特集

2021年12月5日放送 特集「ネムルト山」

東西の文化が合わさった不思議な神々

ネムルト山では、迫力の噴火だけでなく、太古の噴火によって生まれた純白の岩による不思議な地形も見ることができます。

──ネムルト山の遺跡は王の墓ということですが、そこから棺や副葬品などは発掘されていないのでしょうか?

石渡:それは見つかっていません。その理由は、積み上げられた小石にあります。ピラミッドに横穴を掘ろうとしても小石が崩れてきて進めません。大量の小石は、王の墓が盗掘に遭わないための工夫だったのです。そのために発掘調査が難しく、王の遺体が収められている玄室へ入る方法も見つかっていません。そもそも、60万トンとも言われる大量の小石をどのようにして円錐形に積み上げたのかもわからないなど、多くの謎が残る遺跡なのです。

盗掘を防ぐために積み上げられたピラミッドの小石。この崩れやすい小石は発掘調査も困難にしています。

──ミステリアスな遺跡に俄然興味が湧いてきました。アンティオコス1世の像がギリシアの神々と並んでいたということは、古代ギリシアの影響を受けていたことはわかっているのですね。

石渡:実はネムルト山の遺跡には、ギリシアだけでなくペルシアの影響を受けた特徴も見られるのです。テラスに並ぶ巨大な顔の1つ、ゼウスの頭部は、ギリシア彫刻の影響を受けた顔立ちやあご髭をしているのですが、ペルシア風のとんがり帽子をかぶっています。また石像には、「ゼウス」と「オロマスデス」というように、ギリシアの神とペルシアの神の2通りの名前が刻まれているのです。

石像の頭部の特徴や台座に刻まれていた古代文字から、ギリシアとペルシア両方の異なる文化の影響が確認できます。

──なぜこの遺跡では2つの異なる文化が混ざり合っているのでしょうか?

石渡:コンマゲネ王国は紀元前2世紀に、古代ギリシアとペルシアの間に位置する高原地帯にできた国です。ネムルト山の麓にも、古くから東西を結ぶ交易路が通っていました。番組では、かつて宿場町だった場所も紹介します。またアンティオコス1世自身も、父からはペルシアの血筋、母からは古代ギリシアの血筋を引く王でした。このような背景があって、東西の2つの文化が混ざり合った神々が祀られていたのです。

ネムルト山の麓には、古くから東西を結ぶ交易路が通っていました。その道筋では、かつての宿場町の風景が残っています。

──まさに東西文明が交わると言われるトルコならではの世界遺産ですね。最後に視聴者へメッセージをお願いします。

石渡:ネムルト山を番組で取り上げるのは、10年ぶり2度目になります。1度目の撮影は地上からがほとんどで、ピラミッドの全容をお見せするのが難しかったのですが、今回はドローンによる空撮映像で円錐形のピラミッドの姿をたっぷりご覧いただけます。標高2000mを超える山上にある、膨大な小石でできた王墓と不思議な神々が立ち並ぶ巨大石像のミステリアスな光景をお楽しみください。

不思議な神々が守る謎のピラミッドと知られざる古代王国に、さまざまな角度から迫る放送をお楽しみください

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