特集

2020年4月5日/12日「インド洋の秘境 豊かな海とゾウガメの楽園を抱く環礁」

潮の満ち引きが生む巨大なリングの内と外のつながり

リング状の島、アルダブラ環礁。そのリングの内側と外側には、潮の満ち引きによってつながった生態系がありました。

火山の麓に広がる 美しい棚田

バリ島にさまざまなところで棚田の風景が広がっている秘密は、島の地質にありました。火山山頂付近にある湖の水が、地下を通じて麓まで流れてくるのです。

──今回の「アルダブラ環礁」は、どのような世界遺産なのでしょうか?

小澤ディレクター(以下、小澤):アルダブラ環礁は、インド洋の西、セーシェル共和国の世界遺産です。首都ビクトリアがあるマヘ島から1000km以上、アフリカ大陸から500kmも離れた場所にあります。環礁はリング状に連なった島でできています。リングの東西の長さは30kmあり、陸地面積では世界で2番目に大きなサンゴ礁です。固有種のゾウガメが住んでいることで知られています。

──「放送25年スペシャル」とのことですが、「アルダブラ環礁」のどんなところが特別なのでしょうか?

小澤:セーシェルの憲法には自然保護の理念が記されています。そのため、アルダブラ環礁は通常、自然保護のために研究者以外は立ち入り禁止です。番組開始当初から、ずっと取材を望んでいた世界遺産でしたが、なかなか許可が下りませんでした。しかし、数年にわたる交渉の結果、やっと撮影の許可がもらえたのです。

陸地面積では世界で2番目に大きな環礁である「アルダブラ環礁」。セーシェルの自然を保護することは憲法に明記されています。

──セーシェルの首都から、どのようにして環礁へ行ったのでしょうか?

小澤:アルダブラ環礁へは、まずマヘ島からチャーター機で飛ばないとならないのですが、出発直前にサイクロンが続けて2つも来たため、1週間も足止めされてしまいました。いざ出発となり、チャーター機に乗る際に、植物の種や昆虫の卵など外来種を持ち込まないよう、カバンの中や靴の裏まで念入りにきれいする必要がありました。それほど厳格に自然が保護されているんです。

マッシュルームロックと呼ばれる、潮の満ち引きで削られた奇妙な形の岩。ほかにも環礁の内側には、さまざまな造礁サンゴが育っています。

──たどり着くのにも大変な世界遺産なのですね。

小澤:そうですね。ようやく飛んだチャーター機の窓から、南洋の青い海に浮かぶリングが見えてきました。アルダブラ環礁です。環礁には飛行場がないので、近くの島にいったん着陸。さらにボートで2時間かかりました。上陸したアルダブラ環礁は、起伏がない岩だらけの土地でした。そんな秘境にも関わらず、唯一の宿泊所である研究施設は意外と設備が整っていたので驚きました。雨を貯めた水を使ったシャワーやトイレが備わっていて、電気も太陽光発電で供給されているのです。食事も美味しく、波音や鳥の鳴き声のみが聞こえ、夜は星空がきれいという、素晴らしい場所でした。

──待望の世界遺産での取材では、どんな映像が撮影できたのでしょうか?

小澤:番組の前編では、環礁のリングの内側と外側の海の世界を紹介します。ちなみに後編ではアルダブラゾウガメをたっぷりご紹介します。リングの周囲や内側は浅瀬になっていて、潮の満ち引きで6時間おきに水位が3m以上も変化するため、ボートで移動できるのは、満潮時に限られています。日本から水中カメラマンを同行して海中の撮影に臨んだのですが、普通なら1回のダイビングで何時間も撮れるところが、せいぜい1時間程度しか撮影できないという厳しい条件でした。

アルダブラ環礁では、干満によって大きく水位が変化します。そのため、環礁の浅瀬をボートで移動できるのは、潮が満ちているときに限られます。

──限られた時間で撮影された貴重な映像なのですね。実際に海では、どんなものが撮れたのでしょうか?

小澤:リングの外側では、とても魚が豊富で透明度の高い美しい海が撮れました。内側の浅瀬には、奇妙なかたちをしたマッシュルームロックや、やがてサンゴ礁となる造礁サンゴがあり、マングローブ林が広がっています。大型の魚が入ってこられないため、小さな魚がたくさんいて、それを狙う海鳥も多くいます。

環礁に広がるマングローブ林。タコの足のように根が張った浅瀬は、小魚の隠れ家となっています。

グンカンドリやカツオドリといった海鳥も、アルダブラ環礁には住んでいます。

──リングの内側と外側は別々の生態系があるんですね?

小澤:いえ、実はそうとも言えないんです。環礁のリングの切れ目、内と外をつなぐ水路は、干満で起こる水の流れが激しいのですが、潮が引く際に、水路から白い水が流れ出ます。これは、マングローブに住む海鳥が落としたフンや魚の死骸が海水に溶け込んだものです。この水がリングの外に流れ出して、プランクトンの栄養分となり、プランクトンを食べに小魚が集まり、小魚を食べに大きな魚がやってきます。リングの内と外は、そうした潮の満ち引きでつながっているのです。

引き潮のときにリンクの切れ目の水路から、プランクトンの栄養となる白い水が、外の海に流れ出ています。この流れによって、リングの内と外が1つの生態系となっているのです。

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