特集

2023年3月5日放送「プロセッコの丘」

アルプスの麓に広がるブドウ畑の絶景

イタリア北部、アルプスの麓にある入り組んだ地形の丘陵地隊。2019年、そこに広がるブドウ畑の景観が文化遺産に登録されました。それが今回の「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」です。現地で取材を担当した田口ディレクターに話を聞きました。

400年の開墾でできた急斜面のブドウ畑

急斜面に広がるブドウ畑。その景色は、アルプスの自然の恵みと長年に渡る人々の努力が生み出したものでした。

──今回の「コネリアーノとヴァルドッビアーデネのプロセッコの丘」とは、どのような世界遺産なのでしょうか?

田口ディレクター(以下、田口):コネリアーノとヴァルドッビアーデネは、イタリア北部ヴェネト州、アルプスの山麓にある2つの町でヴェネツィアから車で1時間弱のところにあります。「プロセッコ」とは、スパークリングワインの銘柄で、フランスの「シャンパン」、スペインの「カヴァ」と並ぶ三大スパークリングワインと言われています。この地域で育った特定の品種のブドウで生産されたものだけが、プロセッコを名乗れるのです。そのブドウ畑が広がる丘の景観が世界遺産に登録されています。

急傾斜の丘に開墾されたブドウ畑。世界有数のスパークリングワイン「プロセッコ」の生産地です。

──どのような景観なのでしょうか?

田口:複雑に入り組んだ丘陵地帯に、ブドウの木が等高線のように並んで栽培されています。それが東西30kmにも渡るエリアに広がっている絶景です。急な斜面が特徴で、高低差が500mもあり、斜面は最も急なところで72度にもなります。実際、かなり傾斜がきつく、撮影の際にスタッフも転んでしまったぐらいでした。

──撮影でも苦労するということは、ブドウを育てるのは相当大変なのでは?

田口:はい。そのような斜面なので大きな機械を使えません。ブドウはすべて手で摘んでいます。番組では9月に実ったブドウを農家の親族が総出で収穫している様子もお見せします。土地が急なため、平地の5倍もの労力がかかると言われています。

傾きが急な土地のため、幅の狭い道しかないブドウ畑。大型の機械を入れることが難しく、ブドウの収穫は手作業で行われています。

──なぜそんな大変な土地にブドウ畑を作ったのでしょうか?

田口:労力がかかる半面、プロセッコの丘は水はけがよく、ミネラルが豊富な礫岩の土地で、ブドウ栽培に適しているのです。ここはかつて固い礫岩と柔らかい泥岩の地層が隆起した土地でした。その後、その柔らかい泥岩が雨風で侵食され、礫岩の部分が残り、そこがプロセッコの丘となったのです。また斜面の多くは南向きで日当たりがよく、さらに北側のアルプスから冷たい風が吹き下ろします。その結果、昼夜の寒暖差が生まれ、ブドウの成熟を高める効果があるのです。

プロセッコの丘で品質の高いブドウが採れる秘密は、その地形と礫岩の土壌にありました。

──ブドウ作りに適した土壌でも、急斜面を開墾するのはやはり大変だったのではないでしょうか?

田口:はい、かつてこの地域は傾斜地の多さのため、産業が発達しない不毛の地でした。400年ほど前に、「チリオーニ」と呼ばれる、幅80cmほどの道を作る独特な畑のスタイルを取り入れ、それによって急傾斜の土地をブドウ畑に変えることができました。今のような景観になったのは19世紀で、現在見ることができるのは人々が苦労をして長年に渡り開墾してきたブドウ畑の景観なのです。

BACK TO PAGETOP