特集

バーレーン、マナーマ第42回世界遺産委員会リポート

7月1日(日) バーレーン世界遺産委員会リポート 第四回

 バーレーンは連日40度を超える猛暑。しかし世界遺産委員会の会場はガンガンに冷房が効いていて、そこから外に出るとメガネが一瞬で真っ白に曇ります。文字通り「焼きつけるような日差し」で、日中、街を歩いている人がほとんどいないのも無理ありません。

 今日も新しい世界遺産の審議です。異例に時間のかかったものがふたつありました。

 ひとつはイタリアの候補、「コネリアーノからヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘陵群」。プロセッコはイタリアの白のスパークリングワインで、ヴェネト州にあるコネリアーノもヴァルドッビアーデネもその産地です。ICOMOS(国際記念物遺跡会議 /International Council on Monuments and Sites) の事前の評価は「不登録」、つまり世界遺産にふさわしくないという四段階評価で最低のものでした。
 ワイン作りについては、すでにフランス・ボルドーのサンテ=ミリオン、ブルゴーニュ、スパークリングワインではシャンパーニュ、さらにイタリアのピエモンテなどが世界遺産に登録されており、それらと差別化するものがない・・・というのがICOMOSの判断でした。

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「プロセッコの丘陵群」
審議中の世界遺産委員会

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すでに世界遺産になっているフランスの
「シャンパーニュの丘陵」

 事前に「不登録」の評価が出ると、普通、当事国は候補を審議前に取り下げるのですが、イタリアは「ICOMOSの評価は受け入れがたい」と委員会での真っ向勝負に出たのです。
 審議を始めてみると、ジンバブエ、ウガンダ、ハンガリーなどの委員国から「これは世界遺産にふさわしい。ICOMOSは考え方を改めるべきだ」という、イタリアを支持する意見が相次ぎました。
 一方、同じ委員国でもオーストラリアは「ICOMOSの評価にも理があるので、「登録延期」(四段階評価で上から三番目)にするのが良い」と、どちらかというとICOMOS寄りの主張。イタリア支持派、ICOMOS支持派、どちらも譲らず、ついに投票になってしまいました。

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投票の説明をする事務局スタッフ

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投票する委員国のメンバー

 世界遺産委員会は「全会一致」を基本としており、みんなが納得するまで討議します。以前、パレスチナ自治区が出した世界遺産候補をめぐってイスラエル&アメリカ派とアラブ諸国を軸とする反イスラエル派が相譲らず投票になったことがありますが、こうした政治的背景もないのに投票になったのは、私の経験では初めてです。
 無記名で投票する形で行われた結果は、ジンバブエらの提案を支持する国が9、反対する国が12となりました。つまり世界遺産への登録は否決されたのです。イタリア政府代表は憮然として、会議場にたたずんでしました。
 結局、アンゴラが「情報照会」(四段階評価で上から二番目)にすることを提案し、それで決着しました。ひとつの候補の審議は通常20〜30分くらいなのですが、この審議では1時間近くも要しました。

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投票結果に立ち尽くす
イタリア政府代表

 もうひとつ異例に時間がかかったのがドイツの候補「ナウムブルク大聖堂」。
 3年前、ドイツ・ボンで開催された第39回世界遺産委員会で、「ナウムブルクの大聖堂と関連する文化的景観」として候補になり、そのときは「登録延期」という結果でした。さらに昨年、ポーランド・クラクフでの第41回世界遺産委員会にも「ナウムブルク大聖堂とサーレ・ウンシュトルトの中世盛期の文化的景観」として推薦。ボンの時よりも構成資産を11から3にまで絞り込んだのですが、さらに「大聖堂に絞るべき」とされ「情報照会」という結果に終わりました。
 三度目の正直で、ナウムブルク大聖堂だけを候補にしてきたのですが、事前評価は最低の「不登録」。「すでに多くの大聖堂が世界遺産になっており、それとの差別化が出来ていない」というのが理由です(前述のイタリアのワインのケースと同じです)。
 一方、ボンやクラクフでの世界遺産委員会では、「世界遺産にふさわしい“顕著で普遍的な価値がある”」という前提で「登録延期」や「情報照会」という審議結果を出しているので、「不登録」=「世界遺産にふさわしくない」という今回の事前評価と矛盾してしまいました。
 この審議も延々と1時間以上も続き、結局、事前評価とは真逆の「世界遺産に登録する」という提案が通り、ついに新しい世界遺産となりました。

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ドイツの候補
「ナウムブルク大聖堂」
© Förderverein Welterbe an Saale und Unstrut
Author: Guido Siebert

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新登録10号
「ナウムブルク大聖堂」
© Förderverein Welterbe an Saale und Unstrut
Author: Guido Siebert

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登録決定に喜ぶドイツ政府代表団

 この他に、今日の審議で3つの文化遺産と2つの複合遺産が、新たな世界遺産に決まりました。

・イタリア「20世紀の産業都市イヴレーア」
 イタリア北部の街イヴレーアは、タイプライターで有名なオリベッティ発祥の地で産業都市としてさまざまな施設が残っています。
・スペイン「カリフ都市メディナ・アサーラ」
 イスラム教徒が支配していた時代の遺跡で、長く地中に埋もれていたため当時の建築の様子がよく残されています。
・トルコ「ギョベクリ・テペ」
 一説には「世界最古の建造物が残る」と言われる考古遺跡です。

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新登録11号
「20世紀の産業都市イヴレーア」(イタリア)
© Guelpa Foundation
Author: Maurizio Gjivovich

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新登録12号
「カリフ都市メディナ・アサーラ」(スペイン)
© Madinat al-Zahra Archaeological Site (CAMaZ)
Auteur : M. Pijuán

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新登録13号
「ギョベクリ・テペ」(トルコ)
© DAI, Göbekli Tepe Project
Author: Göbekli Tepe Project

・カナダの「ピマチオウィン・アキ」
 カナダの広大な自然保護区と、そこに暮らす先住民の文化が評価された複合遺産。二年前の世界遺産委員会でも審議され、そのときは「登録にふさわしい」という事前勧告がありながら、委員会審議で逆転し、「情報照会」に下げられてしまうという非常に珍しい経緯ののち、今回ようやく新登録となりました。
・コロンビア「チリビケテ国立公園−「ジャガーのマロカ」」
 アマゾン奥地の秘境で、文化的にも先史時代の岩絵などが残っています。

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新登録14号
「ピマチオウィン・アキ」(カナダ)
© IUCN
Author: Bastian Bertzky

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新登録15号
「チリビケテ国立公園−「ジャガーのマロカ」(コロンビア)
© Steve Winter
Author: Steve Winter

 明日7月2日は、自然遺産の審議が行われる予定です。

プロデューサー 堤