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歌舞伎コラム

『ぴんとこな』をより楽しむための「ことば」「演目」「約束事(しきたり)」を“歌舞伎コラム”として紹介します。

鏡獅子

ドラマの最初、主人公河村恭之助が、長く白い髪の毛を勇壮に振る踊りを見せます。
歌舞伎の演目のひとつ「鏡獅子」です。
「かぶき」を歌舞伎という漢字で書くのは、実は当て字なんですが、「歌」(せりふ・音楽)「舞」(踊り)「伎」(演技・芝居)という、「かぶき」の大切な要素をうまく表現していますね。
歌舞伎舞踊は、今上演されている歌舞伎の演目の中でも、とても大きなウェイトを占めているんです。
歌舞伎役者は、踊りがいわば必修科目です。芸事は、六歳の六月六日から始めるのが縁起が良いと言われていますが、まず最初に叩き込まれるのが踊りです。踊りで、歌舞伎役者の身体を作るんです。
歌舞伎での女形のしぐさ、立ったり座ったりの日常の動作すべて、踊りが基礎になっているんですね。
「鏡獅子」ですが、その踊りのなかでもとりわけ難しいとされています。
場面は千代田城(江戸城)の大奥です。なんで「鏡獅子」というかというと、正月「鏡曳き」といって、大名から贈られた鏡餅を、城内で曳いてまわる行事があったのですね。
前半は可愛らしいお小姓(腰元)で将軍の前で踊っていて、それに持っていた獅子頭の精がとりついて、後半は勇壮に獅子となって舞うのです。
髪の毛を振るところ、大変だろう、と思われるでしょうが、あれは首で振るのではなくて、腰で振るのがコツです。むしろ大変なのは前半の女形で、腰を落としてじっと静止した姿勢を保つところは、物凄いエネルギーを使うそうです。この二役をひとりの役者が演じるのですから、並大抵の腕では出来ません。
昨年末亡くなった勘三郎がこの踊りをとても得意としていました。来月八月の歌舞伎座で、その子どもの勘九郎・七之助兄弟が、月の前半・後半で交代して踊るのも、話題のひとつです。

犬丸 治(いぬまる おさむ)

演劇評論家
著書「市川海老蔵」
(岩波現代文庫)など

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