特集

2020年9月6日放送「中央運河の水力式リフト」

水の力で船を持ち上げる100年前の脅威の技術

ベルギー南部のエノー州にある中央運河。およそ100年前、ここに、水の力だけで動く、船のエレベーターが建造されました。ヨーロッパの重要な運輸網であった、この運河について杉井ディレクターに話を聞きました。

今でも滑らかに動く100年前の巨大な機械

中央運河を通すため、水力だけを使って稼働する船のエレベーターが4機、建造されました。それらは現在も動いていて利用されています。

──今回の「中央運河の水力式リフト」とは、どんな世界遺産なのでしょうか?

杉井ディレクター(以下、杉井):中央運河は、ベルギーの南部にあり、全長21kmほどありますが、そのうちおよそ7kmが文化遺産に登録されています。その7kmの運河と周辺の設備や橋が世界遺産に含まれますが、中心となるのはやはり4機の水力式リフトです。

──運河の「リフト」というのはどういったものなのでしょうか?

杉井:ひと言で言うと、船のエレベーターです。この運河には、短い区間にもかかわらず高さ67mという急傾斜の丘があり、その高低差を越えるために4機の水力式リフトが建造されたのです。

中央運河は一見すると川のようですが、すべて人工的に作られた水の流れです。

──「水力式」というと、電気などは使っていないということですか?

杉井:はい。リフトが建造された当時、この地域にはまだ電気が通っていなかったということもありますが、石炭や石油などの燃料も使わず、水だけで動く仕組みを作り上げたのです。

──水力に対するこだわりが感じられますね。それは、いったいどんな仕組みなのでしょうか?

杉井:それぞれのリフトには、2つのプールのような箱が横に並んでいます。当時の運河で航行していた300トンの貨物船がちょうど収まるサイズのプールです。このプールを支えるピストンの下に水が貯められていて、片方が下がると一方が上がる仕組みになっています。プールの中の水の量を調整してバランスを変えることで、天秤のように動くのです。言葉でこの仕組みをお伝えするのは少し難しいのですが、番組ではアニメーションなどを使って解説していますのでチェックしてみてください。

運河の高低差を越えるための水力式リフト。2つのプールの水量を調整すると、プールの下にあるピストンが天秤のような仕掛けで上下するのです。

──100年前にそんなすごい技術が確立していたとは驚きです。

杉井:水漏れを起こさないために密閉性の高いリベット(鉄びょう)を使うなど、当時の最先端技術をベルギーは持っていたのです。優れた技術はリフトのいろいろなところで使われていて、例えば、重さ5トンもあるプールの水門も水力を使ったタービンで開け閉めしています。これらは今も動いていて、それを使って船が運河を通っているのです。

鉄材をしっかりと留めるリベットの技術や、水門を動かす水力タービンなど、建造当時最先端の技術が使われていました。

──100年前の仕組みが今も動いているとはすごいですね。

杉井:はい。このタイプのリフトは、当時ほかにも数機建造されましたが、現在も水力のみで稼働しているのはここだけです。実際に船でリフトに乗ってみたところ、動きもスムーズで「本当にこれが水で動いているの?」と驚くほどでした。リフト以外にも当時のもので残っているのが、手動で回転させたり跳ね上げて船が通れるようにする橋です。それらが今も使われている様子を番組では紹介しますので、ぜひご覧ください。

運河を渡る低い橋は旋回したり、跳ね上がったりして、船が通れるようになっています。電気を使わず人の手の力で動かすのです。

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