インタビュー INTERVIEW

——改めて観山寿一という役への思いをお聞かせください。

脚本の宮藤さんとは20年前からお仕事をさせてもらっていますが、自分は年を経て、表現が変化してきたような気がします。同じように宮藤さんも時間経過による変化を感じていて。今回、連続テレビドラマで能やプロレス、そして介護という題材の作品だと聞いたときは、まったく想像ができませんでした。撮影を進めていっても、毎回びっくり箱を開けていくようで。宮藤さんの頭の中には、こういうものがあったんだ！と改めて知ることができる撮影の日々です。僕、撮影前に脚本家やプロデューサーとはあまり話し合わないんです。昔から自分の直感で動くことが多いので（笑）。　宮藤さんや磯山プロデューサーとは、お互いに言わなくても通じている部分があるからこそ、成り立っているのかなぁとも思います。

ただ寿一ってむちゃくちゃな人間じゃないですか。能の家元の長男として生まれて、家を飛び出し42歳までプロレスに没頭して生きてきて。そんな男の思いはどういうものなのか、寿一という役を演じるにあたり、そこが一番にじみ出さなきゃいけない部分じゃないかと思っています。寿一はダメなところもむちゃくちゃだし、いいところもむちゃくちゃで。でも、年を経て分かってくることってあると思うんです。なんで自分は昔、あんなことを言ったのか、なんで反発したのか。そして僕ぐらいの年齢になると、社会や世の中も見てきて、なんとなく分かってくることってあります。家族のことであったり、家業を継ぐことであったり、介護や親の死も。子どものころまったく想像もしなかったことが現実味を帯びてくるんです。その思いこそ、寿一を通して表現すべきところだなって。自分自身も、そういうことが当たり前のように考える年になったんだって痛感しました。きっと宮藤さんも、そこを表現したくて、寿一のようなむちゃくちゃなキャラクターを僕にぶつけてくれたような気もします。

プロレスについては実際にやってみると、どこか音楽と似ているなと感じました。プロレスの試合は音楽のライブで、試合の内容はライブで歌う曲だなって。だから同じことをやれと言われても二度と出来ない。人はそこに感動したり、お金を出すと思うんです。やっていることはまったく違うんですけど、考え方は一緒だなって。そういうつもりで演じると、リングでの立ち居振る舞いにもライブでの考え方が反映されましたし、すごく勉強にもなりました。

——寿一にとって、さくらとはどういう存在だと思いますか？

寿一からしたら自分の人生で絶対に関わらないような女性がやってきたと最初は感じていたと思います。間違いなく寿一の幼少期の友だちの中にはいなかったタイプでしょうね。子どものころって、自分の好きな仲間だけでいられたじゃないですか。でも、社会に出るとそういうわけにもいかなくて。自分とはまったく違うグループにいたような人たちとも接していかなきゃならない。そこで気づくこともあると思うんです。学校のほかのグループにいた子は、実はこういう人だったのか、子どものときは気がつかなかった魅力があったんだって。きっと大人になってから気づくんです。さくらって寿一にとっては、そういう女性なんじゃないかなと思います。

——物語の中で、一番クローズアップされているのが寿一と寿三郎の関係だと思います。

家を飛び出した寿一が親父とどういうふうに接するのか。でも、寿一と寿三郎を客観的に見ると、なんかこの2人イケてるな、まったく違う方向を向いて背を向けているのに一心同体だ、って感じたんです。そういう関係性って素晴らしいじゃないですか。まるでバンドのメンバーみたいで。方向性は違うのに、その繋がりが目に見えてしまうというか。実際、西田さんは僕の親と同い年なんです。西田さんと初めて仕事でご一緒させてもらったのも20年以上も前。それから今までいろいろな作品でご一緒させてもらって、たまに僕の親と被る部分があるなとも感じていて。自分が男だからかもしれませんが、親に対してあまり細かいことは言いません。西田さんにもそういうことを言ったことがないんです。でも、お芝居の場では理解し合えているというか。その言わないことにも、どこか心地よさすら感じてしまっていて。きっとお芝居も同じだと思うんです。自分の心情をセリフで言ってしまえば、考えていることが分かります。そうではなく、何も言わず表情だけで感じてもらう、それがお芝居の一番大事な核の部分だと僕は思っているので。そういう意味でも西田さんにはたくさん支えてもらいました。

寿一の家族を描いた『俺の家の話』最終回、楽しみにご覧ください。