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監修ドクターが解説 “片っ端から、教えてやるよ。”
本作の医療監修を担当している山岸先生に、
「ブラックペアン」にまつわるさまざまなギモンに
お答えしていただくコーナーです
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vol.154話医学的解説①
第4話もかなり深い、マニアックな内容でした。
どこから説明したらいいか悩ましいのですが、僧帽弁閉鎖不全症を患った小春ちゃんの前に、急性僧帽弁閉鎖不全症、感染性心内膜炎の患者さんも出てきました。
今回は急性僧帽弁閉鎖不全症(急性MR)について解説したいと思います。
どこから説明したらいいか悩ましいのですが、僧帽弁閉鎖不全症を患った小春ちゃんの前に、急性僧帽弁閉鎖不全症、感染性心内膜炎の患者さんも出てきました。
今回は急性僧帽弁閉鎖不全症(急性MR)について解説したいと思います。
急性心不全と急性MR
病棟で急変(急に患者さんの容態が悪くなること)し、垣谷先生と世良先生が患者さんのもとに向かいます。
ここはほとんど映像ではわからないのですが、世良先生は直前に撮った胸部レントゲン写真を垣谷先生に見せて、垣谷先生はそのレントゲン写真を見て
「急性心不全です。酸素と利尿剤を用意して!!」
と言います。高階先生は心エコーを見て、
「急性のMRか!!緊急手術が必要だ。スナイプで手術する。」
と指示を出します。
この2フレーズがどういうことかを解説します。
まず垣谷先生が言った心不全という言葉ですが、「心不全」とは病気の名前ではありません。よく「病名」と間違われるのですが、心不全とは体が必要としている血流を心臓が十分に供給できない状態を示します。このような状態を表す名称を「症候名
と言ったりします。「風邪」も「症候名」です。なんとかウイルス感染、なんとか菌感染等色々な病気があり、咳をしたり、鼻水が出たりなどの風邪症状が出るのです。
心不全は呼吸が荒くなったり、顔色が悪くなったり、冷汗をかいたり等の症状があり、胸部レントゲン写真で診断できることが多いです(もちろん胸部レントゲン写真の他、色々な採血とか心電図とかの検査はします)。
垣谷先生と世良先生が医局(医者たちのデスクがある部屋)で電話をとった時に、「胸部レントゲン写真をオーダーするから撮って、心エコーをベッドサイドに持ってきておいて」という指示が看護師に入ったはずです。それで垣谷先生は世良先生がパソコンに出したレントゲン画像と、患者さんの状態を見て、急性心不全ですと高階先生に報告しました。
ここでまた急性という言葉が出てきましたが、言葉の通りいきなり起こる状態変化を医学的に急性と言います。ゆっくり悪くなる状態変化を慢性と言います。
なので、急性心不全というのは急激に心臓が全身に血流を送れなくなっている状態と言えます。
我々循環器に携わっているものは「心不全」という音を聞いた瞬間に、その原因は何かを検索しようとします。心エコーがベットサイドに用意されていたのはそのためです。心エコーは今までも何回か出てきましたが、高周波数の超音波を心臓にあてて、返ってくるエコー(反射波)を機械で感知して、心臓の中の状態を映像化し調べる検査です。
高階先生は急いで心エコーを行い
「急性のMRか!!緊急手術が必要だ。スナイプで手術する。」
と指示を出すのですが、ここでのポイントは急性MRです。
MRとは僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation)の略なのですが、実際よく使う略語です。急性のMRとは何らかの原因で僧帽弁という心臓の左のお部屋を分けている扉がいきなり壊れてしまった状態です。
今まで登場されてきた患者さんの多くは、僧帽弁を患っていましたが、急性ではないのです。ゆっくりとじんわりと僧帽弁(扉)が壊れてきて、なんか少し息が苦しいなとか、階段が登りにくいなという症状が出て病院を受診して、僧帽弁疾患の診断に至ります。利尿剤の内服などで病状を安定させることはできますので、手術の前は別に普通にされています。
しかし急性MRはいきなり僧帽弁が何らかの原因で壊れてしまいますので、血液の流れが急に変わってしまいます。左心室から大動脈を経て全身に流れるはずの血液が、僧帽弁が壊れ左房に逆流してしまいます。こういった状況を血行動態が急に変化すると言ったりします。血行動態がゆっくりとじわじわと変化するのであれば体は驚かないのですが、急激な変動が起こると体はついていけないのです。急激な血行動態の変化に身体がついていけないために、いきなり症状が襲ってきます。酸素を含んだ血液が全身ではなくて、左房、肺の方向に流れてしまいますので、肺は水浸しになり、全身はいわば酸素欠乏に陥ります。はあはあはあはあと酸素を取り込もうと一生懸命呼吸するのですが、肺が水浸しになると酸素をうまく取り込めない状態になります。全身には酸素を取り込んだ血液が流れにくくなっていますので、ますます苦しくなり、溺れているような状態になってしまうのです。
この急性MRの原因はいろいろ考えられるのですが、何の原因もなく弁の一部が裂けてしまったり、切れてしまったり、また心筋梗塞が背景にあったり、今回のように細菌の感染が原因のこともあります。
一般的には急性のMRはできる限り早く手術をしたほうが良い場合が多いいです。垣谷先生はセオリー通り「酸素と利尿剤」の指示を出します。酸素をうまく取り込めませんので、酸素を十分に投与し、水浸しになった肺から利尿剤で水を取ってあげます(状況状況で変わるかもしれませんが、場合によっては心不全をコントロールしてから手術をする時もあります)。
高階先生は緊急手術を選択し、スナイプにより手術を行うと指示を出しました。
ここはほとんど映像ではわからないのですが、世良先生は直前に撮った胸部レントゲン写真を垣谷先生に見せて、垣谷先生はそのレントゲン写真を見て
「急性心不全です。酸素と利尿剤を用意して!!」
と言います。高階先生は心エコーを見て、
「急性のMRか!!緊急手術が必要だ。スナイプで手術する。」
と指示を出します。
この2フレーズがどういうことかを解説します。
まず垣谷先生が言った心不全という言葉ですが、「心不全」とは病気の名前ではありません。よく「病名」と間違われるのですが、心不全とは体が必要としている血流を心臓が十分に供給できない状態を示します。このような状態を表す名称を「症候名
と言ったりします。「風邪」も「症候名」です。なんとかウイルス感染、なんとか菌感染等色々な病気があり、咳をしたり、鼻水が出たりなどの風邪症状が出るのです。
心不全は呼吸が荒くなったり、顔色が悪くなったり、冷汗をかいたり等の症状があり、胸部レントゲン写真で診断できることが多いです(もちろん胸部レントゲン写真の他、色々な採血とか心電図とかの検査はします)。
垣谷先生と世良先生が医局(医者たちのデスクがある部屋)で電話をとった時に、「胸部レントゲン写真をオーダーするから撮って、心エコーをベッドサイドに持ってきておいて」という指示が看護師に入ったはずです。それで垣谷先生は世良先生がパソコンに出したレントゲン画像と、患者さんの状態を見て、急性心不全ですと高階先生に報告しました。
ここでまた急性という言葉が出てきましたが、言葉の通りいきなり起こる状態変化を医学的に急性と言います。ゆっくり悪くなる状態変化を慢性と言います。
なので、急性心不全というのは急激に心臓が全身に血流を送れなくなっている状態と言えます。
我々循環器に携わっているものは「心不全」という音を聞いた瞬間に、その原因は何かを検索しようとします。心エコーがベットサイドに用意されていたのはそのためです。心エコーは今までも何回か出てきましたが、高周波数の超音波を心臓にあてて、返ってくるエコー(反射波)を機械で感知して、心臓の中の状態を映像化し調べる検査です。
高階先生は急いで心エコーを行い
「急性のMRか!!緊急手術が必要だ。スナイプで手術する。」
と指示を出すのですが、ここでのポイントは急性MRです。
MRとは僧帽弁閉鎖不全症(Mitral Regurgitation)の略なのですが、実際よく使う略語です。急性のMRとは何らかの原因で僧帽弁という心臓の左のお部屋を分けている扉がいきなり壊れてしまった状態です。
今まで登場されてきた患者さんの多くは、僧帽弁を患っていましたが、急性ではないのです。ゆっくりとじんわりと僧帽弁(扉)が壊れてきて、なんか少し息が苦しいなとか、階段が登りにくいなという症状が出て病院を受診して、僧帽弁疾患の診断に至ります。利尿剤の内服などで病状を安定させることはできますので、手術の前は別に普通にされています。
しかし急性MRはいきなり僧帽弁が何らかの原因で壊れてしまいますので、血液の流れが急に変わってしまいます。左心室から大動脈を経て全身に流れるはずの血液が、僧帽弁が壊れ左房に逆流してしまいます。こういった状況を血行動態が急に変化すると言ったりします。血行動態がゆっくりとじわじわと変化するのであれば体は驚かないのですが、急激な変動が起こると体はついていけないのです。急激な血行動態の変化に身体がついていけないために、いきなり症状が襲ってきます。酸素を含んだ血液が全身ではなくて、左房、肺の方向に流れてしまいますので、肺は水浸しになり、全身はいわば酸素欠乏に陥ります。はあはあはあはあと酸素を取り込もうと一生懸命呼吸するのですが、肺が水浸しになると酸素をうまく取り込めない状態になります。全身には酸素を取り込んだ血液が流れにくくなっていますので、ますます苦しくなり、溺れているような状態になってしまうのです。
この急性MRの原因はいろいろ考えられるのですが、何の原因もなく弁の一部が裂けてしまったり、切れてしまったり、また心筋梗塞が背景にあったり、今回のように細菌の感染が原因のこともあります。
一般的には急性のMRはできる限り早く手術をしたほうが良い場合が多いいです。垣谷先生はセオリー通り「酸素と利尿剤」の指示を出します。酸素をうまく取り込めませんので、酸素を十分に投与し、水浸しになった肺から利尿剤で水を取ってあげます(状況状況で変わるかもしれませんが、場合によっては心不全をコントロールしてから手術をする時もあります)。
高階先生は緊急手術を選択し、スナイプにより手術を行うと指示を出しました。
4話の解説を書き出したらすごく長くなりそうですが、お付き合いください。
次回以降は感染性心内膜炎と小春ちゃんの病状についてです。
次回以降は感染性心内膜炎と小春ちゃんの病状についてです。
PROFILE
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イムス東京葛飾総合病院
心臓血管外科
心臓血管外科
医長 山岸俊介
日本外科学会外科専門医
日本心臓血管外科学会専門医
日本心臓血管外科学会専門医
2006年慶應義塾大学医学部卒業。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
仙台厚生病院、埼玉医大国際医療センター、イムス葛飾ハートセンターを経て、現在イムス東京葛飾総合病院心臓血管外科医長。
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- vol.32:あとがき
- vol.31:最終話医学的解説
- vol.30:9話医学的解説②
- vol.29:9話医学的解説①
- vol.28:8話医学的解説②
- vol.27:8話医学的解説①
- vol.26:7話医学的解説③
- vol.25:7話医学的解説②
- vol.24:7話医学的解説①
- vol.23:6話医学的解説③
- vol.22:6話医学的解説②
- vol.21:6話医学的解説①
- vol.20:5話医学的解説③
- vol.19:5話医学的解説②
- vol.18:5話医学的解説①
- vol.17:4話医学的解説③
- vol.16:4話医学的解説②
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- vol.11:2話医学的解説③
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- vol.9:2話医学的解説①
- vol.8:“スナイプ”って?
- vol.7:治験とは?
- vol.6:1話の医学的解説③
- vol.5:1話の医学的解説②
- vol.4:1話の医学的解説①
- vol.3:治験コーディネーターとは
- vol.2:“インパクトファクター”とは?
- vol.1:“医療監修”とは?
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