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クーデターと上野・国立西洋美術館…イスタンブール世界遺産委員会リポート

クーデターと上野・国立西洋美術館…イスタンブール世界遺産委員会リポート

7月16日(土) イスタンブール世界遺産委員会リポート2

午前2時過ぎ、メールの着信音で目が覚めました。
「トルコでクーデターか」という速報メールです。
外務省からも、「重要!!【治安速報】宿舎にとどまって下さい」というタイトルのメールが。

東京の外信部に電話すると、
「無事でよかった!電話しても出なかったので心配していたんです」
と、デスクが安堵した様子。
クーデター騒ぎは午後11時過ぎから始まっていたのですが、泥のように眠っていたので、電話にも起きなかったようです。

ホテルのロビーに降りると、深夜にも関わらず宿泊者や従業員がテレビの前に集まって、ニュースに見入っています。
クーデターを起こした部隊は、アタテュルク空港と、イスタンブールの真ん中を流れるボスポラス海峡の橋を占拠していました。首都アンカラでは、さらに大規模に展開している様子です。
タクシム広場近くのこのホテルからは、戦闘部隊や交戦する様子は見えなかったのですが、戦闘機のエンジン音なのか、超低空で飛ぶ飛行機のすさまじい爆音がします。さらに爆発音のようなものも聞こえてきました。

東京の外信部から電話があり、
「昼のニュースで、ホテルから中継して欲しいので、タブレット端末に必要なアプリを入れてください」
とのこと。インターネットは普通につながっていたので、電話の指示に従い、生中継ができるアプリをインストール。クーデターにもかかわらず、電話、テレビ、ネット、通信関係に影響はほぼ出ていませんでした。

午前5時過ぎ(時差6時間なので、日本時間の午前11時過ぎ)、空が明るくなってきたので、ホテルの屋上から周囲を見渡しましたが、戦闘機や戦車などの姿はなく、爆発音も聞こえてきません。人影もなく、たまに普通の車が走っているくらいで、静かな様子です。
30分後、ホテルの部屋から昼のニュースの中継。その後、VTRでリポートを撮って送って欲しいということで、持ってきていたデジカメでホテルの屋上で撮影し、インターネットで動画を送りました。

外務省からは、
「今日の世界遺産委員会は中止となりました。絶対に外に出ないでください」
というメール。

ホテルでテレビニュースを見続けると、ボスポラス橋のクーデター部隊が投降し始めるなど、イスタンブールでの事態は収束に向かっているようでした。
ホテルの周囲でもカフェやレストランが営業を始め、人も車も動き始めています。
昼過ぎに、近くのタクシム広場に行ってみると、クーデターを感じさせるものは全くなく、行き来する人も広場の周りの店も、日常の姿でした。

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深夜のタクシム広場に集まった群衆

深夜になって、ロンドン支局とベルリン支局からの取材チームが到着。タキシム広場から中継するのを手伝ったのですが、昼間とは一変。クーデターに反対する人々が大挙して集まり、広場を埋め尽くしています。
午前3時を過ぎても、みなトルコ国旗を振りかざし、気勢を上げ続ける様子は尋常ならざるものでした。

イスタンブールでのクーデター自体はほぼ収束したと見た取材チームは、中継を終えると、休む間もなく首都アンカラに向かいました。

一方、ユネスコはホームページで、
「明日の世界遺産委員会は開催するが、明日17日で今回の委員会は終わりとする」という告示を出しました。
予定していた会期は20日までだったので、大幅な短縮です。時間的に、残りの世界遺産候補の審議は難しい状況となりました。
「今回は、上野・西洋美術館の世界遺産登録は難しいなあ。日を改めて、パリのユネスコ本部で審議するんじゃないか」
そんな読みを、東京の外信部には伝えました。

プロデューサー 堤