監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”|日曜劇場『ブラックペアン』

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監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”
本作の医療監修を担当している山岸先生に、
「ブラックペアン」にまつわるさまざまなギモン
お答えしていただくコーナーです

vol.41話の医学的解説①

第1話の手術シーンなどについて、山岸先生に医学的な解説をしていただきました。

佐伯式の凄さ

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大人の心臓の手術は大きく分けて3種類あります。
1. 冠動脈バイパス術と言って心臓の周りにある血管(1〜2mm)に迂回路(バイパス)を作る手術。
2. 弁膜症手術:心臓の中にある扉(弁)を修理(形成)するか取り替える(置換する)手術。
3. 大動脈手術:瘤になった大動脈や壁が割れてしまった(解離した)大動脈を人工血管に置き換える手術。
<佐伯式とは>
佐伯式とは弁(心臓の中の扉)を修理する手術です。ただ扉の修理と言っても心臓の中はたくさんの血液に満たされていますので、そのまま心臓を切って中の扉を修理することは不可能です。人工心肺という心臓と肺の代わりになる機械を使い、さらに心筋保護液(心臓を止め、かつ心臓を保護してくれる液)を冠動脈に注入して心臓を止めて手術をするのが一般的です。佐伯式は人工心肺を使う(オンポンプ;on pump)ものの、心臓を止めずに心臓が動いたまま(オンビート;on beat)僧帽弁を修理する手術です。
普通の扉を修理すると考えてください。人がわんさか通り、開いたり閉じたりしている扉をそのまま修理するのは難しいですよね。普通は人が通らないようにして、修理に取り掛かるはずです。
佐伯式は扉を人がわんさか通る中、扉が動いている中、修理してしまうようなものです。心臓の弁や、心臓の筋肉は非常にデリケートですので、動いている状態で修復する(針糸で縫合したりする)のは非常に難しいです。少しでも針先が狂えば組織が裂けていき、取り返しがつかないことになります。それを天才佐伯教授は100分の1mmのくるいもなく完遂してしまう。まさに神業です。
佐伯式のメリットは主に2点あると思います。
心臓を止める(心筋保護液で安全に止める)ことにより、心臓の筋肉は多少の障害を負いますが、佐伯式は心臓を止めませんので、心臓の筋肉の障害を押さえられる可能性があります。また心臓を動かしたまま修復を行いますので、弁の中を血液が通過する状態で、つまり実際の弁の動きを見ながら修復できます。扉を修理して、その後たくさんの人に実際通ってもらったら、また壊れてしまったということがないということです。
※現在の僧帽弁手術は特殊な状況でない限りは、安全に心臓を止めて行っております。心筋保護技術が非常に進んでいますので心停止をしたからといって心筋障害が明らかに進むということはありませんのでご心配なく。

横山の失敗(急性大動脈解離の手術)と
渡海の凄さ

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佐伯式の手術予定であった特別室の宮崎さんが急性大動脈解離になってしまいます。急性大動脈解離は突然大動脈の壁の内側に裂け目(亀裂:エントリー)が入り、大動脈の壁が裂けてしまう病気です。壁が裂けて血液は壁の中にどんどんと入っていってしまいます。壁は薄くなりひどい時には大動脈は破裂し大量に出血して命を落としてしまう場合があります。非常に怖い病気で発症した時には半分の方はその場で亡くなってしまうとも言われています。発症頻度は1年間に10万人中5人前後との報告がありますので、頻度としては少ない病気ですが、有名人の方々もこの病気にかかられ一時期話題となりました。
心臓から大動脈が出て全身に血液が流れるのですが、心臓から出てすぐの大動脈の部分を大動脈基部と言います。その上を上行大動脈と言います。上行大動脈の壁が割けている状態をA型解離といい、緊急手術の適応となることが多いです。診断は造影CTで行います。宮崎さんは造影CTを行い上行大動脈に解離があり、緊急手術となりました。
解離の手術では壁の内側の裂け目(亀裂:エントリー)がある部分を人工血管に取り替えます(置換する)。裂け目をそのままにするとどんどん血管の中に血液が入っていってしまうからです。A型解離の場合、上行大動脈の内側に裂け目(エントリー)があれば、上行大動脈を人工血管に取り替えなければならず、その上の弓部大動脈に裂け目があればトータルアーチと言って上行大動脈から弓部大動脈まで人工血管に取り替えなければなりません。基部に裂け目がある場合は基部を取り替えなければなりません(基部置換術または基部再建術)。
つまり大動脈の内側のどこに裂け目があるかを見つけてその部分を人工血管に取り替えなければならないのです。宮崎さんの場合、モニターを見て佐伯教授が「上行大動脈(の内側)に裂け目があるな。横山、上行置換しておけ」と指示を出します。これは的確な指示で、上行大動脈に裂け目(エントリー)がある場合は上行大動脈を人工血管に取り替える手術をしなければなりません。ただ、オペレーター(執刀医)は必ずやらなければならないことがあります。基部の内側に裂け目(エントリー)がないか、入り込んでいってないかを確認しなければならないのです。もし基部に裂け目を残したままにすると、そこからどんどん血液が基部の血管の壁に入っていって、ひどい場合は破裂してしまいます。心臓外科医として当たり前のことを教授の指示を鵜呑みにした横山は怠ってしまったのです。実際上行置換をした後に基部から大出血をするということは、私自身は経験ないのですが、十分にあり得るシチュエーションです。そうなったら、まさに横山のように頭がパニックになります。基部が破裂してしまうと、基部から出ている冠動脈(心臓自体に酸素や栄養を送るための血管)への血流が減少してしまうために、心臓が痙攣してしまいます(心室細動)。冠動脈への血流が落ちてしまうということは、心臓の筋肉にきちんと血流がいかないということですので心筋はだんだん弱ってしまいます。モニター室の高階が「そろそろ時間切れになるぞ」と言ったのは「冠動脈の血流が落ちてしまって心筋に血液が行かずにもう少ししたら心筋障害が進んでしまって取り返しがつかなくなるぞ」ということです。このようなシチュエーションになったら、再度大動脈(この場合は人工血管)を遮断して心筋保護液を流して心臓を止めて(保護して)、基部を取り替えなければなりません(基部置換または基部再建術)。渡海は冷静に「はい、基部の再建するよ〜遮断鉗子」と言ってあっさりと基部の再建を行います(基部再建は結構大変な手術です)。あまりの手技の早さに助手2人も圧倒され、全く手が出ていません。通常であれば、手術は執刀医がいて第一助手がいて、第二助手がいて皆で協力して手術を行うのですが、渡海は一人ですべてできてしまいます。助手を必要としないほど能力が長けているのです。それは他の外科医の能力を全く当てにしていない、自分の領域には誰も到達できないと確信している証拠でもあります。できないやつは下手に触るんじゃねーということの現れです。外科医の中には自分の失敗を人のせいにする外科医がいます。やれ助手が悪いだとか、麻酔科が悪いだとか、看護師が悪いだとか…。「問題はその指示を鵜呑みにして基部を確認せずにオペを続けた執刀医にある」。すべての責任は執刀医にある。渡海は外科医として非常に当たり前の事を身をもって体現しているのです。
次回は「渡海の判断力」などについて解説していただきます。
お楽しみに。

PROFILE

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イムス東京葛飾総合病院 
心臓血管外科
医長 山岸俊介
日本外科学会外科専門医
日本心臓血管外科学会専門医
2006年慶應義塾大学医学部卒業。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
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