特集
2021年8月22日特集 奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島「西表島と沖縄島北部」編
水面を花畑に変える満月に咲く花
もとは大陸と地続きだったこの陸地が島となり、そこに残された生き物が独自の進化を遂げ、ここでしか見られない生き物を育む環境が生まれました。
──「奄美大島、徳之島、沖縄島北部及び西表島」にはなぜ、ここにしか見られない動物が多いのでしょうか?
伊良波:太古の昔、この島々は大陸と地続きでしたが、地殻変動で大陸から分かれて島になりました。その後、島に残された動物たちが環境に適応して独自の進化を遂げました。ということで、固有の生き物がたくさん生息しています。番組では、ヨナラ水道という、海面の上昇によって海に沈んだ谷の跡を、空撮の映像でお見せします。悠久のダイナミックな地球の変化を感じられるようなシーンなので、ぜひご覧ください。
サンゴ礁が途切れて深い青色になっているヨナラ水道。海面変動によって海に沈んだかつての谷です。
──もとは大陸とつながっていて、それが分かれたことがこの島々に固有種が多い理由なのですね。
伊良波:大陸では絶滅した、木の上で暮らす齧歯類のケナガネズミや、やんばる固有のキツツキであるノグチゲラ、去年新種と発表されたヤエヤマカジカガエル、全長最大30cmにもなるトカゲの仲間のサキシマカナヘビなど、この世界遺産でしか見られない動物を番組ではお見せします。
木の上で暮らすケナガネズミやトカゲの仲間のサキシマカナヘビをはじめ、独自の進化を遂げた、さまざまな希少動物が生息しています。
──本当に珍しい生き物が豊富な場所なのですね。
伊良波:動物だけでなく、珍しい植物もあります。特に注目していただきたいのはサガリバナです。東南アジアなどに分布する熱帯の植物なのですが、西表島にはその木が多く自生しています。サガリバナの花は、マングローブの森の奥で夏の夜に咲きます。花が咲くと、あたりが甘い香りで包まれ、ハチなどの虫を引き寄せるのです。花が特に美しく咲くと言われる満月の夜に撮影したのですが、月夜に開く繊細な花は、その香りと相まって妖艶な印象を私は受けました。
──月夜に咲く妖艶な花とは、映像が楽しみです。
伊良波:さらに夜が明けるとサガリバナの花が落ちて、川の水面を漂います。水面が花畑のようになり、本当に美しい光景でした。その落ちた花は、カニやカメなどの餌となります。サガリバナも島の環境の一部として循環しているのです。
夏の月夜に花を開かせるサガリバナ。夜明けには落ちた花が水面を花畑に変えます。
──さまざまな生き物がつながって独特な環境が保たれているのですね。
伊良波:今回、さまざまな固有種などを取材していく中で、それらを育む環境についても考えさせられました。番組では西表島のピナイサーラの滝やマングローブの森など、スケールの大きな自然の姿も紹介しています。そうした、貴重な生き物が生きる環境について、番組をご覧になった皆さんも思いを馳せていただければ嬉しいです。
西表島北部にある、沖縄県最大の落差55mのピナイサーラの滝や、緑の絨毯のように広がるマングローブの森といった自然の絶景もお届けします。