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サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月15日(金) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第二回

・サウジアラビアでは金曜日は休日

 9月15日は金曜日。イスラームの世界では金曜日は集団礼拝をする「聖なる日」とされ、正午の礼拝を終え、家族みんなでご飯を食べるというのが習慣です。リヤドでの世界遺産委員会もこの日は午前中の審議は休みで、午後3時から始まりました。
 ここで今回の委員会の構成について、ちょっと説明します。ユネスコが提唱した世界遺産条約、これに加盟している国の中から21カ国が委員国となります(任期は6年)。開催国が議長をするので、今回の議長はサウジアラビアのアブドゥーラ・アル・トカイス博士。リヤドのキングサウード大学の助教授で、文化遺産と観光が専門とのことです。他の委員国は、日本、アルゼンチン、ベルギー、ブルガリア、エジプト、エチオピア、ギリシャ、インド、イタリア、マリ、メキシコ、ナイジェリア、オマーン、カタール、ロシア、ルワンダ、セントビンセント及びグレナディーン諸島、南アフリカ、タイ、ザンビアの20カ国です。
 審議対象となる国の代表団も来ていますが、今回の審議はこの21の委員国で行っていきます。昨日に引き続き、すでに世界遺産に登録されているものの保全状況がこの日のテーマでした。

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サウジアラビアの首都リヤドで開催中の世界遺産委員会

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サウジアラビアの議長アブドゥール・アル・トカイス博士

・地震でトルコの文化遺産が被害

 今年2月に発生し、マグニチュード7.8を記録したトルコ・シリア大地震。この地震で、トルコ南部の世界遺産「ディヤルバクル城塞とヘヴセル庭園の文化的景観」が被害を受けました。古代ローマに遡る遺跡で、ディヤルバクルの城壁は万里の長城に次ぐ長さともいわれます。
 このトルコの文化遺産について、委員会でも審議が行われました。
 世界遺産委員会では、事前に専門家集団に評価・勧告をしてもらい、それを土台に議論していきます。文化遺産の場合はICOMOS(イコモス、International Council on Monuments and Sites=国際記念物遺跡会議の略称)が行うのですが、その事前勧告は「危機遺産入りにするべき」でした。しかしオマーン、エジプトなど複数の委員国から「復旧の進行を見定めてからで良いのでは」という意見が出て、今回の危機遺産入りは持ち越し。次回の世界遺産委員会で、再度、審議されることになりました。

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地震被害を受けたトルコの文化遺産・ディヤルバクル城塞

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ディヤルバクル城塞とヘヴセル庭園の文化的景観の危機遺産入りの審議1

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ディヤルバクル城塞とヘヴセル庭園の文化的景観の危機遺産入りの審議2

・ウクライナの2つの世界遺産が危機遺産に

 今回の世界遺産委員会の大きなテーマのひとつが、ロシアによるウクライナ侵攻。この戦争から、どうやって世界遺産を守っていくのか、ということです。
 すでに今年1月に行われた世界遺産委員会臨時会議で、ウクライナの黒海に面した街・オデーサが世界遺産(登録名称は「オデーサ歴史地区」)に緊急登録され、同時に危機遺産に指定されました。 危機遺産に指定しても、物理的な攻撃を防ぐことは出来ないのですが、国際社会の意思を示し、ロシアに圧力をかけることで、文化遺産の破壊を阻止しようという試みです。
 今回の世界遺産委員会でも、ウクライナの2つの文化遺産を世界遺産に登録し、同時に危機遺産にするよう、事前勧告が出ていました。首都キーウの聖ソフィア大聖堂とペチェールシク大修道院と関連する修道院群、そしてリヴィウ歴史地区です。
 その審議が始まったのですが、ロシアが自由に発言できる委員国に入っていることもあり、さぞや激論になるかと思いきや、どこからも異論反論が出ることなく、すんなりと危機遺産入りが決まりました。水面下での事前の調整が行われていたのかもしれません。
 危機遺産入りが決まった後、ウクライナの政府代表団がスピーチしたのですが、委員会で採択された危機遺産入りの決議文に「ロシア」という表現がないということに不満を表していました。
 ともあれ、これでウクライナには3つの危機遺産があり、国際社会がその保全を支援しやすい体勢が出来たことになります。

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今年1月に危機遺産に指定されたウクライナ「オデーサ歴史地区」1

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今年1月に危機遺産に指定されたウクライナ「オデーサ歴史地区」2

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第65回1997年07月27日キエフ:聖ソフィア大聖堂と関連する修道院建築物群

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キエフ=ペチェールスカヤ大修道院(ウクライナ)

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今回危機遺産になったウクライナ「リヴィウ歴史地区」

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キーフとリヴィウの危機遺産入りの審議1

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キーウとリヴィウの危機遺産入りの審議2

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危機遺産が決まった後スピーチするウクライナ代表団

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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