特集

2019年8月25日「スケリグ・ヴィヒール」

大西洋の孤島 断崖の遺跡

古来と外来の融合が生んだ 独特の文化

岩だらけで断崖ばかりの孤島に修道院を築いた修道士たちは、なぜそんな過酷な環境に身を投じたのでしょうか? そこには、キリスト教だけでなく、古来のケルトの文化が深く関わっていたようです。

──スケリグ・ヴィヒールに渡った修道士たちは、なぜこの島に修道院を開いたのでしょうか?

江夏:スケリグ・ヴィヒールとは、「聖ミカエルの岩山」という意味で、キリスト教とにとって、そびえ立つ岩山は大天使ミカエルが降臨する場所として信仰されてきたのです。ただ、修道士たちがこの岩山を目指したのは、ミカエルへの崇敬だけでなく、キリスト教がアイルランドに伝来する以前からあった信仰と深い関わりがあったと考えられています。

キリスト教とケルト人の信仰が合わさった結果、修道士たちは西の最果ての島、スケリグ・ヴィヒールへ渡り、修行を重ね、修道院を築いていったのです。

──キリスト伝来以前の信仰とは、どのようなものなのでしょうか?

江夏:もともとアイルランドには、ケルト人が住んでいました。彼らは自然を崇め、岩に神聖な力が宿っていると信じた人々です。5世紀にアイルラインドにキリスト教が伝来し、布教の拠点として各地に修道院が建てられるようになると、ケルト文化がキリスト教に取り入れられて、独特のケルト修道院文化が生まれました。

──キリスト教とケルト人の信仰が融合していたということですか?

江夏:はい、そのように考えられています。ケルトの信仰とキリスト教がアイルランドで結びついた証として、ケルト十字架があります。アイルランド本島にある石造りの十字架には、十字のクロスした部分に太陽を象徴する円環が組み合わさっています。石に対する崇拝と太陽信仰の現れということです。また、ケルト十字架には、ケルト独特の渦巻き文様が刻まれています。この渦巻きは、「魂の再生」のシンボルなのです。またケルト人は、西の彼方に「死者が永遠に生き続ける再生の島がある」と信じていました。それが、西の果ての海に浮かぶスケリグ・ヴィヒールだったのです。そうしたケルトの信仰もあって、修道士はスケリグ・ヴィヒールを目指し、「魂の救済」を願い修行と祈りの日々を過ごしました。

ケルトの信仰とキリスト教の融合の証の1つ、ケルト十字架。そこに刻まれた渦巻き文様は再生を意味するといわれています。

──そうした独特な信仰の中で現れたのが、スケリグ・ヴィヒールの修道院なのですね。

江夏:島の修道院跡には、そこで一生を終えた修道士の墓が残っていて、やはり石造りの十字架が立っています。個人的な感想なのですが、この修道士の厳しい生き方は、日本の修験道の修験者と通じるところがあると感じました。古来の山岳信仰と仏教の融合が図られている点など、意外と日本人にも共感できる部分があるのではないかと思いました。

修道院跡には、修道士の墓があり、石の十字架が並んでいます。

──西洋の西端と東洋の東端に位置する文化に、互いに共通する部分があるとはとても興味深いですね。放送では、そういったことも意識して観てみたいと思います。最後に、視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

江夏:孤島の過酷な環境の話をたくさんしましたが、実際に取材で島に渡ってみると、過酷さだけでない島の違う面も目にしました。天候がいい日に切り立つ岩山の頂から見下ろす大海原の様子は、まるで天国かとも思えるほど美しい光景だったのです。ここに厳しい修行を求めて渡ってきた修道士も同じ景色を見て信仰を深めていたのかと思うと感動しました。番組では、その感動を少しでもお伝えしたく、絶景の映像をお届けします。ぜひご覧になってください!

晴れた日のスケリグ・ヴィヒールの山頂からの眺望は、この世のものとは思えないほどの絶景です。

天候のいい日には、アイルランド本島からもスケリグ・ヴィヒールが見えます。西の彼方に浮かぶ様子は、神の国へとつながる聖地にふさわしい神々しさがありました。

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