第1回“区間賞トリオ”で2連勝中の女王パナソニック
「今年は6人の力が試される駅伝」(安養寺監督)に
内容
2連勝中のパナソニックが、史上4チーム目の3連勝に挑む。
2年前は1区・森田香織(24)、2区・渡邊菜々美(20)、3区・堀優花(23)の3連続区間賞で独走態勢を築いた。昨年は1区・森田、3区・渡邊、5区・堀の3人が2年連続区間賞。2区でデンソーに並ばれるシーンもあったが、一度もトップを譲らず2連勝した。
今年も区間賞トリオがチームの軸であることに変わりはないが、「3人に頼るのでなく、総合力の底上げを年間テーマに取り組んできた」(安養寺監督)。過去2年、大きく差を詰められた4区の走りにその成果が現れそうだという。
17年大会は「のびのび駅伝」、18年大会は「ボンバイエ駅伝」を掲げて勝ち続けた。今年は「現状突破、昨年突破、3連覇」で仙台決戦に臨む。
区間賞トリオのこの1年
区間賞トリオは3年連続区間賞を狙うのか?
その質問に対し森田香織は「チームの優勝を一番に考えて走ります」と答えた。
「昨年も心の片隅では狙っていましたが、一番にやるべきことはチームのための走りです。駅伝は個人競技とは違うところもあります。その走りに徹した結果の区間賞でした」
今シーズンの森田は故障に苦しめられた。
6月の日本選手権5000mは7位に入賞したが、そのレース中に左足の痛みが悪化した。検査で舟状骨の疲労骨折が判明し、長期離脱を余儀なくされた。8月からやっと、負荷を少しかけた走りができるようになったが、10月初旬の国体5000mは14位に終わった。
駅伝に対しても「仕上がりは完璧ではありません」と、認めざるを得ない。それでも11月16日の日体大長距離競技会3000mを9分15秒05で走り、チーム内3位に入った。今年も1区起用が濃厚だが、2区の可能性もあるという。
どちらの区間になっても思い切ったレース展開というよりも、確実に上位に食い込む展開を意識して走ることになるだろう。
渡邊菜々美は「3年連続区間賞を狙うのか」の質問に、「区間賞というより元気に、のびのび走りたい。それでチームに貢献できれば」と答えた。
一昨年も昨年も、「香織さんが1区区間賞で流れを作ってくれたから取れた区間賞。自分の力で取ったとは思えません」と話す。
渡邊も日本選手権5000mの「一歩目から」力が入らず、レース中に痛みが悪化。6位に入賞したが「あと100〜200mあったら持ちませんでした」という。大腿骨の疲労骨折だった。
森田と同じように8月後半まで走れなかったが、短期間で状態を戻し、10月の国体は8位に入賞した。
それでも10〜11月の米国アルバカーキでの合宿では、「別の部位に痛みが出たりして、何度か(負荷の大きい)ポイント練習をずらしたり、抜いたりしました。昨年と比べると不安要素はちょっとあります」と言う。
だからこそ、区間賞を狙って意気込むより、自身の本来の走りである「のびのびと走ること」を意識して臨む。
堀優花だけは前述の質問に、「一応、狙っています」と積極的な言葉を口にした。
堀も4月にアクシデントがあった。足の指から細菌が入り、ふくらはぎに痺れが出る症状に悩まされた。5月の日本選手権10000mは欠場を勧められたが、「世界陸上の標準記録を破っていたので、あきらめたくなかった」と強硬出場(20位)。6月の日本選手権5000mはある程度回復して8位に入賞。そしてアルバカーキ合宿は順調にトレーニングができた。
「昨年の自分の走りをビデオで見たら、コースどりが下手だったとわかりました。夢中に走った結果ですが、もう少し最短コースを走っていたら、もっと良いタイムを出せていましたね。もう1回、区間賞を取りたいです」
2年前のように3区に起用される可能性もあるが、堀自身は「3区も良かったですけど、5区の方が楽しかった」と話している。
堀が5区で区間賞を取ることができれば、チームの3連勝に直結する走りになる可能性が大きい。
19歳・森の成長にパナソニックらしさ
入社2年目の森磨皓(もりましろ・19)が成長し、区間賞トリオに続く存在感を練習で見せている。
昨年のクイーンズ駅伝でも6区を任され、2連勝のテープを切った。区間9位ではあったがトップで受け取ったタスキを、フィニッシュまでその位置で運ぶ役目をしっかりと果たした。
と同時に、別の貢献の仕方もしていたという。
森は4区に起用される予定だったが、6区を走る予定の選手が仙台入りしてから体調を崩し、急きょ6区を走ることになった。4区の距離は3.6km、6区は6.795kmで、2倍に近い距離への変更になる。
その状況にも森は、まったく動じなかった。
「長い距離の方が好きなので、たくさん走れて嬉しい気持ちになりました」
安養寺監督は森の落ち着きが、急なメンバー変更によるチームの不安を打ち消してくれたと感じていた。
「7kmでも走れるか、と聞くと、『全然大丈夫です』と明るく答えてくれました。森が不安な様子はまったく見せなかったことで、優勝に向けてやるぞ、という雰囲気にチームがなることができた」
その森が、今年は走りでもチームの優勝に大きく貢献するつもりだ。
「去年はベストの40%の走りでした。それに対して今年は、夏前に故障が治り、それから練習が継続して積めていて、わりと良い状態なんです。今年は自分がチームを引っ張って行く走りをしたいと思っています」
士別で行われた実業団連合の合宿で、テーマとして“10日間で300km走る”ことが設定された。
「そのためには朝練習の集合前に、少しでも長くジョグをしようと考えました。最初は1km、次は2kmと伸ばして。それまでは歩くことしかやっていなかったんです。10月からのアルバカーキ合宿では2.5km、3kmと伸ばして行くことができました。そうすると本練習でジョグをするときのペースが自然と上がり、結果的に距離も多くなりました。その分、体のケアをしっかりしないと故障してしまいます。ストレッチや補強も以前より行うようにしました。(距離を走ると)1つを決めることで、色々なことをするようになりました」
自分で何が必要かを判断し、自主的に練習を行う。それがパナソニックというチームだ。
「やらされている感を持っている選手は少ないですよ」と安養寺監督。「以前は香織を見て堀が行動を変えて、2人を見て渡邊が変わりました。自分のことを理解して、自分が何をすべきかを考えられる選手たちです」
パナソニックらしさを理解し、実践した森が、今年のクイーンズ駅伝の勝敗を左右する走りをするかもしれない。
練習中に感じられた進歩と、駅伝を戦うことの意味
森が代表的な存在だが、今年のパナソニックは区間賞トリオ以外が充実してきた。安養寺監督はトラックのタイムを求めないため、記録には現れていないが、練習内容から手応えを感じている。
森田が「総合力が上がっている」ことが感じられた練習として、アルバカーキ合宿中に行なった1000m×7〜10本(選手によって本数は異なる)のメニューを挙げた。
「みんな疲労が蓄積している状態の中で行った練習でしたが、その練習で脱落したら駅伝メンバーに入れなくなる。すごく緊張感がある練習なんです。キツそうになっても離れないし、1回離れて追いつく子もいました。みんなの執念を感じられた練習でした」
森は自身の力がついたと感じられた練習に、「アルバカーキの最後のポイント練習」を挙げた。3km+2km+1kmで、インターバルを3分ジョグと2分ジョグでつなぐメニューだ。
「監督からは3km+1kmでもいいと言われましたが、自分で3km+2km+1kmに挑戦しました。距離が長い区間を任される可能性も、なくはないと思っていましたから。自分の中ではやり遂げられたことで自信になりました」
堀は3年連続区間賞に向けて、手応えを感じられたメニューが特にあったのだろうか。
「今回のアルバカーキでは、メニューを全部設定通りに行うことができました。以前は走りすぎて体力を消耗していたところもあって、大事な練習を外していたこともありました。今回は一度も外さず、それも疲労を残さずに合宿を終えられました」
パナソニックらしい練習の仕方に堀ならではのアレンジを加えた、ということだろう。
堀は今シーズンのトラックで、2年間続けていた代表入り(17年アジア選手権、18年アジア大会)を逃し、自信を失いかけていた。だが、アルバカーキ合宿から徐々に自信を取り戻し始めたという。
「駅伝で結果を出して、『オリンピック頑張ります』と大声で言えるようにしたい」
その点は森田も同じ思いだ。
「今シーズンのような悪い状態でも、日本選手権は入賞できました。毎年入賞レベルでは走れているので、それを良い意味のプライドにして走りたいと思っています。そしてどんなに悪い状態でも最低限の走りをすることが、世界を狙うためには重要です。オリンピックを狙う姿勢は、絶対にぶれてはいけないところ。高校から実業団に進んだのは、そこを一番の目標としたからです。(故障でブランクが生じた)今の苦しさから学べることもあります。そういった一日、一日の積み重ねがオリンピックにつながると思っています」
3年連続区間賞となれば最高の形だが、来季に向けてきっかけや手応えをつかむことができれば意味は十分ある。チームの一員として駅伝を全力で戦うことが、来年の東京五輪への道を進むことにもなる。
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「今年は6人の力が試される駅伝」(安養寺監督)に
寺田辰朗(てらだ たつお)プロフィール
陸上競技専門のフリーライター。
陸上競技マガジン編集部に12年4カ月勤務後に独立。
専門誌出身の特徴を生かし、陸上競技の詳しい情報を紹介することをライフワークとする。一見、数字の羅列に見えるデータから、その中に潜む人間ドラマを見つけだすことは当代随一。
地道な資料整理など、泥臭い仕事が自身のバックボーンだと言う。選手、指導者たちからの信頼も厚い。
AJPS (日本スポーツプレス協会) 会員。