特集

2021年7月18日「特集『イルリサット・アイスフィヨルド』

氷山がもたらす海の恵み

イルリサット・アイスフィヨルドで生まれた氷山は、カナダ沖まで流れ、船の運行を妨げることもあります。しかし、海の生物に意外な影響を与える存在でもあるのです。

──氷河から生まれた氷山は、その後どうなるのでしょうか?

柳沢:イルリサット・アイスフィヨルドの氷山は、1年ほどフィヨルドの中を漂い、やがて外海へと出ていきます。そして、およそ2年かけてカナダ沖にまで到達します。110年ほど前、このアイスフィヨルドから大西洋へ出た氷山が、あのタイタニック号と衝突したのです。

フィヨルドから流れ出た氷山は海流に乗り、崩れたりしながらも大西洋を1800キロ以上南下し、およそ2年をかけてカナダ沖に流れ着きます。

──あの歴史的事故の原因となった氷山は、この世界遺産で生まれたのですね。

柳沢:はい。番組では、イルリサットの沖合に流れ出た氷山も紹介します。撮影をしていたとき、船が起こした波によって突然小さな氷山が浮き上がってくるところをカメラに収めました。また、島のように巨大な氷山の一部が崩れる瞬間も撮影できました。地響きのような音がしたと思ったら、近くにあった氷山が崩れたのです。真上から落ちてきたわけではありませんが、それでもすごい音と波が立っていたので、ぜひご覧ください。

──巨大な氷山が突然崩れるとはちょっと恐ろしいですね。

柳沢:そうですね、崩れたりする話だけだと氷山は恐ろしい存在に感じるかもしれません。ただ、番組では少し違った面も紹介します。実は、氷山は海の生き物や漁師に恵みをもたらすこともあるのです。

──氷山が一体どんな恵みをもたらすのでしょうか?

柳沢:「氷山の一角」という言葉のとおり、氷山は海上の部分より海面の下にずっと大きなかたまりがあります。その氷山の底から溶け出す淡水は海水より軽いため、上昇します。その結果、海を撹拌して深海の栄養分を浮上させるのです。すると、その栄養分を求めて集まるプランクトンを目当てに、魚がやってきます。漁師たちは、そんな魚を狙って、氷山の近くで漁をします。私の目の前で、大きなカラスガレイやタラといった魚が大量に網で引き上げられていました。そして漁師だけでなく、クジラもやってくるのです。

氷山の底が海中で溶けることによって、深海の栄養分を浮上させ豊かな漁場を生み出します。

──氷山は大きさだけでなく、自然環境に与える影響もダイナミックなのですね。氷山に俄然興味が湧いてきました。

柳沢:番組では、地球温暖化がイルリサット・アイスフィヨルドに与える影響も紹介しています。2000年以降、加速度的に氷が溶け出して氷河が大幅に後退しているのです。グリーンランドでは、氷河から取り出した太古の氷を分析して気候変動の調査を進めています。

グリーンランドの内陸にある氷河の末端では、氷が溶け出す様子が見られます。イルリサット・アイスフィヨルドの氷河も入江の奥へと加速度的に後退しています。

──氷河や氷山に起こっている変化を意識して番組を見てみてもいいかもしれませんね。最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

柳沢:イルリサット・アイスフィヨルドは、どの場所もとにかく絶景で、「ここで写真を撮ると誰でもカメラマンになれるんじゃないか」と思えるほど、素晴らしいシーンばかりです。特に、穏やかな海に氷山が逆さ富士のように映っている姿が、忘れられないぐらい美しかったです。また、どこを見ても涼しく感じられる番組になっていますので、ぜひご覧になって日本の夏の暑さを忘れていただければと思います。

どこを取っても絶景のイルリサット・アイスフィヨルド。涼しげで美しく迫力ある映像をお楽しみください。

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