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サウジアラビア・リヤド第45回世界遺産委員会リポート

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9月20日(水) サウジアラビア・リヤド世界遺産委員会リポート 第七回

 サウジアラビアの首都リヤドで行われている世界遺産委員会。20日も各国が推薦している世界遺産候補の審議が続き、新たに5つの世界遺産が決まりました。

・新しい自然遺産が3つ誕生

 まずは開催国、サウジアラビアの推薦していた「ウルク・バニ・マアリッド」が自然遺産に登録されました。サウジアラビア南部の広大な砂漠地帯で、砂が生み出す絶景と絶滅が危惧される生きものの生息地としての価値が認められました。
 地元に新しい世界遺産が生まれたので、サウジアラビア代表団は大喜び。新登録が決まった後も、お祝いを言うために代表団のところに人が殺到。議場は騒然として、しばらく次の審議に移ることが出来ませんでした。

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ウルク・バニ・マアリッド(サウジアラビア)

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「ウルク・バニ・マアリッド」の世界遺産登録が決まって歓喜のサウジアラビア代表団

 続いては、タジキスタンの「ティグロヴァヤ・バルカ自然保護区のトゥガイの森。トゥガイというのは川沿いにある地形で、その森に暮らす生態系が評価されました。タジキスタンにとって4つめの世界遺産になります。

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ティグロヴァヤ・バルカ自然保護区のトゥガイの森(タジキスタン)

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「ティグロヴァヤ・バルカ自然保護区のトゥガイの森」登録決定後、握手するタジキスタンと各国の代表団

 もうひとつ決まったのがウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタンの三カ国が一緒に推薦した「トゥランの寒冬の砂漠群」。カスピ海の東側、広大な中央アジアの乾燥地帯トゥランにある14の砂漠などで構成されます。冬がすさまじく寒く、苛酷な環境に適応したさまざまな生きものが暮らしていて、その生物の多様性の価値が認められて、世界遺産になりました。

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トゥランの寒冬の砂漠群(ウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン)

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「トゥランの厳冬の砂漠群」の登録が決まって謝辞を述べるカザフスタン代表団

 ちなみに、このように遠い場所や違う国に点在するものを一つの世界遺産とすることを「シリアル・ノミネーション」と呼びます。世界遺産が始まった頃にはなかった概念で、当初の世界遺産は「1か所にひとつの世界遺産」という原則で選ばれていました。
 その原則が外れて、シリアル・ノミネーションが増えてきたのはこの10年くらい。日本でも東北、北海道に点在する17の遺跡をひとつの世界遺産にした「北東北・北海道の縄文遺跡群」が、このシリアル・ノミネーションです。世界遺産のテーマや選び方も、時代と共に変化しているのです。

・新しいテーマ=「記憶の場」として、2つの世界遺産が誕生

 そして最も新しい、世界遺産のテーマが「記憶の場」。近現代の紛争に関して、「忘れがたい記憶に関わる場所」を世界遺産の対象とするものです。これまでなかったテーマ・概念で、昨日、その第一号となるアルゼンチンの「ESMA博物館と記憶の場 - かつての拘禁、拷問、虐殺の秘密収容所」が、文化遺産として登録されました
 今日も、この「記憶の場」として2つの世界遺産が決まりました。
 ひとつはアフリカ・ルワンダの「ジェノサイドの記憶の場 : ニャマタ、ムランビ、ギソッチ、ビセセロ」。推定100万人が殺害された1970年代のルワンダ内戦。その虐殺の現場など4つの場所が、世界遺産になりました。
 ほとんどの委員国が新登録を支持し、決まった後、多くの委員国のメンバーがルワンダ代表団へ握手を求めに行っていたのが印象的でした。昨日登録が決まった自然遺産「ニュングェ国立公園」に続いて、ルワンダふたつ目の世界遺産になります。

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ジェノサイドの記憶の場 ・ ニャマタ、ムランビ、ギソッチ、ビセセロ(ルワンダ)1

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ジェノサイドの記憶の場 ・ ニャマタ、ムランビ、ギソッチ、ビセセロ(ルワンダ)2

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「ジェノサイドの記憶の場」登録決定で拍手するルワンダ代表団

 もうひとつは、ベルギーとフランスが共同で推薦した「第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場」。ドイツ軍と連合国軍の大激戦地となり、毒ガスなどの生物化学兵器も使われた西部戦線。死者は数百万人以上にもなります。そのいくつもの墓地や記念碑などが、ひとつの世界遺産になりました。
 審議のときに、多くの国が訴えていたのが、「今こそ、平和を求めるメッセージとして、戦争の悲惨さを伝える「記憶の場」を世界遺産にするべき」というものでした。
 ロシヤやウクライナという地名こそ出さないものの、ヨーロッパを舞台に戦争が行われつつあることへの危機感が、「記憶の場」が次々と世界遺産になった背景にあります。

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第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場(フランス、 ベルギー)1

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第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場(フランス、 ベルギー)2

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「第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場」(フランス、ベルギー)の審議

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「第一次世界大戦(西部戦線)の追悼と記憶の場」の登録決定後のフランス・ベルギー代表団

これで、今回の世界遺産委員会での新しい世界遺産の審議は終了。
 今年は2022年分と2023年分の二年分の審議を行い、42の新たな世界遺産が誕生しました(自然遺産9、文化遺産33)。また5件の拡張登録も決まりました。

「世界遺産」プロデューサー 堤 慶太

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