インタビュー
脚本を読まれた感想を聞かせてください。
現代とは違うとはいえ、こんなに悲しい話があるのかな、と思いましたね。テルの生きた大正時代といえば、大正ロマンやファッションなど、すごく素敵じゃないですか。でもあの時代なりのこういう悲しさというものがあるんだな、と思いました。
家を継がせるために正祐さんを養子にしていますが、
家を守る意識とはどんなものだったと思われますか?
家を守る、血筋を守るということは、あの時代はすごく大事なことだったと思いますね。ですから男には頑固一徹さがあって当たり前で、家族を食べさせるのは当然のことなんです。でもそのことで家の犠牲者が出るということはものすごく辛いですね。
松蔵は裸一貫からたたきあげてお店を大きくした男ですから、仕事第一ですし「おれが仕事をすることによって皆を食べさせているんだ」、という意識がものすごく強いと思うんです。セットを初めて拝見したとき、とても立派な店構えで本当に驚きました。あんなに大きいお店だったら、なかなか手放したくならないな、と主人の松蔵の気持ちが分かる気がしますね。
演じるときに気をつけた点などありますか?
ふっと甘くなってしまいそうなのを耐えながら、憎々しげに演じるように心がけました(笑)。本当のことを偽ってでも血筋を残すため、正祐に跡を継がせるためには、テルは邪魔だったんでしょう。正祐に甘くて、テルに冷たくなってしまうのは仕方のないことなんです。大正時代は、ある意味時代劇に近いところがあるので、一徹さ、武士に近い感覚があると思って、そういうところは意識しました。
上戸彩さんとの共演はいかがですか?
本当にいいお嬢さんですね。清楚だけれど、しっかりとした芯を持っている人で、周囲にも気さくで優しくて、まさにみすゞ役にぴったりだと思います。撮影現場の雰囲気は主役で決まります。あの上戸さんのほんわかとしたムードで進みましたが、作品自体には非常に厳しいものがあって、本当に良かったです。
詩人「金子みすゞ」についてどう思われますか?
一途な人ですよね。生き方にしても、正祐に対しても一番つらいのはテルでしょうから、こういう境遇の中で少女時代を過ごしてきて、だからこそ純粋な詩を書けたんでしょう。想像を絶する苦労をされた方なのに、全く汚れていなくて、なのにその詩には人間性をズバッと突かれるような、非常に鋭いものがあるのではないかと思います。
テル自身の「絆」は、どんなものだったと思いますか?
どこか、人との関わりは捨てていたのではないでしょうか。自分で諦めて、その上にある詩の世界だけが、一番純粋な自分に会えるということがあったんだと思います。彼女の人生はあちらに行け、こちらに来い、嫁に行け、別れろ…悲しいことだらけじゃないですか。男が絶対的な権力を持っている世界で、女性はそれに従うのが当たり前、という大前提の上で家族が成り立っていますが、この頃はそれしかなかったから、それが当たり前のことだと女性たちは思っていたんでしょうね。今の若い人から見たら「とんでもない!」とびっくりするのではないでしょうか。
メッセージをお願いします。
ドラマをご覧いただければ、みすゞの人生には、詩以上に大変なドラマがあったということがわかります。激動の時期に生まれ、あれだけの素晴らしい詩を残されて、彼女の人生は短い時間だったかも知れませんけれど本当にすごいです。 彼女の生い立ちから亡くなるまでをご覧いただいた上で、改めて詩を読んでいただければ、さらに感動が大きくなると思います。