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「父親たちの星条旗」「スネーク・フライト」

2006年10月17日

「父親たちの星条旗」１０月２８日（土）より公開

クリント・イーストウッドの最新作。御年76歳。去年も『ミリオンダラー・ベイビー』で二度目のオスカーを獲り、いま絶好調。今回は硫黄島を題材に、アメリカ人と日本人、二つの視点から、太平洋戦争を振り返った作品を２本同時に完成。ちなみに両作品とも、スピルバーグがプロデュース。きょう紹介するのは、アメリカ側から見たほうの作品。
作品の舞台の硫黄島とは…小笠原諸島のひとつ、日本の南端にある小さな島。戦略上たいへん重要。日本軍にとっては本土防衛最後の砦といわれた。 1945年、終戦の半年前に、米軍との激戦が繰り広げられた土地。何万もの死者が出た。過去にも、ジョン・ウェイン主演『硫黄島の砂』など、映画の題材に何度かなっている。
映画の序盤は、激しい攻防戦がすさまじい迫力でたっぷり描写される。カラーだが、ほとんどモノクロに近いトーン。その描写のすさまじさは、あのスピルバーグの『プライベート・ライアン』をはるかにしのぐ。そして日本軍を追い詰めたアメリカ兵たちが、島でいちばん高い「摺鉢山」の頂上に星条旗を掲げる。この、６人の若い兵士たちが星条旗を掲げるシーンは写真に撮られ、ピュリッツァー賞を受賞することになる有名な写真に。
そこから、この映画のメインストーリーが動き出す。星条旗をかかげた６人のうち、本国に生還できた３人に焦点が絞られていく。彼らは英雄にまつりあげられ、いまでいうセレブの扱い。戦争の費用を調達するための国債の販売キャンペーンに利用されていく。ところが、彼らには英雄と言う実感が抱けないどころか、写真に写っているのは自分たちではないという後ろめたさもあり、次第に苦悩をつのらせ、人生を狂わされていく。（たしかに、写っている６人は顔が判別できない！）
国家としては、利用できれば誰でもよかった。そうした裏側が暴かれていく。この映画はその３人の中の１人で、死ぬまで家族に硫黄島に関して口をつぐんでいた衛生兵の、息子の視点から語られていく…。戦争からは、真実の英雄なんか生まれないという、イーストウッドのメッセージがしっかり描かれた傑作。

「スネーク・フライト」１０月２１日（土）より公開

この夏、アメリカでいちばん話題になった作品。公開週にはナンバーワンを記録した。タイトルが、すべてを物語っている。つまりジャンボ旅客機の客室や操縦席に数百匹の蛇が乱入し大暴れ。見る前から、バカバカしさが想像できる、Ｂ級映画のお手本のような作品（誉めているんですよ…）。 ※たとえば、男性がトイレに立つと、次のシーンでは想像通り、便器から蛇が飛び出し…

いちおうあらすじとしては、ハワイで観光中の若者が、犯罪組織のボスの犯行現場を目撃。その彼をロスの裁判で証言させるため、ＦＢＩのサミュエル・Ｌ・ジャクソンが護衛して飛行機に乗り込む。が、その証人の口封じのために、組織が大量の蛇を荷物に積み込んだ、という設定。

でもストーリー云々より、作品の話題は、この映画をとりまくフィーバー。まず、タイトルが発表されたとたん、全米のインターネットオタクがなぜか大熱狂。自分なりに考えたストーリーや台詞、ポスターのデザインが公式サイトに殺到。 ※それをメディアが煽ったので、さらに盛り上がった。ちなみに、ハナからＢ級映画として冷ややかに見ていた批評家たちには試写がなかった。なにはともあれ、あんまりくだらなくて、逆にそこが面白いという「珍品」を自分の目で確かめたいと言う方にはおすすめ。けっこう面白いです。

「ブラック・ダリア」「サンキュー・スモーキング」

2006年10月10日

「ブラック・ダリア」１０月１４日（土）より公開

『ＬＡコンフィデンシャル』などで知られる人気作家ジェイムズ・エルロイの作品を、ヒッチコック以来のサスペンスの巨匠といわれるブライアン・デ・パルマ（正確にはデ・パーマ）がてがけた、絢爛豪華なサスペンスミステリー。
ミステリーの中心となるのは、1947年にＬＡで実際に起きた殺人事件。女優志願の22歳の美女が、全裸の切断死体で発見された。黒い髪と、黒ずくめの衣装で〈ブラック・ダリア〉とあだ名されていた。
作者のエルロイ自身が、10歳のときに母親を殺されているという体験があり、この迷宮入りとなった事件には特別な思い入れがあった…。
というわけで、話は、この事件にエルロイが創造した２人の刑事が挑むという趣向。 ※人気上昇中の若手スター、ジョシュ・ハートネットと、アーロン・エッカートが刑事役。　この２人が同時に愛する、金髪の謎めいた美女にスカーレット・ヨハンソン（正確にはジョハンソン）。そして〈ブラック・ダリア〉にうりふたつの大富豪の娘には、アカデミー賞に２度輝く女優、ヒラリー・スワンク。特に彼女は『ミリオンダラー・ベイビー』などで、ボーイッシュなイメージが定着しているだけに、本作では、180度転換の妖艶な魅力を発揮する。
最大の見所は、デ・パルマ監督のビジュアル。たとえば刑事たちが、ブラック・ダリアの死体と遭遇するシーンでは、巨大なクレーンを駆使した、ワンシーン、ワンカットの移動シーンを展開したり、殺人犯と刑事がもつれあって落下するシーンでは、息を呑むようなスローモーションで魅せる。
※うり二つの女、友情と裏切り、そしてポルノ映画業界など、この監督の得意な題材がふんだんに盛り込まれているのも、魅力である。

「サンキュー・スモーキング」１０月１４日（土）より公開

喫煙派なら泣いて喜びそうなタイトルだが、たばこ礼賛どころか、見終わって煙に巻かれた気分にさせられること請け合いの、一筋縄ではいかない痛快な風刺コメディ。
主人公はタバコ業界を代表するＰＲマン。演じるのは、なんと『ブラック・ダリア』では刑事役の、アーロン・エッカート（売れてますね）。「情報操作の王」の異名をとる彼が、禁煙運動のさまざまな攻撃を、たくみな論理のすりかえで論破していく。
それだけではなく、ハリウッドのエージェントに働きかけ、映画のワンシーンで、ブラッドピットにタバコを吸わせる企画を持ち込んだりする。やり手。
ところが、主人公が気を許した浮気相手の女性ジャーナリスト（この４月に、トム・クルーズの赤ちゃんを産んだばかりのケイト・ホームズ）の罠にハマって失脚してしまう。すべてを失った主人公が、別居中の妻と暮らす息子の叱咤激励で、ふたたび立ち上がる…。
息子を演じるのが、先日紹介したニコールキッドマン主演『記憶の棘』で注目された天才子役、キャメロン・ブライト。
というわけで、情報操作の裏側を暴くと同時に、父親と息子の交流がひとつの見所になっていて、人の意見に屈しないで、自分のことは自分で決めればいい、というメッセージが込められている。 ★それにしても驚いたのは、この映画にはタバコが吸うシーンがまったく出てこない。内容からいっても、見事に逆説的な趣向。

「ワールド・トレード・センター」「ザ・センチネル　陰謀の星条旗」

2006年10月03日

「ワールド・トレード･センター」 10月７日（土）より公開

作品発表ごとに物議をかもす、オリバー・ストーン監督の最新作。タイトルから分かる通り、「９・11」で崩壊したＷＴＣ（ワールド・トレード・センター）を舞台に、実際の救助活動をした、実在の警察官ふたりを主人公にしたドラマ。
旅客機がタワーに激突した直後、ただちにニューヨーク港湾局警察が指揮官（ニコラス・ケイジ）に率いられ、避難誘導に向かう。ところが、突如ビルが崩壊し始め、ニコラス・ケイジと、もうひとり、南米出身の警察官（マイケル・ぺーニャ）が瓦礫の下に生き埋めになってしまう。そこからドラマの中心は、この２人のサバイバル・ドラマに。眠れば命を失う状況で、２人は互いに語りかけ続け、意識を保っていく。
２人は、お互い姿は見えない。声だけが聞こえる。身動きも出来ず、暗闇の中で泥にまみれた２人が、顔だけで演技を展開するのが、見所。２人の場面と平行して、安否を気遣う家族の様子、そして終盤は２人の存在が確認され、駆けつけた救援隊の救助作業が描かれていく…
いつものオリバー・ストーンとは思えぬ地味な切り口に注目。主人公は英雄でもない、ふつうの警察官、人助けをする前に自分が生き埋めになってしまう役柄。タイトルの「ワールド・トレード・センター」という枠組みを外してしまうと、ドラマ的には、雪山で遭難して…、というよくある遭難ドラマと大して変わらない。オリバー・ストーンなら、あの高層ビルが崩壊していくメカニズムを、冷静に、ダイナミックに描いて欲しかった気もする。ないものねだりですが。
もちろん平均点は軽く越える映画。悪いドラマではない。

「ザ･センチネル　陰謀の星条旗」１０月７日（土）より公開

テレビシリーズ『24』で大人気、キーファー・サザーランドが、マイケル・ダグラス（久しぶり！）と組んで、大統領の護衛にあたる「シークレット・サービスを演じる、サスペンス・ミステリー。（センチネルは「番人」の意味）。

映画は、シークレット・サービス内部の何者かが、大統領の暗殺計画に関与しているという情報が入るところからスタート。その最大の容疑者として、マイケル・ダグラスが浮上し、その後輩のサザーランドが捜査を担当する、という展開。

物語上、ダグラスにとって不利なことに、彼はなんと、大統領夫人（キムベイシンガー）と不倫の仲。さあ果たして真犯人は… 大統領の暗殺計画、という点でも『24』さながらの設定。

ちなみに、すでにシーズン５を数える『24』ですが、アメリカでは既に、来年１月から『シーズン６』の放送開始が発表されている。24ファンならそれを待つ間に、映画は必見？

「カポーティ」「涙そうそう」

2006年09月26日

「カポーティ」９月３０日（土）より公開

あの大作家トルーマン・カポーティを、俳優のフィリップ・シーモア・ホフマンが見事に演じきり、今年の「アカデミー主演男優賞」を獲得した話題作。なのに、なぜこんなに日本公開が遅れたのか？実はアメリカで話題になった時点で、日本のめぼしい劇場は９月までブッキング済み。いちばん早くて、このタイミングとなった。つまり当初は、こんなに話題になるとは思われていなかった。インディペンデントの小品という印象だったようで。
トルーマン・カポーティといえば、映画ファンにとっては、オードリー・ヘップバーン主演『ティファニーで朝食』の原作者として知られる。また彼は作家としてだけでなく、ニューヨーク社交界の花形だった。ゲイとしても知られ、ハリウッド映画に出演もしている。一筋縄ではいかないスーパースター。
この映画では、カポーティが1966年に発表し、代表作となった作品『冷血』の執筆過程の姿に焦点を絞っている。ご存知の通り『冷血』は、限りなくドキュメンタリーに近い小説。「ノンフィクション・ノベル」という新ジャンルを作った記念碑的作品。その題材になったのは、59年にカンザス州の田舎町で農家の４人家族が惨殺された事件。カポーティは、逮捕された犯人の男２人を、５年がかりで綿密に取材して小説に。映画の見所は、カポーティが犯人のひとり、ペリー・スミスという男に、自分の分身のような愛情を抱く。
「彼と僕は、同じ家に生まれた。彼は裏口から、僕は表玄関から外に出た」
そのために、カポーティは延命運動まで開始。
ところが『冷血』の執筆も終わりに近づき、「これは大傑作になる」という確信を抱いたとき、本の完成のためには、死刑執行の描写が絶対必要だと気づく。
延命運動の一方、早く死刑されて欲しい、とイライラしていく。ここは見所。作家の業の深さが描かれる。
※『冷血』という小説のタイトルは、犯人と同時に、カポーティ自身でもあったのか…？カポーティ自身は、今から24年前、1984年にこの世を去った。
『冷血』を完成後、これという作品は書けなかったとされている。

「涙そうそう」９月　３０日（土）より公開

もうお馴染みのヒット曲『涙そうそう』を題材にして、沖縄を舞台に兄弟愛を描いた、非常にさわやかで好感のもてる作品。この曲のタイトルは「涙がぽろぽろと止まらない」の意。
作詞した森山良子さんは、25年前に亡くなったお兄さんへの思いを込めたという。
映画の舞台は当然、沖縄。主人公は、島から本島へ渡り、いつか自分の店を持ちたいと焼き鳥屋さんで頑張る若者（妻夫木聡さん）。
そこへ、高校入学のため、島から本島へ妹もやって来る（長澤まさみさん）。ふたりで一緒に住むことになる。
ところが、この兄弟は、本当は血のつながりがない（親は連れ子同士で再婚した）。兄はその事情を知っている。隠したまま、親代わりの気持ちで妹の面倒をみる。
妹は、事情を知らないようで、ひたすら無邪気に兄を慕う。「にいにい！」と。
そうした兄弟の成長する５年間が、青い海・青い空を背景に、どこまでも爽やかに、嫌味なく描かれている。庶民の日常の生活感が実にきちんと描かれているのがとてもいい。そういうところがしっかりしているから、波乱万丈でないストーリーに大きな感動が存在できる。
観ているほうは、映画のタイトルがタイトルだけに、いつ悲劇が、いつ泣かせる状況がもたらされるのか？　正直、気になる。ですがご安心を。ラストは思いっきり、たっぷり泣かせる趣向です。

「記憶の棘」「イルマーレ」

2006年09月19日

「記憶の棘」９月２３日（土）より公開

二コール・キッドマン主演のラブストーリー。とはいっても、少々オカルト的な要素＝生まれ変わり（いわゆる輪廻転生）を題材にしたところがポイント。舞台は現代のニューヨーク・マンハッタン。ニコール・キッドマンは、高級アパートに母親（演じるはローレン・バコール）と暮らす独身女性。10年前に夫を亡くし、いまようやく悲しみから立ち直り、新しい恋人と婚約にこぎつけたところ（ちなみに今回は、ばっさりとショートヘアのキッドマンが印象的）。
ある日、アパートに10歳の少年が訪れてきて、彼女に向かい、こう語りかける、「僕は君の夫だ。再婚しないでくれ」。キッドマン、最初はいたずらと思い相手にしなかったが、次第にこの少年を夫の生まれ変わりと信じるようになる。なぜかといえば、この少年は「夫しか知らないはずのこと」や「二人しか知らない秘密」を知っているから…。当然、まわりの家族や婚約者は心配。ラブストーリーにミステリーの要素も加わり、後半は思いがけない展開へ。
見所はなんといっても、撮影当時10歳だった子役、キャメロン・ブライト。この『記憶の棘』での天才的な演技力が注目され、この後も出演作が目白押し。日本でも既に「?-ＭＥＮファイナルディシジョン」で登場。売れっ子になっている。
ところでこの作品、アメリカでも、試写を見た日本の業界関係者の間でも、賛否両論。ひとことでいって、男性には評判がいい。女性には不評。生まれ変わりをばかばかしいと切り捨てるか、逆に受け入れるかで変わる。 ※ちなみに僕は、この映画に限って、生まれ変わり支持派。素晴らしいラブストーリー。

「イルマーレ」９月２３日（土）より公開

大ヒットしたアクション映画『スピード』の名コンビ、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックが、12年ぶりに共演したラブストーリー。こちらはＳＦ仕立て。

ちなみにタイトルの「イルマーレ」。どこかで聞いたと思ったら、数年前の韓国映画の題名。それをハリウッドがリメイクした作品でした。「イルマーレ」、意味は劇中に登場するレストランの名前。

シカゴの病院に転勤することになった女医サンドラ・ブロックが、それまで住んでいた湖に突き出たガラス張りの一軒家から引っ越すことになる。そこで引越しの際、去り際に郵便受けへ「転送願いの手紙」を残す。場面変わり、入れ替わりにそこへ住むことになるのが建築家のキアヌ・リーブス。かつて父親が建てたこの家を買い戻し、引っ越してくる。

郵便受けにあった手紙を読むと、キアヌは当惑。なぜかといえば、この家は長い間空き家だったはずだから。実は、キアヌ・リーブスがいるのは2004年。サンドラ・ブロックがいるのは現在の2006年、キアヌの後に、サンドラ・ブロックが生活していたのだ。

それから郵便受けを通して、時間を越えた文通が始まる。過去から未来へ、未来から過去へ手紙を送れる。郵便受けが一種のタイムマシーン。 ※そして２人はついに、イルマーレと云うレストランで、デートをすることに。約束したデートの日時は、彼女にとっては明日、彼にとっては２年後の明日。ここらへんは、ケイリー・グラント、デボラ・カー主演『めぐり逢い』を彷彿。

ところで再共演とはいえ、キアヌ・リーブスとサンドラ・ブロックは、２年離れた時空間にいる設定なので、一緒に画面に映ることは、ほとんどない…。

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