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歌舞伎コラム

『ぴんとこな』をより楽しむための「ことば」「演目」「約束事(しきたり)」を“歌舞伎コラム”として紹介します。

見得

歌舞伎では、物語のクライマックスや、登場人物の感情が高まったときに、それを強調するために、役者は動きを静止して、身体全体で美しい形を作ります。これが「見得」です。よく、首をぐるっとまわして、目を大きく開いて「見得」の真似をしますが、あれはあくまで、「見得」全体の顔の部分だけに過ぎません。 よく、「あいつは偉そうに、今度の仕事について大見得を切った」なんていいますね。
でも、見得は「切る」ものではなくて、「見得をする」というのが本当です。
「見得をする」とき、たいていは舞台向かって右側に座っている「ツケ打ち」という人が二本の拍子木を板に打ち付けて、バタバタバタッ!という音で見得を強調するので、客にとっては「クローズアップ」の役割を果たしてもいるのです。 ちなみに見得は立役(たちやく)だけで、女形は「極まる(きまる)」と言います。
美しい形を見せるからでしょうか、見得には仏像からヒントを得て「不動の見得」といって不動明王に似せたもの、右手を上に伸ばして左足を踏み出した勇ましい「元禄見得」など、さまざまな種類があります。
また、歌舞伎は、絵のような美しさが第一ですから、幕切れ、登場人物がそれぞれの形で絵画のように極まる「絵面(えめん)の見得」という言い方もあるのです。
ご存知かも知れませんが、市川家には「にらみ」が伝わっています。これも、広い意味での「見得」です。市川家は、成田不動を信仰し、超人的な「荒事」を得意としています。
「にらみ」は市川家の團十郎・海老蔵・一門の地位の高い役者にしか許されていませんが、これを見ると、観客の邪気が払われ無病息災と言われています。
見得には、そんな「おまじない」的役割もあるのです。

犬丸 治(いぬまる おさむ)

演劇評論家
著書「市川海老蔵」
(岩波現代文庫)など

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