特集

サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月17日(日) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第四回

・プーアル茶の名産地が世界遺産に?

 今年の世界遺産委員会の会場はサウジアラビアの首都リヤドの超高層ビル、アル・ファイサリア・タワーにある巨大バンケットルームです。メインの議場の他にも、コーヒーなど飲み物とサンドイッチといった軽食が無料で提供されている部屋もあり、意見交換をする世界遺産関係者で賑わっています。写真はその入り口。左右のモニターで上映しているのは、当番組の映像です。「映像で記録し、未来に残す」という形でTBSと番組が世界遺産に貢献していることを、各国の関係者に伝えるために映像展示をしています。

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アル・ファイサリア・タワー内の世界遺産委員会の会場

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コーヒーブレイクルームで提供されている軽食

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コーヒーブレイクルーム入り口での番組映像の展示

 このコーヒーブレイク・ルームの一角に、突然、中国のプーアル茶を振る舞うコーナーが現れました。少数民族の衣装を着た女性たちが、愛想良く試飲を勧めています。実は今回、雲南省のプーアル茶の産地が新しい世界遺産の候補になっていて、中国がそのアピールのために行っていたのです。

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無料で振る舞われる普洱茶

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民族衣装で普洱茶をアピールする女性陣

 果たしてプーアル茶の名産地は世界遺産になることができるのか。注目の審議が、17日の世界遺産委員会で始まりました。と、思ったらわずか4分で世界遺産入りが決定。諮問機関ICOMOS(ICOMOS)が事前に出した勧告は「世界遺産登録がふさわしい」というもので、委員会ではどの国からも全く異論が出ず、即決で承認されたのです。
 中国政府代表団は大喜び。世界遺産登録が決まると、その国の代表団が謝辞を述べる「サンキュー・スピーチ」を行うのですが、中国代表団の背後にはプーアル茶を振る舞っていた民族衣装の一群も整列。スピーチの間、プーアル茶をアピールする横断幕をかかげて盛り上がっていました。

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普洱茶産地の世界遺産入り決定で喜ぶ中国代表団

 今回に限らず、世界遺産委員会の会場で、自国の世界遺産が決まると一番盛り上がるのが中国です。プーアル茶のときも歓声がなかなか止まず、次の審議に移ることが出来ないので、サウジアラビアの議長が苦笑しながら静粛にするよう求めていました。

・怒濤の新登録ラッシュ!13の世界遺産が誕生

 今年の世界遺産委員会は、延期されていた2022年分と2023年分の二年分の審議を決められた期間に終えなければならず、例年にないスピードで進行しています。
 これまではICOMOSなど諮問機関が事前に「新登録にふさわしい」と勧告している場合、採決の前に「おめでとう」的な発言をする委員国がかなりありました。新しい世界遺産の誕生を言祝ぐ雰囲気は暖かく、悪いものではなかったのですが、議事進行的には結論に影響がないので、審議時間の浪費という面もありました。今回の審議では、委員国からの「おめでとう」的発言はほとんどなく、提言や異論・反論など、事前勧告からの変更を求めるときに発言するようになっています。先ほどの中国のプーアル茶の場合も、どの国も異論がなく、従って発言もなく、それで即決になったわけです。
 こうした議事進行の変化もあって、17日は13の文化遺産が新たに決まりました。これほど多くが一日に決まったのは記憶になく、驚異的なスピードです。

 まずは、中国のプーアル茶の産地。「普洱の景邁山古茶林の文化的景観」として登録されました。

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プーアルの景邁山古茶林の文化的景観

 ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタンの三カ国にまたがる「シルクロード : ザラフシャン・カラクム回廊」。

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シルクロード ザラフシャン・カラクム回廊(ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン)

 エチオピアのコーヒー産地、「ゲデオの文化的景観」。

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ゲデオの文化的景観(エチオピア)

 カンボジアの古代遺跡、「コー・ケー : 古代リンガプラ(チョック・ガルギャー)の考古遺跡」。

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コー・ケー 古代リンガプラ(チョック・ガルギャー)の考古遺跡(カンボジア)

 モンゴルの遺跡、「鹿石および青銅器時代の関連遺跡群」。

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鹿石および青銅器時代の関連遺跡群(モンゴル)

 韓国の古代遺跡、「伽耶古墳群」。これも決まったときは、韓国代表団は大盛り上がりでした。

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伽耶古墳群(韓国)

 インドの大学を中心とした街、「サンティニケタン」。

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サンティニケタン

 かつて交易を担ったキャラバン隊の宿泊施設を一括で登録したのが、イランの「ペルシアのキャラバンサライ」。

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ペルシアのキャラバンサライ(イラン)

 カナダのゴールドラッシュ時代の遺構、「トロンデック=クロンダイク」。

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トロンデック=クロンダイク(カナダ)

 デンマークの「ヴァイキング時代の円形要塞群」。

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ヴァイキング時代の円形要塞群(デンマーク)

 ドイツの街に残る遺構、「エアフルトの中世ユダヤ人関連遺産」。

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エアフルトの中世ユダヤ人関連遺産(ドイツ)

 ラトビアの古い町、「クルディーガ旧市街」。

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ラトビアの古い町、「クルディーガ旧市街」。

 そして、パレスチナ自治政府が推薦していた「古代エリコ / テル・アッスルターン遺跡」も新たな世界遺産になりました。これは紛争地のヨルダン川西岸にある遺跡で、世界最古の街のひとつ。イスラエルはユダヤ人の遺跡であるとして、今回の世界遺産登録に反対しており、新たな火種になる可能性も出てきました。

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古代エリコ テル・アッスルターン遺跡(パレスチナ)

・拡張登録が2件

 また既存の世界遺産を拡大する形のものが2件、決まりました。
 ひとつが「ヒルカニアの森林群」。2019年にイランの自然遺産として登録されたものを、今回、アゼルバイジャンの森にも拡張することになりました。
 もうひとつが、アフリカの国ベナンの文化遺産「クタマク、先住民バタマリバの地」。バタマリバ陣の居住地は2004年にトーゴでも世界遺産に登録されているのですが、今回、ベナンの居住地にも拡大されました。

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ヒルカニアの森林群(イラン、アゼルバイジャン)

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クタマク、先住民バタマリバの地(ベナン)

明日以降も、新しい世界遺産の審議が続きます。

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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