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2023年5月14日放送「スイスのサルドーナ地殻変動地帯」

地殻変動が生んだアルプスの絶景

スイス東部、アルプス山脈に刻まれた1本の線。そんな不思議な景色を見ることができる世界遺産が「スイスのサルドーナ地殻変動地帯」です。地球のダイナミックな営みを示す証拠となった、この世界遺産について、本番組の取材を担当するのが今回初めての新宅ディレクターに話を聞きました。

アルプスの山頂に乗り上げたアフリカ大陸の地層

アルプス山脈形成の謎を紐解いた「プレートテクトニクス理論」。その立証に貢献したのが「スイスのサルドーナ地殻変動地帯」の山々でした。

──今回の「スイスのサルドーナ地殻変動地帯(以下、サルドーナ地殻変動地帯)」とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

新宅ディレクター(以下、新宅):サルドーナ地殻変動地帯は、スイス東部、アルプス山脈に広がる328.5平方kmものエリアで、地質学にとって重要な地域ということで世界遺産に登録されました。アルプス山脈はかつて海の底だった土地が地殻変動で隆起して出来た地形で、そうした地殻変動があったことを示す地層がこのエリアには露出しているのです。

──具体的にはどのような地層を見ることができるのでしょうか?

新宅:特に顕著に見られるのが、エリア南部にある、標高2849mの山・チンゲルホルンです。ギザギザと尖った稜線を持つ山の頂上付近に、定規で引いたかのような真っ直ぐな地層の線が入っています。その不思議さのため、「マジックライン」と呼ばれています。

チンゲルホルンをはじめ、この地域の山々の峰には、「マジックライン」と呼ばれるまっすぐな地層の線が見られます。

──現地で実際に見たマジックラインはどうでしたか?

新宅:実際に見ると本当に魔法で引いたような線で、不思議な景色です。かなり遠くから見てもハッキリわかります。このラインは30km以上にわたって続いているのですが、そのスケール感を捉えるために、ヘリによる空撮でアルプスの山々を撮影しています。

マジックラインを直接触れて確認できるロッホジーテでは、地層が異なる様子を間近で確認できます。

──30kmにも渡る線とはスケールが大きいですね。逆にマジックラインを近くから見るとどのようになっているのでしょうか?

新宅:「ロッホジーテ」というチンゲルホルンから15kmほど離れた場所では、マジックラインを直接触って確認できます。19世紀に地質学者が、マジックラインの上がおよそ2億年前の古い地層で、下のほうはおよそ4000万年前のものと発見しました。この地層の年代が逆転している理由は長年謎でしたが、20世紀になって、ヨーロッパ大陸の新しい地層の上にアフリカ大陸の古い地層が乗り上げていることがわかり、地球のさまざまな地殻変動はプレートの動きによって起こると考える「プレートテクトニクス理論」の証明にも寄与しました。それが、サルドーナ地殻変動地帯が世界遺産に登録された理由なのです。

サルドーナ地殻変動地帯では、折れ曲がった地層が剥き出しになった岩山など、プレートがぶつかってアルプス山脈が形作られた証拠を見ることができます。

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