特集

2021年6月20日「特集『リドー運河』

冬は市民の通勤経路スケートリンクになる運河

ロックを通り抜けカナダの自然の中を進む、運河の船旅。その最後にたどり着いたのは、湖畔に築かれた要塞でした。

──リドー運河の船旅ではどんな風景が見られるのでしょうか? 見所を教えてください。

柳沢:まずスタート地点は、首都オタワの国会議事堂の横にある「オタワロック」です。8段ものロックが連なっていて、1時間半かけて高低差25mを上ります。オタワロックを抜けると、オタワの街の中を流れる緩やかな運河へ進みます。ちなみに、このオタワ中心部の運河は冬になると凍結してスケートリンクとして解放されます。全長7.8kmの世界最長のスケートリンクとして有名です。運河周辺の住人の中には、冬になるとスケートリンクをスケート靴で滑って通勤通学する人がいます。自転車や自動車だと信号で止まらなければいけないけれど、スケートだとまっすぐ行けるから早いそうです。

オタワの国会議事堂の横にある8段ロック。これらのロックを通り抜けると高低差25mの丘の上に船が上ります。

オタワ市内の運河は冬になると世界最長のスケートリンクに様変わり。スケートを履いた市民の道としても使われています。

──運河が市民の生活の一部なのですね。その先はどうなっているのでしょうか?

柳沢:オタワから郊外を流れるリドー川という川にそって運河が作られています。リドー川はもともと流れが急なので、運河を作って所々ロックで行き来できるようにしたのです。ロックを超えると広い水辺がある箇所が見られます。それらは、川を堰き止めて大きな船も運河を通れるようにした人工の湖なのです。そうした湖を通り抜けて、天然のリドー川へ進みます。このようにリドー運河は、自然の地形を利用しながら作られたので、6年という比較的短期間で完成したということです。

──短期間で完成できた秘密は、元の地形を利用したということなのですね。

柳沢:川だけでなく自然の湖も運河の一部です。オタワの起点から距離で100kmほど、高低差でいうと80mほど上がったあたりまで運河を進むとリドー湖をはじめ、多くの湖が点在するエリアになります。ここから先はキングストンへ向けて逆に下っていくのです。この部分は、湖と湖をつなぐようにロックが作られました。湖を訪れた人たちが美しい自然の中をカヌーやボートなどで気持ちよさそうに楽しんでいるのがすごく印象的な場所です。

穏やかな水辺と木々の緑といったカナダの大自然の中を船は進みます。

──運河の終点にあたるキングストンとはどんなところですか?

柳沢:北米五大湖で最も小さな湖、オンタリオ湖の湖畔の街です。19世紀イギリスの植民地だったカナダとアメリカが緊張状態にあった時、オンタリオ湖を挟んで対アメリカの最前線であるキングストンに要塞が築かれました。そこに軍隊や物資を運ぶルートを確保するために作られたのが、リドー運河だったのです。この運河が短期間で作られたのにはそうした事情がありました。

──そんな物々しい目的で作られた運河が、現代では平和で穏やかな場所になっているのは意外です。

柳沢:番組では、オンタリオ湖畔にある要塞が旅の終点です。運河建設後、結局アメリカとカナダの間で戦争は起こらず、リドー運河が軍事物資の輸送のために使われることはありませんでした。

──戦争が起こっていたらと考えると、リドー運河が当時のまま守られていることの価値が改めて理解できました。最後に番組をご覧になる視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

柳沢:お話ししたように、リドー運河は建設当時の最新技術の粋を集めて作られているのですが、実際に訪れると大自然の中で本当にゆったりとした時間が流れる場所でした。番組では、そういった運河の旅の雰囲気を楽しんでいただければと思います。

オタワロックからオンタリオ湖湖畔までをつないだリドー運河は、造られた当時のままの姿が守られていることで世界遺産になりました。

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