第4回世界陸上5000m代表の木村が1区区間賞候補
移籍組の充実で資生堂が3位以内に照準
内容
代表経験選手4人を擁す資生堂も、優勝候補の一角に名を連ねる。
今春加入した木村友香(25)の存在が大きい。移籍してくると5000m、1500mで連戦連勝。5000mで世界陸上標準記録を何度も破り、日本選手権に優勝して代表入りを決めた。クイーンズ駅伝でも1区の区間賞候補だろう。
1区で好スタートを切れば、3区で区間賞を3回取っている高島由香(31)が好位置で走り始めることができる。リオ五輪代表だった高島、4区のメリッサ・ダンカン(29)と代表経験選手たちがタスキをつなぎ、ピンクのユニフォームが先頭を走る展開も予想できる。
出場区間は未定だが、リオ五輪3000m障害代表だった高見澤安珠(23)も、入社前から続いていた長期不調から抜け出しつつある。
木村の加入で1区から先頭集団で
木村は世界陸上では予選落ち(15分53秒08)と力を発揮できなかったが、メンタル面の収穫があった。
「海外の選手たちのウォーミングアップを、種目に関わりなく観察していたのですが、顔が(自分のように)固まっている選手はほとんどいません。どんな舞台でも楽しみながら、結果も求める。そういう姿勢なら競技を楽しめてやっていけるのではないかと感じました」
それまで木村はおぼろげながら、自身の競技生活はそこまで長くならないのでは、と考えていた。それがドーハの経験で、「楽しみながら続けたい」という気持ちに変わった。
これは資生堂のチームカラーとも合致する。個性を認め、結果を急がせないのが川越学監督の指導方針だ。ドーハでは好成績を出せなかったが、木村は将来的にも期待できる。
肝心の現在の調子だが、本人は「春先の勢いはない」と控えめだ。世界陸上の疲れで10月のプリンセス駅伝を欠場。「11月に入ってまともな練習を始めた」という状況だ。
だが、川越監督の見たてはそこまで低くない。
「世界陸上から少し踵に痛みがあって、疲労も出てしまいましたが、ここにきてまた走れるようになってきました。キレは春よりないかもしれませんが、区間2〜3位でもいいので、8位くらいの集団を後半で一気に離してほしい」
トラックの木村のラストスパートを見ている人間からすると、勝ちきれない木村にはやや不満が残りそうだが、チームのためにどういう走りをするかが駅伝では重要なのだ。
木村自身も「1区は駆け引きが大事。上り、下りを使って対応していきたい」と話した。鮮やかなスパートではなく、粘って上位に食い込む木村の走りが見られるかもしれない。
3区・高島は「今年こそ区間賞を」と完全復活に意欲
エース区間の3区は、高島が4年連続で走りそうだ。
今年はマラソンで代表入りが最大目標だった。ところが2月に右脚大腿裏を痛め、3月の東京、4月のハンブルクと2本のマラソンは途中棄権。有効な治療法を見つけてやっと、7月後半からやっとスピード練習が再開できた。
10月のプリンセス駅伝3区が半年ぶりの実戦で、区間4位での5人抜きはさすがだった。
「練習通りの結果でしたね。後半でちょっとバテてしまったのは、故障期間で練習がつめきれていなかったのが原因です。チーム(11位)も、もう少し行きたかったですけど、あの時点のベストメンバーでした」
プリンセス駅伝の後半で課題を確認できた高島は、課題解消のための練習をこの1カ月でしっかりと行うことができた。
「ここ2年間区間賞を取れていないので(2年連続区間3位)、今年こそ区間賞を取ってチームに勢いをつけたいですね。予選会当時よりみんな良い状態になっていますし、木村も復活しているので面白そうです」
木村の加入が高島にとっても大きい。14、15、16年と3区の区間賞を3年連続取っているが、そのうち15、16年はトップでタスキを受け取っている。14年も3位で中継していた。
それに対して昨年は、14位でタスキを受けて追い上げないといけない展開だった。
「昨年も自分では区間賞ペースだと思って走っていましたが、前はそれより速いペースで行っていたのでしょう。自分のペースでガーッと押して行った方が、リズムも作りやすいし、区間賞も取りやすいのだと思います」
1区の木村が区間賞争いを演じれば、高島まで上位でタスキが来る可能性が高くなる。そうなれば高島本来の力が発揮され、3区で資生堂がトップに立つ可能性が大きくなる。
トレーニング&調整は個別メニューで
資生堂は3年前の16年大会で、2区、3区、4区とトップを走っている。1区の竹中理沙(17年シーズンで引退)が区間2位で中継し、2区の吉川佑美が区間9位ながらトップに立ち、高島が区間賞の走りで独走に持ち込んだ。だが4区で貯金を使い果たし、5区でJP日本郵政グループに逆転を許した。
今年も3区までは16年大会と同じ流れを期待できる。そして一番大きな違いは、4区に外国人選手のダンカンが控えていることだ。5000mの自己記録は15分18秒43で、15年北京と19年ドーハ、世界陸上2大会に豪州代表として出場している。
プリンセス駅伝は区間6位で順位を上げることができなかったが、「貧血気味で、トレーニングを省いたところがあった」という。「クイーンズ駅伝では11分20秒以内で、区間5位以内が目標」だという。それができれば資生堂が、4区終了時までトップをキープする。
そして5区、6区と粘りの走りができれば、目標の3位以内が現実となる。
リオ五輪3000m障害代表だった高見澤も2区か6区で出場する可能性がある。入社前に交通事故に遭ってから走りのバランスを崩して苦しんだが、2シーズン目で復調してきた。
「競技者として、駅伝という舞台に戻って来られたことは大きなこと。2年間苦しんだものを全て走りに出したいですね」
資生堂は木村、高島、田中華絵(29)、真柄碧(23)と移籍してきた選手が、ダンカンも含めれば5人と多い。受け容れてくれた会社に対し「感謝の気持ちがすごくある」(木村)とメンタル面のモチベーションは高い。
移籍選手が多いこともあり、資生堂は同じメニューでトレーニングを行わない。
ダンカンの練習は豪州人のコーチが基本的には立てているが、実施するにあたってはダンカンと川越監督ら資生堂のスタッフが話し合って決めている。
高島は青野宰明コーチと「マンツーマン(川越監督)の体制を、何年も続けてきた。木村は練習メニューを自身で立案し、岩水嘉孝ヘッドコーチがサポートして」行っている。
今村咲織(23)や高見澤ら新卒で資生堂に入社した選手たちは、川越監督や岩水ヘッドコーチがメニューの叩き台を作成し、本人と話し合って行っていく。若手選手たちは強化期に同じメニューを行うこともあるが、試合が近づいて調整段階になれば別メニューになるという。そのくらい資生堂は、個別性を重視している。
大半のチームは個人種目を狙う時期は個々のメニューでトレーニングを行っても、駅伝シーズンは負荷の高いポイント練習は、集団(全員)で同じメニューを行うケースが多い。
資生堂に移籍選手が多いことも一因だが、個別トレーニングに徹する理由を川越監督は次のように説明する。
「選手が納得する形でトレーニングを行いたいからです。一番良いのは選手1人1人のメニューを作ること。そして最後はそれぞれが駅伝に調子を合わせて、全員が最高の状態でレースに臨むのが理想です」
トレーニングは個別でも、駅伝があるからチームがまとまることができる。クイーンズ駅伝の上位に入ることで、資生堂が新しい形の強化スタイルを提案する。
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寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。