特集

2019年3月17日「ディキスの石球のある首長制集落群」

ディキスの石球のある首長制集落群

中央アメリカの小国、コスタリカ。この国に降り立つと目に入ってくる不思議なものがあります。街のさまざまな場所にある大きな丸い石──石球です。コスタリカのシンボルともなっているこれらの石球は、実は先住民がつくったもの。古いものは1000年以上も前につくられました。今回は、不思議な石球が見つかったコスタリカのディキスの世界遺産を、江夏ディレクターに紹介してもらいます。

その数、200個以上!謎の石球

世界でも類を見ない、不思議な石球があるディキスの世界遺産。数多くの遺跡から、200個以上の石球が発見されていますが、公園や学校に飾られているものも多数あります。飾り石にも使われる美しい球体は、どうやってつくられたのでしょうか?

──今回は中米のコスタリカの世界遺産ですね。まずは、どのような遺産なのか教えてください。

江夏:コスタリカ南部の太平洋側、河口に広がるディキス・デルタにある先住民の集落跡です。4つの集落跡が世界遺産に登録されています。一番の特徴は、遺跡で見つかったまん丸の石球です。16世紀にスペインが入植する以前、ディキス・デルタには石球を崇める独特の文化を持った先住民が暮らしていました。1930年代、バナナ農園を開墾するため森を切り開いていたところ、偶然、ジャングルの中から不思議な石球が次々に見つかったんです。

ディキスで見つかった、謎の石球たち。真円に近いシルエットで、表面は滑らかに磨かれています。このような石球が200個以上も見つかりました。

──石球とは一風変わった遺物ですね。どんな石球なのですか?

江夏:はい。世界でもここだけで見られる特徴的なもので、54カ所の遺跡から200個以上の石球が見つかっています。石球は、主に花崗閃緑岩(かこうせんりょくがん)と斑れい岩という火山由来の岩石でできています。大きさは、直径70cmくらいのものから、2mを超えるものまで様々ですが、多くは形の整ったきれいな球体です。世界遺産に登録されているエル・シレンシオ遺跡で見つかった最大の石球は、直径は何と2メートル66センチで、重さは24トンもあるんです。

コスタリカでは、各地で街の中にある石球を見ることができます。公園に遊具のように置かれている石球や、学校の庭に飾れた石球。見つかった石球は飾り石として、各地に持ち運ばれたのです。

見つかった中で最大の石球は、直径2メートル66センチで、重さは24トンもあります。エル・シレンシオ遺跡で発見されました。なお、表面が風化しているのは、山火事が原因です。

──200個以上も見つかっているんですね。そのようなきれいな球体をどうやってつくったのでしょうか?

江夏:石球は、9〜16世紀の間につくられたものだと言われています。石球の材料となった岩石は、ディキス・デルタを一望する丘の上に転がっています。そこで大まかな球体に整え、集落に運んでからきれいに仕上げたと考えられています。木の枝と縄で作られた弓のような道具を使い、その曲線をガイドにして、球体を削っていたようです。鉄の道具を持たなかった先住民は、材料となる石より硬い玄武岩をハンマーのように使って少しずつ石を削り、砂を水で溶いたものを研磨剤にして、動物の皮で表面を磨いて滑らかに仕上げたと考えられています。番組では、地元の石職人に、実際に石球をつくる過程を再現してもらいました。

石球の加工方法を再現してもらいました。弓のような道具を曲面のガイドにして、石球よりも硬い玄武岩をハンマーのように使って削っていきます。さらに、水で溶いた砂を使って表面を磨きます。

──きれいな球体をつくるために、ずいぶんと手間をかけていたんですね。

江夏:実は石球の加工方法については、当時の状況を考えるとこういう方法が有力ではないか、という推測なんです。文字の記録などが残っておらず、ディキスの文化についてはハッキリしたことがまだわかっていません。しかも、ディキスの石球は、見つかったときのオリジナルの配置になっているものがほとんどないんですよ。それどころか、国中に散り散りになっているんです。

──そうなんですね。何があったのでしょうか?

江夏:余りにもまん丸な石球なので、飾り石として欲しがる人も多く、持っていかれてしまったんです。今では公園や街角、学校の中などにもパブリックアートのように置かれていて、周りで子どもたちが遊んでいたりします。またかつて、石球の中には黄金が入っているといった噂があり、破壊された石球も多数ありました。ディキス地方は中米有数の金の産出地でもあり、かつては華やかな黄金文化も存在していました。番組には、ディキスで見つかったさまざまな黄金の装飾品も登場します。

ディキスには、華やかな黄金の文化もありました。博物館にはさまざまな黄金の装飾品が保管されています。先住民は川で砂金をとっていましたが、ディキスで採れた最大級の金塊は、人のこぶしほどの大きさがあります。