特集

2022年6月19日放送「琉球王国のグスクと関連遺産群」

サンゴが生んだ聖なる城の謎

今回の世界遺産は、500年以上前、沖縄本島に造られたグスクと呼ばれる城と、それらに関連する遺産の数々です。単なる軍事施設ではなく、祈りを行う聖なる場所でもあるグスク。琉球王国の独特な文化を現在に伝える、この世界遺産の取材を担当した天野裕士ディレクターに話を聞きました。

謎の技術によって築かれた巨大な山城

サンゴ由来の琉球石灰岩で造られたグスク。その建造には未解明の高度な技術が用いられていました。

──今回の世界遺産は、「琉球王国のグスクと関連遺産群」ですね。グスクとは沖縄地方で「城」にあたる言葉だということですが、具体的にはどういったものなのでしょうか?

天野ディレクター(以下、天野):12世紀から15世紀に沖縄各地の豪族が築いた城です。当時の建物は現存しておらず城壁や基礎が残っています。有名な首里城もグスクの1つですが、世界遺産に登録されているのは正殿の基壇の遺構です。2019年の火災で焼失した正殿の建物などは戦後に再建されたもので、世界遺産には含まれていません。

12世紀から15世紀に沖縄各地の豪族が築いた城であるグスク。美しい曲線を描いた石造りの城壁が特徴です。

──本土で見られる城と沖縄のグスクに違いはあるのでしょうか?

天野:グスクの城壁で特徴的なのは、石灰岩を積み上げて築かれている点です。もともとグスクは、琉球石灰岩と呼ばれるサンゴなどが堆積してできた岩盤の上に造られました。また本土の石垣は直線的なものが多いのに対して、グスクでは曲線を多用している点が特徴です。座喜味城(ざきみじょう)跡にある城壁は、アーチ式ダムの構造に似た美しい曲線を持っています。番組では、こうしたグスクをドローンによる空撮などでたっぷりお見せします。

石と石を隙間なく積み上げた座喜味城の石垣やアーチ門。文献などが残っておらず、どのように石を加工して造られたのかは謎なのです。

──曲線を持つ城壁とはユニークですね。空撮映像が楽しみです。

天野:番組では、石を積み上げた技術にも注目しています。中城城(なかぐすくじょう)跡は、6つの郭が連なる山城で、この城壁は石を多角形に加工し、ぴったりかみ合うように積まれています。これをどのように加工したのかがわかるような道具や文献は見つかっておらず、グスクの大きな謎となっています。マチュピチュなどのインカ文明の精巧な石積み技術にも似ているように感じました。世界的に見ても高度な技術を持っていたことは確かです。

中城城跡の城壁は石を多角形に加工し、ぴったりかみ合うように積まれています。

──マチュピチュと似た石垣とは驚きました。その作り方が謎なのも興味深いです。

天野:グスクのもう1つの特徴は、自然の岩山の上に造られている点です。首里城の西にある玉陵(たまうどぅん)は国王が眠る陵墓なのですが、やはり石灰岩の岩山に造られていて、その岩盤の一部が残されています。これは、自然に最後までは手を加えないという、沖縄独特の美意識の表れだと私は思います。

石灰岩の岩山の上に築かれた、国王が眠る陵墓、玉陵。石灰岩の岩盤の一部がそのままに残されています。

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