上野樹里さん/水野 明日美役
これまでは、感情のまま行動するような役柄が多かったので、理性的でクールな感じの役柄を演じてみたいという気持ちが漠然とありました。ただし、「これが正義だ」というような刑事のような役ではなくて、自分自身に疑問を抱きながらも、それでも自分の正義を追及しているというような、そんな役柄をイメージしていたときに、このドラマのお話をいただきました。完全オリジナルなシナリオという意欲作で、ストーリーもとてもおもしろくて、ぜひやってみたいと強く思いました。
私はや巡り合わせというものをよく感じるのですが、この作品と巡り合えたことにも、なにかそういった感覚を覚えました。今回演じる水野明日美という女性は、復讐のために全てを捨てたような人ですが、不完全な部分もたくさんあると思うんです。クールな部分はあるけど、未熟な部分を抱えたまま大人になった女性の成長物語でもあると思っていて、今の自分にしかできない“サスペンスの形”じゃないかなと感じています。
最初に抱いたイメージとのズレは、それほどなかったです。表面はクールな感じなんですけど、しっかりと明日美の感情が描かれているというか、15年前に起きた父親との不幸な別れによって明日美がどれだけ深い傷を負ったのか。そのことが復讐へのエネルギーになっているのですが、私の想像を超えるような相当に大きな悲しみだったのだろうと感じました。
明日美が実際に復讐をするとき、どんな表情をするのか? 動揺するのか? とか、いろいろと考えます。明日美の表情をどう撮影していくのか、照明はどんな具合になるのかなどなど、こだわるところはたくさんあると思うので、台本はもちろん、演出、撮影部、照明部、美術や演技などの全てが一つになって、この作品が出来ていくのだと感じています。
小さい頃に母親を亡くし、医師であり尊敬できる父親と二人暮らしではあったものの、幸せに暮らしていた女性なんですけど、15年前に起こった医療ミスによって父親を亡くし、しかも父親は死後、いわれのない罪を負わされてしまった。それからは、父親の汚名のために様々な苦労をしたと思います。そんな悲しい過去を払拭すべく、父親を陥れた悪い医師たちに復讐することだけを目標に今まで生きてきた。もっと言えば、そうしなければ生きてこられなかったのかもしれません。
芯はピュアで真っ直ぐなものを持っているんでしょうけど、自分のことを大切にできていないと思います。たぶん、自分はどれだけ傷ついてもいいと思っているんでしょうね。
一つひとつ演じていく上で、明日美という人物像が見えてくるんですけど、それが全てリンクしてくるという感じでしょうか。例えば、私と明日美との間に線が100ある中、最初は1、2本ぐらいしか繋がってないとして、それが演じていくことでどんどん繋がっていくようなイメージです。「あ、こういうことだったのか!」という感じに、段々と見えてくるんです。瞬発力で表現するようなキャラクターではなくて、感情がずっと繋がっているという感じなので、明日美が抱えている悲しみや虚しさ、壊れそうなはかなさ、理解されない孤独感など、大切にそして丁寧に作っていきたいと思います。
これは、演技だけのことではなくて、演出やカメラワーク、照明など撮影現場の中で全てのことを共有することで、いろんなことが結びついてくると思うので、何一つ見落とさないように演じていきたいと考えています。
プロデューサーや監督とのお話の中でも、場合によってはそれぞれ考え方や意見が違うこともありますが、作品に対しての向き合い方や目標到達点は同じなので、それらが調和するところを見つけて肉付けしていくことで作品にメッセージを込め、ドラマを楽しみにしていただいている方たちに届けることができればいいなと思います。自分一人では実現出来ない世界観を、この作品に関わる全ての方とチーム一丸となって形に出来ることはすごく楽しいですね。
明日美の周りは悪い医師ばかりなんですけど、演じてらっしゃるみなさんはすごく気さくで良い方たちばかりなので、セッティングの合間などは和やかな雰囲気です。もっとピリピリした撮影現場になるかと思っていましたが、そんなことはありませんでした。明日美の敵役の伊達理沙を演じられる藤原紀香さんは、実際はすごく優しくてピュアな方ですし、磐内教授を演じる岩城滉一さんはすごくチャーミングで、そんな方たちが悪役を演じることで、より魅力的な悪役になるのだと思います。すごく新鮮で、良い刺激をいただいています。
演出の塚原あゆ子さんも、すごくテンポよく撮っていかれる方で、「いまの最高!」とか「この照明、超カッコいいヨ!」みたいに声をかけてくれるんです。物事をはっきり伝えてくれる方なので、すごく楽しいですし気持ちが良いです。
復讐するだけで終わる物語ではなくて、最終的には“赦し”という部分がテーマになってくると思います。明日美は、最終的には赦したいんだと思うんです。でも、赦せない。だからこそ、赦せるところまで正面から向き合っていきたい。そうでないと幸せにはなれないと思います。諦めるとか仕方がないということではなくて、しっかり納得した上で受け入れていくことが強さでしょうし、それが人として成長していくことだと思います。
明日美は、最初の1~2話は順調に想いを遂げていきますけど、それからは自分の想定外なことにどんどん巻き込まれていきます。明日美の想いの軸は変わらないんですけど、周りに起こる様々なことにより変化が起こるかもしれません。そんな明日美を演じることを考えるととても楽しみですし、ドラマをご覧のみなさんもいろいろと展開を予想しながら観ていただくと、きっとハマると思います。ぜひ第1話から見逃さずにご覧いただけると嬉しいです。