特集

2023年12月10日放送「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」

古代からの歴史が織りなすドナウ川の絶景渓谷

オーストリアの山々の間を36kmにわたってドナウ川が流れるエリアは「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」として世界遺産に登録されています。その奥深い歴史と人々を魅了する絶景を紹介する番組を担当した田口ディレクターに話を聞きました。

花の絶景を生んだドナウ川の交易

景勝地として知られるヴァッハウ渓谷。春、日本人にとってはどこかで見たことがあるような花の景色がドナウ川の河岸に現れます。

──今回の「ヴァッハウ渓谷の文化的景観」とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

田口ディレクター(以下、田口):ヴァッハウ渓谷は、オーストリアのドナウ川沿いにある渓谷で、景色が素晴らしいことで知られています。全長およそ2850kmもあるドナウ川の河口から2000kmほど遡った場所なのですが、河口からここまではあまり大きな渓谷がありません。ここは36kmにわたって標高300mほどの山々に挟まれた地形なのです。

──2850kmもあるドナウ川の中で、この36kmはどういった点が特別なのでしょうか?

田口:この場所は古代から交易ルートの要衝でした。地形図を見ていると、ヨーロッパを東西に移動するにはヴァッハウ渓谷を通らざるを得ないのだなと感じます。また川や山々があるため、古くから領土の防衛のための重要な場所でもありました。そうした歴史の痕跡が残っていることが世界遺産に登録されている理由です。番組ではそうした痕跡をご紹介していきます。

ドナウ川の河口から2000km遡ったところにあるヴァッハウ渓谷。昔からドナウ川を使った交易や国や貴族の争いを巡る軍事上の拠点として重要な場所でした。

──具体的にはどのような映像が見られるのでしょうか?

田口:まずヴァッハウ渓谷のあんず畑をお見せします。あんずは中国が原産と考えられていて、2000年ほど前にドナウ川の交易によってここにもたらされたそうです。今回は河岸に広がるあんずの畑を、花が咲く春と収穫の時期の夏に撮影しました。あんずは桜や梅に似たきれいな花を咲かせます。一見、日本の春を思わせる風景なのですが、その向こうにはヨーロッパの古い建物が見えて、日本人にとってはちょっと不思議な感じがする光景だと思います。

春のドナウ川沿いに咲き誇るあんずの花。あんずは中国が原産と考えられ、2000年ほど前にドナウ川交易を通してこの地にもたらされました。

──ドナウ川沿いに花が咲き誇る春の景色、ぜひ見てみたいですね。夏のあんずはどのようになるのでしょうか?

田口:夏、あんずが熟した瞬間に収穫するのですが、そのタイミングがシビアで、生産者の方から「今日、採ります」という連絡が予定より早く来て急遽撮影しました。収穫は、実を傷つけないように1つずつそっと採る繊細な手作業でした。その場で食べさせてもらいましたが、口の中でとろけるような柔らかさで本当に美味しかったです。

あんずは夏に実をつけ、昼夜の寒暖差が大きいヴァッハウ渓谷の夏の気候によって甘みが増します。その収穫は繊細な手作業です。

──そんなに美味しいあんずがドナウ川沿いに栽培されているとは知りませんでした。

田口:ヴァッハウ渓谷は、ヨーロッパではあんずの一大生産地として有名なのです。またこの一帯は、ワインの産地としても知られています。ここにワイン作りの文化をもたらしたのには古代ローマ人です。ドナウ川が国境だった古代ローマ帝国は、ヴァッハウ渓谷に防衛のための拠点を築きました。世界遺産の登録エリア北東端にあるマウテルンという町には、古代ローマ帝国の城壁が今も残っていて、その側では発掘が行われています。そこからは1600年以上前のワイン容器などが発見されています。

──ヴァッハウ渓谷は、本当に深い歴史が折り重なっている場所なのですね。

ヴァッハウ渓谷にワイン作りをもたらしたのは、古代ローマ人です。古代ローマ帝国の城壁の一部が残る町、マウテルンでは、当時ワインを入れていた器が発掘されています。

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