おやこで学ぼう救急処置!!

お子様たちや、お母さん、お父さん…家族全員で「困った…こんなときどうしよう!」と、身近に起こりうる、ちょっとしたケガや病気の応急手当を『病院で念仏を唱えないでください』の医療監修チームに教えていただくコーナーです

【第9回】救急処置総まとめ

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ついに最終回となりました。
本日は救急、特にドラマでも良く出てきた大けがのための医療(外傷診療)についてお話をしたいと思います。

1救急医療ってなんだろう?

救急医療は、急病や大けがを負った傷病者の方へ行う医療です。急病というのは当然ながら大昔からあり、医療はこの急病への対応から進化したとも言えるかもしれませんね。現在の医療は病気を予防する予防医学から病気になった人を直す医療まで幅広い進んだ医療が行われています。この中でも急病に対応する救急医療は「医の原点」とも言える領域だと思います。

2大けがをした人の医療、「外傷診療」

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この救急医療の中でも大けがをした人に対応する医療を外傷診療と言います。私が専門としている領域です。交通事故や列車事故、労務災害などで大きなけがを負う場合、最悪命を失うこともあります。特に交通事故などは、朝元気に「行ってきます」と出かけていった人が突然の事故で命を失うことになり得ます。こうした患者さんを助けるために整備されているのが救命救急センターです。ドラマでも交通事故の患者さんが多く運ばれてきました。こうした患者さんにいち早く治療を行い救命するのが僕たちの役割です。

大きなけがの場合、命を奪う病態の大半は「出血」です。大量に出血することで心臓が停止して死にいたります。ドラマの中でも大量に出血して命を失っていた人たちがいました。こうした大量出血の患者さんは、けがをしてから1時間以内に根本的な止血を行わないと救命できないとも言われています。この1時間のことをゴールデン・ピリオドといいます。この1時間は非常に大切な1時間です。そのため、外傷診療では時間が重要な鍵でもあるわけです。正しい治療を実際にできたとしても、それに時間がかかってしまったら患者さんを助けることができないのも外傷診療の特徴だと言われています。けがをしてからすぐに119番をすると救急隊が駆け付けます。救急隊が到着するまでの時間は都市部で平均10~20分程度とされています。そして救急救命士という国家資格者が現場で患者さんの評価をし、危険な徴候があれば救命救急センターへと搬送します。この現場での活動が約10~15分、病院までの搬送が約10分とすれば、病院に到着してから止血術を行うまでに残された時間は、15~30分しかありません。多くの皆さんは、病院に到着したらすぐに手術をして出血を止めることができると考えているかもしれませんが、15~30分以内に手術が開始できる病院は全国にほんのわずかしかありません。残念ながらこれが日本の現状です。つまり日本の救命救急センターは大けがだけに特化しているわけではなく、様々な救急病態に対応しているため、数分という単位で手術をすることができる施設は限られています。 ドラマでは、救急室で「ここで開ける(手術をすると言うこと)」とよく松本先生が言っていました。このように救急室ですぐに手術をできる施設はごくごくわずかしかありません。そういう意味ではドラマに登場した救命救急センターは外傷診療の理想型と言うこともできます。

では欧米諸国はどのような感じなのでしょうか。実は欧米では国立の「外傷センター」という大けが専用の救急病院が国の制度として整備されています。国ごとに決められた基準に沿って設置されています。アメリカではこの外傷センターの設置のための基準として、病院到着から15分以内に手術が実施できるなど厳しい条件が決められています。しかし、残念ながら日本には国が整備した外傷センターは実は存在しません。驚きですよね。私のいる施設は高度外傷センターと呼んでいますが、これは実は自称なんです。国の制度として設置されているわけではなく、あくまで各病院が努力して体制を整備しているんです。これが日本の外傷診療の現状です。日本にも欧米諸国のように大けがを専門とした国による外傷センターを全国に整備しなければならないと思い、いろいろなところに働きかかけています。元気に出かけていった人が、不幸にしてけがを負ったとしても元気に社会復帰できる体制が日本にも求められています。

3外傷診療の延長線上にある災害医療

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日本ではここ数年、災害が非常に多くなっています。地震災害では多くのけが人が出ることは容易に想像できると思います。そうです、災害時に行う「災害医療」という領域も外傷診療の延長線上にあると考えることもできます。ドラマの中では、交通事故や通り魔など、同時に多数のけが人が発生するシーンがありました。こうした状態を多数傷病者事案と言います。重篤なけがを負った人が複数同時に発生するため、こうした患者さんに最良の医療を提供できる仕組みを考えるのも災害医療の重要な役割の一つです。世界ではテロも増えています。テロでは多くの人が大けがを負い、そして命を失う人も多数います。こうしたことに日本も備えていかなければならない時代になってきているのかもしれません。地震をはじめとした災害時の医療も救急医が考えていかなければならない重要な領域だと思います。災害列島日本にこれからもっと求められる医療の領域ではないかと思っています。

いろいろととりとめもないお話になりましたが、長らくおつきあいいただきありがとうございました。

写真:渡部 広明

【 医療監修 】

島根大学医学部附属病院 高度外傷センター
Acute Care Surgery講座 教授
高度外傷センター センター長
渡部 広明

専門分野:Acute Care Surgery(外傷外科、救急外科)、外傷学、災害医学、救急医学、病院前診療学、集中治療学

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