火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』

北川悦吏子スペシャルインタビュー interview

第3回 2023.03.06up

広瀬すず×永瀬廉が送る“青春ラブストーリー”が
視聴者を魅了している『夕暮れに、手をつなぐ』

九州の片田舎で育ち婚約者を追って上京した浅葱空豆(広瀬すず)と音楽家を目指す青年・海野音(永瀬廉)が出会い、ひょんなことから一つ屋根の下で暮らすことになりそれぞれの夢を追う。
『オレンジデイズ』(TBS)以来、実に19年ぶりにTBSで“青春ラブストーリー”を手がけるという脚本家の北川悦吏子に、本作に込めた想いやこだわり、見どころなどを聞いた。北川へのインタビューの様子は全4回に分けてお届けする。

広瀬すず×永瀬廉が送る“青春ラブストーリー”『夕暮れに、手をつなぐ』(TBS)の脚本を手掛ける恋愛ドラマの名手・北川悦吏子へのインタビュー企画。全4回のうち第3弾目となる今回は、本作のタイトルやキャッチコピーに込められた想いやこだわり、そして『オレンジデイズ』(TBS)からの変化について聞いた。

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互いの人生が確実に交差しながらも、すれ違ったり通り過ぎたりを繰り返す23歳の浅葱空豆(広瀬すず)と海野音(永瀬廉)。まだ何者でもない2人の“名前のない関係性”は歯痒くもあるが、またとない贅沢なきらめきに満ち溢れている。そんな彼らの愛おしい姿を優しく形容し包み込むのが「とっくに恋に落ちていた」という北川渾身のキャッチコピーだ。北川と言えば『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』(TBS)の「ずっとふたりだと思っていた。」や、『オレンジデイズ』の「忘れられない青春の日々。」など、作品の世界観が一文に凝縮された上、一度聞けば忘れられないこれ以上にない名コピーを生み出してきた。本作でも作品全体に横たわる世界観や空気感を瞬時に立ち昇らせながらしっかりと余韻も残すこのキャッチコピーはどのようにして生まれたのか。

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「ポスターの写真用に考えたコピーだったので、こんなにいろんなところで使っていただけると思っていなかったんです。ポスターの中の2人が背中合わせでせつなそうな表情をしているのを見て、「とっくに」と「恋に落ちていた」という普段あまり組み合わせることがない2つの言葉が思い浮かびました。娘が幼い頃、寝室に移動する前に脚本を書いている私に向かって言った「ママすぐに(寝室に)来てね。あっという間に来てね」という言葉が可愛くて。こんな言葉はないんだけど、その分切実で一生懸命な気持ちがより伝わるというか。そんな感覚で2つの言葉を並べることを思いつきました」

どうやらこのキャッチコピーは最終回で見事回収されるらしいので、“お守り”のようなこのフレーズを胸に空豆と音のストーリーを引き続き見守りたい。そもそもこのポスター自体にもしっかりとストーリー設定があったようだが、ネタバレに繋がるためここでは残念ながら明かせないと言う。ちなみにこうやってポスター自体にストーリー性を持たせるという試みも『Beautiful Life ~ふたりでいた日々~』や『オレンジデイズ』のポスター撮影時に北川が根付かせた新たな文化だったという。
作品に自身の実体験や見聞きしたことを投影することで知られる北川だが、今作には自身のどんな部分が投影されたのだろうか。

「そもそもリアルな23歳の男女だったらすぐに付き合うと思うんですよ。ただ、私がもうその年齢じゃなくなったからこそ、空豆と音のような精神性でつながる、ある種ファンタジーのような関係性が書けるんだと思います。私が今23歳で恋愛の現役だったらもう少しドロドロしたストーリーになっていたかもしれません。当時の自分にペンを持たせてあげたらどんなものを書いたんだろうと思うこともありますが、実際は脚本を書きながら恋愛を同時進行ですることってできないと思うんですよ。音楽やってて曲作るくらいなら自身の実体験をリアルタイムで反映できると思います。実際、私は若いころ曲作ってましたしね。連ドラサイズの脚本だと恋愛しながらは難しいですね。脚本に時間、取られすぎる(笑)」

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ちなみに、音は音楽家を、そして空豆はファッションの道を志すことになるが、これは北川の音楽好きとファッション好きがそのまま設定に反映されたようだ。

「ミュージシャンのお友達は多いけれどファッションデザイナーの友達はいないので、取材対象になる方を探すところから始めなければいけなくて。洋服は自分で作ったことがないから、取材をしながらいろいろ勉強しましたが大変で。あれだけ好きだった洋服も今はもうお腹いっぱいになって全く買わなくなりました」

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「音楽とファッションはその時々の文化と関係が深い」と言う北川だが、今後空豆と音の夢もどこかで交錯することになるのだろうか。
『オレンジデイズ』以来、実に19年ぶりの“青春ラブストーリー”を手がけた北川。『オレンジデイズ』では「夕日」や「夕焼け」がモラトリアムにしかじっくり身を置くことができない移ろいゆく時間の象徴として描かれているが、本作での「夕暮れ」はまた意味合いが異なるのか聞いてみた。

「タイトルは、狙ったわけではなく、たまたま“夕日つながり”になりました。偶然ではありますが、19年ぶりにTBSに戻って来ることができたので、そこをひっかけて考えてくれる人がいても楽しいなと思いました。ただ、『オレンジデイズ』は“夕焼け”以外に“まだまだオレンジみたいに若くて未熟な酸っぱさの残る青春真っ只中の俺たち”という意味を持っていましたが、今回はもっとせつなく淡い感じですね」

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19年前と今現在、北川自身が脚本と向き合う際の核となる部分には何ら変化がないと言うが、同世代のモラトリアム渦中にある主人公たちの姿を切り取ったこの2作品に図らずも見られた繋がりとその中での変化についてはこう続けた。

「これも時代の移ろいなのかもしれません。あの頃より、人々の心がささやかに弱くなっているのかもしれない、とは思います。そんな時代だからこそ、空豆というスーパーエネルギッシュな、生命力の強い、一見あっけらかんとした女の子を書こうと思ったのかもしれません」

どこか懐かしい匂いがしながらもまさに“今”起きている空豆と音の物語だと実感できる本作は、北川のこんな想いや願いの上に成り立っているのかもしれない。

文:佳香(かこ)

佳香(かこ)プロフィール

出版社勤務を経て、パラレルキャリアでライターに。映画・ドラマを中心に様々な媒体でエンタメ関連のコラムを執筆中。ビジネス媒体でのインタビュー&執筆実績もあり。

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