火曜ドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』

北川悦吏子スペシャルインタビュー interview

第2回 2023.02.03up

広瀬すず×永瀬廉が送る“青春ラブストーリー”が
視聴者を魅了している『夕暮れに、手をつなぐ』

九州の片田舎で育ち婚約者を追って上京した浅葱空豆(広瀬すず)と音楽家を目指す青年・海野音(永瀬廉)が出会い、ひょんなことから一つ屋根の下で暮らすことになりそれぞれの夢を追う。
『オレンジデイズ』(TBS)以来、実に19年ぶりにTBSで“青春ラブストーリー”を手がけるという脚本家の北川悦吏子に、本作に込めた想いやこだわり、見どころなどを聞いた。北川へのインタビューの様子は全4回に分けてお届けする。

生命力溢れる空豆を“空豆たらしめている”特徴の一つに九州弁が挙げられるだろう。宮崎、鹿児島、長崎の3つの地域の方言をミックスしたという「空豆語」の創作裏について聞いてみた。

「まず芯のある女の子のイメージから空豆を九州出身にしようと決め、九州の全地区の訛りを聴いてみました。でもどの言葉にも魅力があり選びきれず、ブレンドすることを思いつきました」

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空豆のおじいちゃんが宮崎出身、おばあちゃんが長崎出身で、2人は長崎で開催された「内山田洋とクールファイブ」のライブで出会い、恋に落ちたという裏設定まであるようで、加えて空豆の出身地を宮崎と鹿児島の県境にある霧島連山の見える「えびの市」という設定にし「空豆語」を構想。北川は過去に霧島連山を訪れたことがあり、その美しさも印象に残っていたのだと言う。

ここでも自身の実体験を作品に反映する北川の手腕が遺憾なく発揮される。

「ちょっと体調崩して入院した時に担当の看護師さんが宮崎県えびの市出身の方だったんですよ。彼女、普段は訛っていないけれど、焦った時にたまに訛りが出るんですよ。それで入院しながら言葉を教えてもらいました」

これまでの作品についても入院中の病室で脚本を書いていると明かしていた北川だが、入院と取材を兼ねるとはさすがの創作魂だ。

「本当は九州に住んで言葉を習得したかったんですが、時間的にも予算的にもそれが叶わず、えびの市の看護師さんと長崎出身の方に地元の友達と会話してもらい、その様子を録音してもらって、それをずっと聴いていました。鹿児島の友人はいなかったので、プロデューサーにお願いして鹿児島出身の人同士の会話も録音してもらいました。暇を見ては録音してもらった会話を聞くうちに、自分でも喋れるようになって来ました。これで、書けるかな、と思いました」

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第1話から驚かされたのは、空豆の言葉は初めて聴くオリジナル言語のはずなのに、そこにしっかりと感情や意味が乗ってダイレクトにこちらの心に訴えかけてくることだ。
「オリジナルの“空豆語”ですがきちんと意味がわかるように、そこは気をつけて丁寧に書いています」と言うが、その工程は想像以上に試行錯誤と推敲の積み重ねだ。

「自分が習得したブレンド語で書いた台詞に対して、毎回2つの方言指導が入るんです。宮崎弁は赤字で、長崎弁は青字で。台詞によって、どちらがしっくりくるか、語尾はどちらの訛りが適しているのか、毎回正解を見つけようと繰り返し何度も向き合っています。自分で口にしながら書いているので、どっちの方が気持ちいいか、掛け合いとしてリズムがいいか調合しながら書いています」

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また本作でもドラマの世界観と共鳴し合うような主題歌や、空豆と音の心情に寄り添うかのような劇伴にも心掴まれるが、北川はドラマのタイトルが思い浮かぶと同時に主題歌をヨルシカに依頼しようと思ったと明かす。どんなやりとりを経て主題歌「アルジャーノン」は誕生したのだろうか。

かねてからヨルシカのファンで、本作の脚本もヨルシカの既存の曲を聴きながら執筆したと言う北川。確かに両者の世界観には“瑞々しさ“という共通点があるように思える。n-buna(ナブナ)との打ち合わせの中でタイトルにある「夕暮れ」という言葉から「恋になるのかならないのかまだわからない、その狭間や機微のグラデーションが表現できたら…」という方向性が定まっていったようだ。また、そのやり取りの中でBPM(Beats Per Minuteの略でテンポの単位)についても学んだ北川は、これもまた作品内に取り入れたと言うが、その詳細は乞うご期待だ。

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劇伴には「春泥棒」や「ただ君に晴れ」などのヨルシカの楽曲だけでなく、2015年リリースのn-bunaによるボカロ曲「夜明けと蛍」も挿入されている。さらに実は台詞の中にもヨルシカの楽曲の歌詞を彷彿させるような内容も盛り込まれている。第1話で空豆が婚約者の翔太(櫻井海音)に対して「おいたちの思い出はただのごみ屑ね?ただの紙屑と一緒ばい!捨てたかと? 捨てたかとやろ」と泣きながら怒りを露わにするシーンがあるが、これはヨルシカの「ただ君に晴れ」にある「思い出なんてただの塵だ」というワンフレーズへのオマージュだそうだ。

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またKing & Princeが歌うエンディング曲「Life goes on」とそれに合わせてキャストらが踊るエンディングムービーが何とも愛らしく話題になっているが、北川から曲調のリクエストなどを入れ何度も打ち合わせを重ねた末に出来上がったものだと言う。エンディングムービーの監督は俳優であり映像監督として活躍する池田大が務めているが、これも北川たっての希望で実現したようだ。様々なバージョンのエンディング映像が撮影されたようで、ドラマ視聴後に毎話“もう1つの楽しみ”が用意されているなんて、なんて贅沢なご褒美だろう。それもこれも北川と制作陣、キャストらが細部にまで心血注ぎこだわり抜いたからこその結晶であり、そして我々が目にしているのはそこから掬い上げられたごくごく一部の上澄みなのだと改めて思い知らされた。

文:佳香(かこ)

佳香(かこ)プロフィール

出版社勤務を経て、パラレルキャリアでライターに。映画・ドラマを中心に様々な媒体でエンタメ関連のコラムを執筆中。ビジネス媒体でのインタビュー&執筆実績もあり。

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