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須賀川 拓

Hiroshi Sukagawa

報道局報道番組2部(前・中東支局長) 2006年入社
担当番組:
JNNニュース、Nスタ、ニュース23、報道特集、TBS NEWS DIG YouTubeチャンネル

Works

About my work

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人生の半分以上、わずか数畳のテントで生活を強いられているクルド人難民の少女。何年も封鎖されたガザで、頭上を飛び交うドローンのプロペラ音と空爆に怯えながら過ごす人々の表情。一方、イスラエルの真っ青な空を白い航跡を残して飛び交うのは飛行機ではなく、ガザから放たれた無差別のロケット弾。紛争地や係争地のリアルをできる限り現場でかみ砕き、そこに生きる住民たちの思いを日本の視聴者に伝えることが私の仕事です。最近は、ウクライナもカバーエリアに入りました。
そんな仕事内容ですから、戦争が起きれば現場に行きます。戦争が起きていなくても、不安定な情勢が長年続いている現場にも行きます。なぜか。こうした国・地域には、生活を破壊され、最愛の家族を失い、夢を見ることができなくなった人が多く暮らしているからです。
でも、伝えなくてはいけない人々の物語は無限にあるにも関わらず、発信するための箱(ニュースの枠)は極めて小さいという厳しい現実があります。ウクライナで、どれほど非人道的な爆弾が投下され子どもがバラバラになって死のうと、東京で大雪が降れば、そんなニュースは消し飛んでしまいます。それが、ニュースの残酷なところです。だからこそ、限られた枠の中で少しでも心に響くニュースを届けられるよう、現場に向かい続けます。
ニュースを見た視聴者にとって少しでも多くの気づきに繋がれば、それが議論へと発展し、支援に繋がります。その力は、現地で苦しんでいる人たちの生きる糧になる、そう信じています。

Positive part of my work

「ありがとう」。これを言われて、気持ちの悪い人は少ないはずです。爆弾で家を粉々にされ、妻と子ども達を失ったガザの男性からは、「ここに来て、私の話を聞いてくれてありがとう」。アフガンの取材でも、極貧生活を送る家族が「私たちの話を発信してくれてありがとう」。視聴者からは、「タリバンの知らない一面を伝えてくれてありがとう」。「ありがとう」という言葉に、私の取材の原動力が詰まっています。感謝の気持ちは、人を動かします。
自分が取材しなければ、伝わることすらなかったガザやアフガニスタン、ウクライナの、とてもとても大切な人々の声。そのほとんどの場合が、耳をふさぎたくなるような、目を覆いたくなるような悲しい話です。自己満足でいい。それを報じることで多くの人から感謝され、その結果彼ら、彼女らの未来に少しでもプラスのエネルギーを注げるのなら、現場に向かい続ける意味はあるんだと思います。

Negative part of my work

はっきり言います。
「私たちは人の不幸で飯を食っている」もちろん、全ての取材がそうではありませんが、少なくとも私の担当はそういう側面が多いのが現実です。だから、世界中から貧困と紛争が無くなるなら、明日にでも職を失ってもよいと思っています。でも、現実はそんなに単純ではありません。伝えたいという思いと、取材対象者から搾取しているという現実に挟まれ、四六時中悩まされています。けっこう辛いです。
そしてこの仕事は危ないうえ、むちゃくちゃ疲れます。向かう先といえば、空爆を受けた直後に遺体が次々と運び出されたり、周囲を見渡せば誰かが自動小銃を持って目を光らせたりしているような現場ばかり。防弾チョッキは重くて暑く、肩もバリバリに凝る。ひとつの判断ミスが、重大な事故につながるかもしれない。自分だけではなく、カメラマン、通訳、ドライバーの安全を脅かすことに繋がるかもしれない。誰かが、武装勢力に拉致される可能性もある。ですから、特に紛争地から帰ると、大量のアドレナリンで動いていた体が突然スイッチオフになり、パタッとなります。
「なんでそんな危険なところに社員を行かせるんだ!」と視聴者からお怒りの声が届くときもありますが、どうかご安心してください。今挙げた危険な要素は、的確な準備と訓練を積めばかなり高いレベルで排除できます。だからこそ、明日も、明後日も、現場に立ち続けられるのです。

Schedule of one day

7:00

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起床、デモの取材現場へ。実弾が飛び交うため、必ず防弾チョッキを着用。一緒に映るのは寺島カメラマンと、ガザのフィクサー・イマド君です。

11:00

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現場を移動し、空爆現場の周辺を取材。すでに空爆は終わっているため、防弾チョッキは着用しません。日本のニュースの時間に合わせて中継したり原稿を執筆したり。速報のため、取材の合間に撮影した映像素材を伝送することもあります。

13:00

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中東はトイレ事情が悪いため、基本的に昼食は取らずに取材継続。この時はガザを実効支配するイスラム組織ハマス関係者にインタビュー。こうした組織の上層部は大体流ちょうに英語を話せるため、インタビューに困ることはありません。往々にして、こうした幹部の子供の多くは欧米で高等教育を受けている、という事実もあります。かなり複雑です。

17:00

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移動する車両には、誤爆されないように必ず「PRESS」と書かれたステッカーを貼ることを忘れずに。

19:00

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取材終盤には、情報源の扱いや内容に気を付けながら、最新情報をツイート。でも実際のところ、私はかなり気軽に投稿してしまう性格なので、頻繁に炎上します。東京の幹部はドキドキしているかもしれません…

22:00

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取材が全て終われば、フィクサーやドライバーと一緒に夕食。その後宿舎に戻り、その日の取材内容をまとめた原稿の執筆などをします。翌日のプランなどを練るのに時間がかかり、就寝が深夜1時前後になってしまうことも。

Outside work

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day off

休日のほとんどは、妻と子どもと過ごします。公園に行き、海にドライブに行き、ちょっと奮発した食材でバーベキューをしてみんなで舌鼓を打つ。子どもたちと農場でニンジンを掘り、川でマスを釣って塩焼きにする。家族と一緒に自然を満喫することで、心も癒されます。日常の大切さを噛みしめる瞬間は、いかに自分たちが恵まれているか、心から実感できる時でもあります。

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college life

完全に“多動”でした。体育会スキー部で活動する一方、文系の中で一番を争うほど忙しいと言われたゼミに所属し、NPO法人の事務局員を務め、自然好きがこうじて環境NGOでもインターン。寝泊まりは基本、部活の合宿所かゼミの研究室。たまにある休みは、趣味の釣りに費やしていました。

Message

ここまで読んで頂き、「なんかよくわからんけどスゲー」と少しでも思って頂けたら、作戦大成功です。なぜなら、私は全然スゲーくない人だからです。むしろ、未だに原稿を書くのに苦戦し、ケアレスミスも多く、出張のたびに何か大切なものを忘れてくる、とてもヌけた欠点だらけの人間です。締め切りもいつもウルトラギリギリ。唯一自信があるものといえば、自分の経験から得たモノくらいです。でも実はそれは、就活にも当てはまるものだと思っています。
大切なのは、「経験したこと」ではなく、「経験から得たモノ」です。就活に向けてアピールポイントを作ろうと、ドラマチックな経験を積もうとする人がいますが、それこそ墓穴を掘るような行為かもしれません。例えばですが、ただ単に「世界一周をした」という経験よりも、「バイト先で差別を目撃した経験」から「人々の普段の表情の下に隠れるヘイト感情」を身をもって知っている人の方が、よっぽど人間的な魅力があるように感じます。
どんな経験をしてきたのかは、人ぞれぞれ。それだけで人の魅力を測られるなら、それこそ今すぐ借金して世界一周してきてもよいかもしれません。そこまでやれば、その行動力が面白ポイントにはなりますが、そういう話ではありません。あなたが過ごしてきた日々は、あなたしか経験してこなかった時間です。それがバイトでも、旅行でも、ケンカでも、トラブルでも良い。そこから何を感じて、どんな成長があったのか、思い出してみてください。自分の身に起きたことですから、その時の周囲の視線、景色、音、においなど、隅々まで思い出せるはずです。その出来事から、自分という人間がどう変わったのか。言葉に出来たとき、その経験はあなただけの宝物になると思います。いつかあなたの宝物の話をお聞かせください!現場でお待ちしております。

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