特集

2023年6月18日放送「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」

過酷なパタゴニアで生き抜いた人類

膨大な時間をかけてアフリカから南米まで到達した我々、ホモサピエンスは、厳しい環境のパタゴニアで暮らすために、この谷と洞窟を選びました。

──壁画を描いたテウエルチェの祖先とは、どんな人々だったのでしょうか?

内田:20万年前にアフリカに誕生したホモサピエンスが長い時間をかけて南米の南端までたどり着いたのが、1万1000年ほど前だと考えられています。実は、アフリカ、ヨーロッパ、南米の他の土地など、さまざまな場所に同じような手形の壁画が残っているのです。手の洞窟には9300年前の手形がありますから、南米到達からまもなくこの地で壁画を描き始めたのでしょう。

──アフリカからはるばる南米大陸の南まで人類が移動してきた歴史の証拠なのですね。

内田:実際に現地で取材すると、パタゴニア地方は乾燥していて、常に強風が吹いている過酷な環境であることがよくわかりました。おそらく、この地にやってきた人々の暮らしも楽でなかったと思います。今回の番組では洞窟だけでなく、周辺の風景もお見せすることで、かつて人々がパタゴニアでどんな暮らしをしていたのかを想像していただけると思います。

地層が露出した不思議な絶景。かつて海の底だった時代の地層も含まれていて、カラフルな模様が見られます。

──パタゴニアのどのような風景が見られるのでしょうか?

内田:カラフルな模様の地層が露出した不思議な場所や極度な乾燥のためにできた塩類の川など、まるで地球外の惑星かのような生命感がない風景が見どころの1つです。先ほども話したようにパタゴニア地方は風が強く、撮影はとにかく風との戦いでした。風圧でカメラの三脚が動いてしまいそうになるのを、取材スタッフ総出で防いだりしていました。

風圧で三脚が動かないように、風を防ぎながら撮影するスタッフ。パタゴニアの風と戦いながら、さまざまな絶景を撮影してきました。

──それは過酷な撮影ですね。パタゴニアがいかに厳しい環境かがうかがえます。

内田:一方で、手の洞窟があるピントゥラス川の渓谷はごく限られた、水が豊かで緑が多い場所です。荒涼とした土地と緑豊かなピントゥラス川沿いのギャップを映像でご覧いただければ、南米にたどり着いた人類がこの土地に住み着いた理由がよくわかると思います。

乾燥により土の中のミネラルが結晶として浮き出した塩類の川。一方、ピントゥラス川の渓谷は水が豊富で草木が生い茂っています。

──手形を残した人々の秘密に迫る番組が楽しみです。最後に視聴者へのメッセージをお願いします。

内田:世界遺産の取材を私が担当するのは今回が2回目で、海外取材は初でした。治安が悪そうな場所を通ったり、撮影の段取りがうまくいかなかったり、機材にトラブルがあったらどうしようと悩んだり、ずっとなにかしら心配しながらの取材でした。苦労しましたが、おかげで期待を超える素晴らしい映像をカメラに収めることができました。パタゴニアの荒涼とした大地の絶景と、そこに暮らした人々の「存在の証」とも言える洞窟壁画をぜひご覧ください。

洞窟に残された謎の手形とパタゴニアの壮大な絶景をお楽しみください!

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