけるわよね(笑)。
今回のシリーズでは、咲さんもかなり質屋通いをしているけれど、江戸の庶民にとって質屋さんはとても親しい存在だったの。着物の枚数に余裕があれば、夏に冬物を預けて金を借り、冬に夏物を預けて金を借りるなんて、まるでクリニング屋さんに預けるような感じで利用することもあったと聞くわ。

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以前、長屋を追い出された野風が職を探すというシーンが登場しましたが、江戸時代の人たちは、どうやって職を探していたのでしょうか?現代でいう「ハローワーク」のようなものがあったのでしょうか。

仰る通り、実は江戸にも”民間のハローワーク”的な「職業紹介所」が存在していました。『口入屋(くちいれや)』といって、江戸時代の初期からあったんだけれど、当時の有名な商売のひとつね。江戸には地方から大勢の人が出稼ぎにやってくるし、求人の数も非常に多いから(武家・商家など)、需要と供給がうまく保たれていたみたい。特に、武家屋敷なんかでは「女中がほしい」と希望するところも多くて、しょっちゅう求人を出していたらしいわね。
口入屋は、見かけは一種の大きなお店といった感じで、あちこちから求人が寄せられてくるんだけれど、野風のように「働きたい」という意思を持った人たちが出向くと、互いに条件の合う奉公先を紹介してくれるの。口入屋は「信用」で商売していて、地方から出てきた人たちの身元保証人となって職場を紹介し、稼ぎの一部を身元保証料として徴収することで成り立っていたのよ。

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山田先生への質問は締め切りました。たくさんのご応募をいただき、ありがとうございました!