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Vol.5

写真法医学監修・上村公一先生インタビュー 前編

『アンナチュラル』法医学監修の上村公一先生(東京医科歯科大学)に、ドラマ制作との関わりや法医学の現状などについて、お話を伺いました。前後編の2回に分けてお届けします!

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Q:ドラマの企画を聞いた時、どう思われましたか?

新しい法医学ドラマだなと思いました。これまでのように監察医や大学の法医学教室の話ではなく、死因究明のための架空の研究機関が舞台ですから。昔は法医解剖医の存在自体が一般には知られていませんでしたが、今はドラマに影響を受けて医学科に入ってくる学生も少なくないんですよ。ただ、憧れて入ってきても、生きた人間を扱う臨床医学の方が面白くなって、そちらに流れてしまうことは多いですが(笑)。解剖医はどこも慢性的な人手不足です。ドラマで法医学の存在を広く知ってもらえることはうれしいですね。

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Q:先生はなぜ臨床医ではなく法医解剖医に?

一番の理由は、自分が死因を決めるという責任の重大さに気づいたからです。死因決定に至るまでは非常にしんどいし悩むことも多いですが、自分で死因という答えを見つけ出すことへのやりがいですね。特に司法解剖は解剖医個人に鑑定嘱託書が発行され、刑事裁判に出廷することもしばしばで、自分の判断の重大さを実感します。これは、チーム医療で成り立っている臨床医学にはない特徴かもしれません。
それと、従事する人が少ないためか、目立たないので人はあまりやりたがらないけれど、社会の法秩序の維持に法医学は必要です。そこに貢献できている自負もありますね。今、私は東京医科歯科大学に勤めていますが、もともと研究指向だったこともあり、解剖だけでなく研究をしたり、学生に教えられる今の職場が自分に合っている気がします。

Q:ドラマでの法医学監修の仕事を教えてください。

台本に関して言えば、盛り込む法医学ネタについて脚本家さんから相談があります。専門的な立場から助言して、数回のやりとりの後、台本が出来上がってきます。出来上がった台本も再チェックします。その台本をもとに、助監督さんや美術さんと撮影に使う小道具や書類などの打合せをします。解剖シーンは台本とは別に詳しい進行台本も作るので、撮影当日は現場に行って、それをもとに解剖時や検案時の人の動きなどをアドバイス。その現場指導は、鵜沼香奈先生と交代で行っています。このドラマは先進的な研究所が舞台なので、その中で展開していくストーリーはなかなか新鮮ですね。

Q:石原さとみさんの解剖医役はいかがですか?

撮影前に大学に来られて打ち合わせをしましたが、撮影中も専門用語のイントネーションや器具の持ち方、「ここを触ると手袋に血はつきますか?」といった具体的な質問をよく受けます。以前『ヴォイス〜命なき者の声〜』というドラマでもご一緒しましたが、石原さんはあまり先入観を持たないで、その場で感じた疑問や感覚を大事にされる方ではないでしょうか。それは、事前の情報に惑わされないで、目の前のご遺体から学び取るという解剖医の姿勢とも共通しています。私は、そんな石原さんが演じるミコトさんのキャラクターに合わせて演技をサポートするようにしています。

Q:演技指導で具体的に気を付けていることは?

解剖の一般的な手順は崩さないようにしていますが、実はあまり解剖器具や手順に決まったやり方はなく、解剖医の個性が出ます。ハサミ一つとっても自分が使いやすいものを使うし、メスの握り方や臓器の持ち方も人それぞれ。解剖器具に気に入ったものがなければ、ザルやお玉などの調理器具を使うこともあります。ただ、皮膚の切り方に関しては、遺族の気持ちも配慮するか、あるいは死因究明をあくあまでも優先するかによって変わります。ミコトさんは前者、中堂さんは後者として、それぞれの個性を出しています。
実際、臨床の場合は心臓外科とか循環器とか専門が分かれていて教育システムも確立されていますが、法医学の世界はほぼ徒弟制度。先輩の技術を見習う感じです。ちなみに井浦新さんも現場で熱心に質問されるので、「私だったらこうします」と自分流で答えることが多いですね。

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