杉本哲太さん(前原昭夫役)のコメント

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『赤い指』の台本を読んだ感想をお聞かせ下さい。
原作も拝見したのですが、この作品の中で事件を起こしてしまう前原家というのは、本当に一般的な“ごく普通の家族”なんですね。「まさか、うちに限ってこんなことは起こるはずがない」と思われるかもしれませんが、どこにでも起こりうるようなテーマを扱っていて、ものすごくリアリティを感じました。
杉本さんが演じられる『前原昭夫』とは、どんな人物ですか?
ある殺人を隠ぺいするために奔走するサラリーマンという役どころです。「家族を守るため」に嘘をつかざるを得なくなってしまった昭夫とその妻が、まるで洋服のボタンをかけ違えるかのように少しずつ少しずつ間違った方向へと進んでいって、最後にはとんでもない結論を導き出してしまうという恐ろしい物語なのですが…出演のお話をいただいた時は、ごく普通の家族が“かけ違えていく様”をうまく演じなくてはいけないなと思いました。
演じるうえで、「難しいな」とお感じになったことがあれば、教えてください。
先ほどもお話したように、この物語は“ごく普通の家族”に起きてしまった悲劇を描いた作品なので、サスペンスの要素を意識しつつも、一般的な家庭の「リアリティ」や「佇まい」の部分に説得力を持たせたかったので、そのあたりの塩梅(あんばい)には気を使いましたし、難しさも感じました。ただ、今回は、僕がちょっと違う方向に芝居を進めようとすると、その都度、監督が「ピシャッ」と的確な指示を与えて方向修正してくださったので、大変やりやすかったですね。
また、“事件を隠ぺいする”という役どころなので、阿部さん演じる加賀刑事に対して嘘をつくという芝居が多かったのですが、あらかじめ(台本上に)用意されている嘘をついていく芝居をしながらも、さも突然、加賀刑事から予想もしていなかったようなことを聞かれてビックリしたかのようなふりをして答えるという、2重3重にも嘘を塗り固めたような芝居を構築していかなければならないというところにも、すごく難しさを感じましたね(苦笑)。「それが俳優の仕事だ」と言われればそれまでなのですが(笑)、先々の展開がわかっている中で、あたかもその時に“初めて見聞きした”かのようなリアクションをとり、そこに嘘がないようにみせるにはどうしたらよいのかというところにも、いつも以上に気を配ったように思います。
登場シーンも多く、杉本さんにとってはかなり過酷な撮影だったのではないでしょうか?
緊迫したシーンの連続で、撮影中はずっと気を抜けませんでしたね(笑)。しいて僕が気を抜くことを許されていたシーンを挙げるとするのならば、夜道で自転車をこぐぐらいのものだったのではないでしょうか(苦笑)。ただ、それはそれで肉体的にものすごく大変な撮影だったのですが・・・(笑)。
加賀恭一郎役・阿部寛さんとのご共演はいかがでしたか?
阿部さんとご一緒させていただくのは、今回が2度目になるのですが、加賀を演じる阿部さんの目は、とても強くて印象的でした。加賀は、こちら(昭夫)が嘘をついているということを見越した上で、でもそういった疑念を表に出すことなく接してくるのですが…昭夫を演じる身としては、あの眼差しで見つめられてしまうとついつい心の中を見透かされたような気持ちになって、本当のことを口走ってしまいそうになるんですよね(笑)。
例えるのなら、加賀恭一郎の目は『高回転で回っているコマ』のような感じ。一見「静」のように見えて、実は「動」なんですよね。だから、そこにすごく惹きこまれましたし、でも役柄的には惹きこまれてはいけないし…。本当に追い詰められたような気分に陥って、たまに涙目になりながらも(笑)、楽しみながら心理戦を繰り広げられたんじゃないかと思います。
撮影中、「印象深かったシーンやエピソード」があれば教えてください。
本当にたくさんあるんですけれども、一番驚いたことといえば…先日のスタジオでの撮影中のことでしょうか。この作品はスタジオで収録する際、通常5台のカメラを回して撮影しているのですが、5人のカメラマンの方たちがそれぞれのカメラを“手持ち”に切り替えて、狭い「前原家のリビング」の中に入ってこられたときは、ちょっとビックリしましたね。相当念入りに打ち合わせをしてから撮影に臨まれていたのだと思うのですが、互いのカメラに写りこまずに撮るだけでも大変なことだと思いますし、とにかく彼らの迫力に圧倒されてしまって(笑)。ですが、我々俳優にとっては、あちこちの角度からいっぺんに、いろんな角度の映像を押さえていただけるというのは、そこに集中して瞬発力を出せるのでありがたかったですね。おかげで緊張感が途切れることなく、最後まで演じきれたんじゃないかと思います。
最後の質問になりますが、この作品を通じてどんなことを伝えたいですか?
一般的な家庭が抱えているであろう問題をいくつも織り込んである作品ですし、ただのサスペンスでは終わらない、原作の世界観を生かしたメッセージ性の強い「人間ドラマ」に仕上がっていると思います。放送は「1月3日」とお正月の真っ只中ではありますが、ぜひ気を引き締めてご覧いただきたいです。

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