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2020年3月22日「火山島バリを覆う巨大水路網」

火山島バリの棚田を潤わす 巨大な水路網

リゾート地として知られる、インドネシアのバリ島。この島には、ビーチだけでなく、人々が長きに渡って開拓してきた棚田の美しい風景があるのをご存じでしょうか。棚田に水をもたらす灌漑の仕組みとそこで暮らす人々の共同体のさまざまなシーンを4Kで撮影してきた日下ディレクターに話を聞きました。

火山の麓に広がる 美しい棚田

バリ島にさまざまなところで棚田の風景が広がっている秘密は、島の地質にありました。火山山頂付近にある湖の水が、地下を通じて麓まで流れてくるのです。

──まずは今回の「火山島バリを覆う巨大水路網」とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

日下ディレクター(以下、日下):インドネシアのバリ島にある文化遺産です。バリ島は火山島で、もともとは溶岩で覆われた荒れた土地でしたが、そこに独特な方法で稲作を発達させた結果、みごとな棚田が広がっているのです。

──バリ島といえば、ビーチリゾートで有名ですが、そんな棚田があるとは知りませんでした。

日下:リゾートの中心地は島の南部ですが、島の内陸部では古くから農業が盛んなのです。その農業で作られた棚田や独特な水利システム、バリ・ヒンドゥーの信仰と結びついた哲学などを含めて文化的景観として世界遺産に登録されています。

バリ島の火山の麓に連なる棚田。山の雄大さと組み合わさって独特な風景が生み出されています。

──実際にはどのような景観を見ることができるのでしょうか?

日下:まずはやはり美しい棚田の風景です。代表的な「ジャティルイの棚田」はバリ島でも最も大規模な棚田で、火山の麓に広がる景色は雄大です。ほかにも渓谷の傾斜など、島のさまざまな場所で棚田が見られます。取材に行ったのは1月だったのですが、バリ島の中では、この同じ時期に田植えをしている田と稲刈りが行われている田がありました。

──同じ地域の中で田植えと稲刈りが同時期に行われているなんて、日本ではあまり見られない光景ですね。

日下:そうした稲作が可能な理由は、バリ島は水が豊富なことがあります。バリ島周辺の海域は雲ができやすく、その雲が火山にぶつかり雨を降らせ、湖に水が溜まります。バリ島の火山の山頂にあるバトゥール湖はそうした湖の1つで、バリ島の水源と言われています。

水が豊かなバリの棚田では、稲の二期作、三期作が可能で、同時期に収穫と田植えが行われることもあります。

──山頂の湖が麓の棚田に水をもたらしているのですか?

日下:バリ島の地下には、かつての噴火でできた溶結凝灰岩という地層があります。多孔質の岩である溶結凝灰岩は地下水をよく通し、麓のさまざまな場所で湧き出しているのです。

──湖や地下に水が蓄えられるので、一年中、水が豊かなのですね。

日下:はい。バトゥール湖の南にあるティルタンプル寺院は、水が湧き出してくる場所の1つに建てられた、バリ・ヒンドゥーの寺です。ここでは、聖なる水が体を浄化させると信じられていて、大勢の人々が沐浴をしに集まってきています。水は沐浴場からジャングルへ水路を通じて、付近の渓谷にある棚田へ流れていっています。このように豊富な水のおかげで、バリ島の棚田では二期作、三期作が可能になっているのです。

地下を通った水が湧き出るティルタンプル寺院では、大勢の人々が列をなして沐浴をしていました。

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