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2020年5月17日放送「古代都市シーギリヤ」

1500年前に築かれた絶景の天空宮殿

1982年に登録されたスリランカの世界遺産、シーギリヤ。岩山に築かれた宮殿や壁画、水利システムなど、1500年前のこの土地の王国が豊かな文化と高度な技術を擁していたことがわかります。今回は、古代都市シーギリヤの文化や技術をさまざまな角度から捉えるべく撮影に挑んだ田口ディレクターに話を聞きました。

シーギリヤと対をなすもう1つの聖地の山

巨大な岩山に築かれた天空の宮殿「シーギリヤ」。そしてそれと並ぶようにそびえる、もう1つの岩山。この地に存在する2つの聖地の関係を紐解きます。

──今回の「古代都市シーギリヤ」とは、どんな世界遺産なのでしょうか?

田口ディレクター(以下、田口):スリランカ北部にある文化遺産で、今から1500年ほど前、高さ180メートルほどの巨大な一枚岩の頂上に、シンハラ王朝のカッサパ王が作り上げた宮殿の跡です。現在は、レンガ積みの基礎部分が残っているだけですが、かつてはその上に木造の宮殿があり、王族が暮らしていました。

──「古代都市」ということですが、どれぐらいの人が住んでいたのでしょうか?

田口:世界遺産の登録名には「古代都市」と付いているのですが、実際は都市というほど大きな街には発展しなかったようです。岩山の周囲には堀があり、その中には水が貯められた人工の池や大きな岩がゴロゴロと転がっている庭園があります。この堀や庭園を含めた王宮が、1982年に文化遺産に登録されています。

密林の中に忽然と浮かぶ巨大な岩石。シーギリヤの宮殿は、この岩山をまるごと利用して作られました。

──シーギリヤは「世界遺産」の番組として3回目の登場だそうですね。今回とこれまでの取材でどこが違いますか?

田口:まず撮影自体では、今回はドローンを使って撮ったのが特徴です。岩山の頂上に作られた宮殿なので、過去2回の取材ともヘリなどによる空撮は取り入れていましたが、ドローンだと今までとはまた違った見え方になっていると思います。例えば、正面の庭園入り口付近の地上近くの様子から上昇して、シーギリヤ全体の庭園や岩山の配置が見渡せる映像を撮ることができました。

岩山と庭園の位置関係や、頂上に登るための階段が岩のどこにあるのかなど、雄大なシーギリヤを一望できるさまざまな映像をお届けします。

──巨大な岩や庭園をクローズアップから全体まで一望できるのは楽しみです。

田口:そのほかに位置関係を捉えた映像で、注目していただきたいのは、シーギリヤのライオンの足です。

──「ライオンの足」ですか? それはいったい何ですか?

田口:シーギリヤの岩山を登る入り口にある、岩でできた巨大なライオンの前足です。かつては、足の上に頭もあったと考えられています。この宮殿の入り口の向き、つまりライオンの前足は、北の方を向いています。ところが麓にある庭園は、岩山の西側にあります。そうした位置関係も、ドローンによる映像で紹介しています。

ライオンの足の方向を向いたままドローンを上昇させていくと、その方角にもう1つの山、ピドゥランガラが奥に見えてきます。

──庭園とライオンの足が違う方角を向いているのはなぜなのでしょう?

田口:それについては諸説ありますが、一説には、北の方角に重要な場所があるからだと言われています。ライオンの足から上昇して、全体を引いて見たときに、足の方向に、もう1つの岩山「ピドゥランガラ」が見えてきます。同じぐらいの巨石の山が2つ並んでいるのです。こうした表現も、ドローンだからこそ実現できました。

シーギリヤ(右)とピドゥランガラ。二つの巨大な岩山が並んだ雄大な景色を放送でご覧ください。

──ピドゥランガラは、シーギリヤとどんなつながりがあるのでしょうか?

田口:もともとこの土地では、仏教が入ってくる以前から巨石信仰があり、この2つ岩山は対になった聖地だったようです。一方の巨石の上には宮殿が作られ、もう一方は信仰の聖地のまま残されたのでしょう。シーギリヤにはもう1つ北の方向を指すものがあります。それは、シーギリヤの巨石に描かれた女性(天女)たちの壁画です。この壁画は、スリランカを代表する芸術品で、19世紀後半にイギリス人の学者によって発見されました。そこに描かれた女性たちを見てみると、皆、手が左を指していたり、左の方向に何かを持っていたりしています。その左の方向に、ピドゥランガラがあるのです。

巨石に描かれた女性たち。その多くは風化し、失われてしまいました。現在18体ほどが残っており、そのすべてが左を向いているといいます。

──レディたちが指した方向に聖地があるとは、非常に興味深いですね。

田口: 1500年前にこの宮殿が作られた時代も、2つの山が神聖な土地で、王もおそらく祈りを捧げていたのではないでしょうか。そうした信仰が、天空宮殿の入り口を北に向けたり、北を指した絵を描いたりした理由だと思われます。

ピドゥランガラから見たシーギリヤ(奥)。ピドゥランガラには、涅槃像など仏教信仰の形跡が今も残っています。

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