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サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月21日(木) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第八回

 サウジアラビアの首都リヤドで開催されている第45回世界遺産委員会。
 新しい世界遺産の審議も昨日で終わったので、最後にサウジアラビアと委員会について印象に残ったことを記したいと思います。

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新しい世界遺産の審議を終えたリヤド世界遺産委員会

・劇的に変化しつつあるサウジアラビア

 初めてのサウジアラビア訪問。来る前に抱いていたイメージは「外国人にも厳しいイスラムの国」でした。「地球の歩き方~ドバイとアラビア半島の国々~」(実はサウジアラビアのまともな最新ガイドブックはなく、この本でも一章が割かれているだけ)にも、「サウジアラビアのように外国人にもイスラムのタブーが厳しく適用される国は少ない。町なかでは風紀取り締まり官のムタワが目を光らせているので、慣れないうちはビクビクさせられる」と書いてあります。この「地球の歩き方」が書かれたのは2020年ですが、状況は劇的に変わっていました。
 ムタワというのは宗教警察(正式には勧善懲悪委員会)のことで、イスラムの教えに反したものを捜査・逮捕する権限も持っていました。しかし、2016年に捜査・逮捕権が剥奪され、少なくとも首都リヤドでは目を光らせている姿を見ることもなく、声をかけられたこともなく、異教徒の外国人だからといってビクビクする必要は全くありませんでした。

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宗教警察の姿を見かけなかったリヤドの街

 2019年、サウジアラビアはそれまでは発行してなかった観光ビザを解禁し、国外からの観光誘致に力を入れ始めました。
 かつてイスラム教徒以外は街に入ることもできなかった聖地メディナに、異教徒でも観光に行くことが可能です(もうひとつの聖地メッカは、まだイスラム教徒以外は入れません)。メディナは世界中からイスラムの巡礼者が集まる街で、中心に30万人が礼拝できる「預言者のモスク」という空前絶後のスケールの巨大モスクがあります。このモスクも建物内部は入れませんが、敷地内に入り外観を見て歩くことは出来ました。同行した昔のサウジアラビアを知る人には驚きのようで、「イスラムではないのに、ここまで入れるとは・・・時代は変わった!」と天にそびえるミナレットを仰いでいました。

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聖地メディナの「預言者のモスク」

 さらに印象的だったのが、女性の社会進出です。前記のサウジアラビアに詳しい人によると「5年前とは全然違う」とのこと。街中を、女性がひとりで歩いている・・・これにまずビックリしたそうです。かつては夫や母親など家族と一緒でないと外出もできなかったのが、今では夜でも一人歩きしている女性を見ることができます。

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リヤドのショッピングモールを一人歩きしている女性

 また2019年から女性が自動車を運転することが許され、実際に運転している姿を見かけました。やはり黒いローブ(アバーヤ)で、髪も黒いスカーフ(ヒジャブ)で包んでいる女性が多いのですが、その姿で自動車を運転したり、一人歩きしたりしているのです。
 人前で仕事をしている女性も劇的に増え、たとえばかつては男性ばかりだった空港のチェックインカウンター。今ではアバーヤ姿の女性がたくさんいて、手続きをしてくれます。
 世界遺産委員会の会場でも、受付・案内係などサポートしているボランティアの半分くらいは女性ですし、記録用に撮影している女性カメラマンまでいました。

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女性スタッフも多い世界遺産委員会の受付

 リヤドを歩いているとピザハットもスターバックスもショッピングモールもあって、自由に動き働く女性もいて、ドバイと変わらない感じがします。「アル=ヒジュルの考古遺跡(マダイン・サーレハ)」など見応えのある世界遺産もあり、外国人にも優しくなったサウジアラビア。これから、観光の穴場になる予感がしました。

・存在感があった日本政府代表団

 世界遺産委員会にオブザーバー参加するのは今回で10回目ですが、今年ほど、日本政府代表団の存在感があったことはなかったと思います。過去の委員会の討議では、良くも悪くも突出せず、目立たない感じが強かったのですが、今回は積極的に発言し、議論をリードする場面が多々ありました。
 今回、日本代表団を率いたのは尾池厚之ユネスコ大使。たとえば議事進行のやり方について粘り強く、論理的に主張するなど、これまでに見たことのないユネスコ大使の姿でした。各国関係者がコーヒーブレイクする部屋でも、「今回みたいな日本は初めてだ」といった声が聞くことができました。

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日本政府代表団の尾池ユネスコ大使

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各国関係者がコーヒーブレイクする部屋

 ユネスコ大使とは、正式には「ユネスコ日本政府代表部」の特命全権大使のことです。外務省は以前からユネスコ本部のあるパリに日本政府代表部を置き、国ではなく国際機関なのに「ユネスコ大使」という特別な大使も常駐させてきました。ユネスコと向き合う大使の大きな仕事のひとつが、この世界遺産委員会です。このように組織的には力を入れてきた割には、国際社会への打ち出しが今一つだった憾みがあったのですが、「世界に対し主張できる日本」へと変わりつつあるように感じました。
 世界遺産委員会における委員国としての日本の任期は2025年まで。来年以降も、日本代表団がどんな姿を見せてくれるのか、注目したいと思います。

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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