特集

2022年12月4日放送「オルチャ渓谷」

絵画の世界を旅する トスカーナの田園風景

イタリア、トスカーナ地方に広がる美しい田園風景。今回の世界遺産「オルチャ渓谷」は、小麦やオリーブ、ワインなどの産地として知られる実りの大地です。番組を担当した江夏ディレクターに、オルチャ渓谷の美しさやその成り立ちの秘密を聞きました。

農民たちの努力が生んだ糸杉と麦畑の絶景

本来、農業に向かない土地だった「オルチャ渓谷」。農民たちの長年の努力が、不毛の荒野をイタリア有数の穀倉地帯に変えました。

──今回の「オルチャ渓谷」とはどんな世界遺産なのでしょうか?

江夏ディレクター(以下、江夏):オルチャ渓谷は、イタリア、トスカーナ地方にあるオルチャ川流域に広がる田園地帯です。「渓谷」と呼ばれていますが、起伏がなだらかな丘陵が連なっていて、その美しい景観で知られています。今は実り豊かな穀倉地帯ですが、かつては農業に向かない荒地だったのを人の手によって何百年もかけて作り替えたのです。

なだらかな丘陵に田園が広がるオルチャ渓谷。まるで一幅の絵画のような美しいトスカーナの風景を楽しむことができます。

──そんなに長い年月をかけた出来た土地とは驚きです。

江夏:本来は粘土質の土壌で、水はけが悪く、作物の根が張りにくい土地でした。およそ700年前から大規模な開墾が始まり、家畜のフンを混ぜるなど、土壌に改良を施してきたのです。

──オルチャ渓谷の景色の裏にはそんな努力があるのですね。実際に現地での取材ではどんな風景を撮影できたのでしょうか?

江夏:今でも粘土質の土壌が露出した場所が一部にありますが、田園風景はそんな土地だったとは想像がつかないほどの美しさです。オルチャ渓谷では、小麦やオリーブやブドウといった作物が栽培されています。特に緩やかな起伏に富んだ地形に小麦畑が広がっている様子は絶景です。撮影した5月は麦の穂が実った時期で、あたり一面に育った穂が風になびく様子は、まるで大海原の波のようでした。そうした風景のアクセントとなっているのが、トスカーナの田園を代表する木の1つ、糸杉です。

本来は水はけが悪く、作物は根を張りにくい粘土質の土地だったオルチャ渓谷一帯を、農民たちは長い年月をかけて土壌改良しました。

──糸杉も人の手によって植えられたものなのでしょうか?

江夏:はい。糸杉は根を横に張らず、地中深くに伸ばす性質を持っています。そのため、畑の境界の目印にしたり、農道の路肩を補強するなどの目的で並べて植樹されました。この糸杉並木が田園風景に心地よいリズムを与えて、絵画のような光景が生まれています。

──お話を聞いているだけで、美しい景色を見にオルチャ渓谷へ行きたくなってきました。

江夏:まさに「実際に行ってみたくなるような番組」が今回のテーマでもあります。オルチャ渓谷はもともと観光スポットなのですが、最近は単に見に行くだけなく、トスカーナの農家に宿泊する「アグリツーリズモ」という旅が人気です。農家と言っても庭にプールがあるなど、リゾートも意識した宿泊施設だったりします。撮影した農家は家族経営で、料理上手のマンマが自家製の食材を使った郷土料理を振る舞ってくれました。

トスカーナでは近年、「アグリツーリズモ」と呼ばれる、農家に宿泊してそこでの暮らしを身近に感じる旅が人気です。

BACK TO PAGETOP