特集

2020年9月6日放送「中央運河の水力式リフト」

のどかな水辺に現れる巨大な建造物

19世紀から20世紀にかけて、ヨーロッパの重要な運輸網だった運河。新しい運河が作られ、中央運河は運輸網としての役割を終えたのです。

──100年前に、丘を越えてまでこの場所に運河が造られたのはどういう理由があったのでしょうか?

杉井:当時のヨーロッパにおいて運河は重要な運輸網でした。ヨーロッパの運河網は総延長5万キロにも及びます。この中央運河が作られたことで、ドイツとフランスの往来をそれ以前より短くすることができたのです。

──当時は、今以上に運河の貨物船が重要な物資輸送の手段だったのですね。

杉井:はい。中央運河ができたことで、特に石炭の輸送量が大幅に増えました。石炭は当時需要が高く、「黒いダイヤ」と呼ばれるほど貴重な資源でした。この地方は、19世紀から20世紀にかけて炭鉱業が盛んだったのです。ベルギーは、イギリスに次いで、ヨーロッパ大陸では先駆けて産業革命を達成していました。石炭を、国内の製鉄所へ運んだり、他の国へ輸出したりするために中央運河が東西につながることが重要とされていたのです。

ヨーロッパの物流を担っていた運河網。その昔ベルギーは炭鉱業が盛んで、中央運河の開発も石炭運搬の需要に応えるものでした

──中央運河は今も運輸網として使われているのでしょうか?

杉井:いえ、現在は観光や保養などの船の通行に利用されているだけです。中央運河の横に並行して新しく「新中央運河」が2002年に完成しました。1350トンクラスの船が通れるように幅が広くなっています。現在、貨物船はこちらを通っています。

──新中央運河はどのようにして高低差を越えているのですか?

杉井:やはりリフトです。ただ、こちらは1つのリフトで高低差73mを一気に上下します。さすがに水力ではありません。プール同士がピストンで動くのではないのですが、ケーブルでつながったコンクリートブロックとプールが動くのは、100年前に作られたリフトと同じく天秤の原理です。この巨大なリフトが上下する仕組みも番組ではご紹介します。

2002年に完成した新中央運河。高低差73mを上下する巨大なリフトが圧巻です。

──100年前のものと現代の、両方の最新技術が見られるのですね。

杉井:のどかな水辺の風景に突如として現れる、巨大な建築物は新旧どちらも圧巻です。

中央運河は現在、かつて貨物船だったものを改良した遊覧船が行き交っています。

──最後に視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

杉井:100年の時を経て、石炭を運んでいた貨物船は、のんびりと旅を楽しむ遊覧船に変わりました。また最近では、船をわが家として運河の水上生活を楽しむ人も増えているそうで、中央運河で暮らす人もご紹介します。昨年、紅葉の季節に撮影した美しい運河の風景をご覧になって、気分だけでもヨーロッパ旅行を楽しんでいただければと思います。

中央運河には、人が暮らしている船も浮かんでいます。ベルギーでは港を住所として登録できるとのこと。

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