特集

クーデターと上野・国立西洋美術館…イスタンブール世界遺産委員会リポート

クーデターと上野・国立西洋美術館…イスタンブール世界遺産委員会リポート

7月17日(日) イスタンブール世界遺産委員会リポート3

午前8時過ぎに、世界遺産委員会の会場、イスタンブール・コングレスセンターへ向かいました。
前夜は、この近くのラジオ局でも銃撃戦があったとのことですが、関係者は続々と集まってきます。
「きょうの審議がどうなるかは、まだ流動的です。日を改めてかと思いますが、ここでやりたいという国もあるので……」
と、外務省の担当者もどうなるか読み切れない様子でした。

午前9時半すぎに、開会。冒頭、開催国トルコの議長が、
「トルコとしては会期を短くせずに続けたかったが、ユネスコと国連から短くするように指示されたので、やむなく今日で終わりとすることになりました」
と、ちょっと口惜しそうに説明しました。

実は、イスタンブールでの世界遺産委員会開催を危ぶむ声は、事前からかなりありました。IS(過激派組織イスラム国)などのテロが相次いでおり、治安に問題があったからです。 しかし、トルコ政府は「大丈夫」と強気で、開催に踏み切りました。 その結果、テロどころかクーデター(未遂ですが)まで起きてしまったのですが、トルコの強気の姿勢は変わらないようです。さらに……
「世界遺産の審議は、きょう一日、続けます。時間切れで審議しきれなかったものについては、日を改めてパリで審議します」
とのこと。

予定通りなら、「ル・コルビジェの建築作品」は今日の二番目の審議を予定していたので、がぜん、世界遺産に登録される可能性が出てきたのです。
急ぎ、状況を東京の外信部に電話で伝え、会場で審議を傍聴しました。

午前11時前から、コルビジェの審議が始まりました。実は、世界遺産への挑戦は今回が三度目です。世界各地、違う大陸にあるコルビジェの作品を、ひとつの世界遺産として登録しようという試みで、過去二回は、そうした例がなかったこともあり、登録に至りませんでした。
しかし、一昨年に世界遺産となった「シルクロード」や「インカの道」など、世界各国に点在するものをひとつの世界遺産とするケースが増えたこともあり、コルビジェも今回は大丈夫と見られていました。

午前11時21分、各国代表団の賛成で、「ル・コルビジェの建築作品」の世界遺産登録が決まりました。そして上野の国立西洋美術館も、その作品のひとつとして世界遺産になったのです。

photo

国立西洋美術館の世界遺産登録が決まった瞬間

photo

世界遺産登録が決まった上野・国立西洋美術館

「本当にうれしい。クーデターのときは、もうこれで終わりかと思いました。それくらい恐怖感がありましたが、今日のうれしさに比べたら……」
と、地元・台東区の関係者は目頭を押さえました。

この日は、午後9時の閉会までに予定していた候補すべての審議を終え、コルビジェを含む12の世界遺産が新たに登録されました。

文化遺産は3つ。

photo

ル・コルビジェの建築作品
(フランス、スイス、ベルギー、ドイツ、アルゼンチン、インド、日本)
© FLC/ADAGP

photo

アンティグアの造船所と関連考古遺跡群
(アンティグア・バーブーダ)
© Nicola & Reg Murphy

photo

パンプーリャの近代建築群
(ブラジル)
© Danilo Matoso Macedo

複合遺産は3つ。

photo

エネディ山塊の自然と文化的景観
(チャド)
© Tilman Lenssen-Erz

photo

カンチェンジュンガ国立公園
(インド)
© FEWMD

南イラクの湿原地域:生物多様性保護区とメソポタミア都市群の残存景観
(イラク)
© Jasim Al-Asady

自然遺産は6つ。

photo

湖北の神農架
(中国)
© Institute of Botany, The Chinese Academy of Science

photo

ミステイクン・ポイント
(カナダ)
© Mistaken Point Ambassadors Inc

photo

レビジャヒヘド諸島
(メキシコ)
© Erick Higuera

photo

サンガネブ海洋公園とドンゴナーブ湾
−ムカワル島海洋公園
(スーダン)
© PERGSA

photo

ルート砂漠
(イラン)
© Alireza Amrikazemi

photo

西天山
(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス)
© Ushakov V.

途中、「南イラクの湿原地域」の登録が決まったとき、イラク関係者の面々がみんな抱き合って喜び、次の審議になかなか入れないときがありました。すると議長が、
「まだ審議の残っているものがあります。騒ぐなら外でやってください」
とたしなめるシーンがありました。元々は7月15日、16日、17日の三日間で審議するはずだったものを、二日間で終えるために、議事進行はかなりシビアなものでした。

既存の世界遺産の範囲拡大などが議題として残り、それは秋にパリで開く臨時委員会で話し合うことになりました。
そして最後に、議長が来年の世界遺産委員会をポーランドのクラクフで開くことを発表し、委員会は閉会しました。
今回は新たに21の世界遺産が登録され、世界遺産の総数は1052となりました。

プロデューサー 堤