特集

2021年1月10日「知床」

生物がつなぐ知床の海と陸

流氷やシャチ、ヒグマなど、陸海空から撮影した、知床のさまざまな風景が盛り沢山の今回の世界遺産。その見所をご紹介します。

──さすがスペシャルだけあって、すごい映像のお話が目白押しですね。そのほかの見所も教えてください。

三浦:知床は陸だけでなく周囲の海も含めて登録されている、日本では珍しい世界遺産です。知床の海の代表的な風景と言えば、冬の流氷です。流氷というと真っ白で生命感のないイメージを持つ方もいるかと思います。しかし、流氷の下に潜るとまた違った世界が見えます。実は流氷には、シベリアの大地から海に流れ込んだミネラル分が含まれています。これが溶け出すと、太陽の光を浴びて植物プランクトンが大発生するのです。その植物プランクトンを食べに動物プランクトンが集まり、次にクリオネなどの小型の動物が動物プランクトンを捕食、さらにその小型動物を魚が捕食する……というような生態系が存在しているのです。

流氷から溶け出たミネラルは、知床の海を豊かにします。

──はるかかなたシベリアの土壌が、知床の海の栄養素になっているとは驚きです。

三浦:知床が世界遺産に登録されている理由は、海と山とが循環する特異な生態系があることと、希少な動物の生息地となっていることなのです。希少な動物の1つがシャチです。知床の豊かな海には、毎年初夏になるとシャチがやってきます。2020年7月に船で羅臼沖に出たところ、ちょうど10頭ほどの群れが7つも集まっているところに遭遇できました。シャチが海の上でひっくり返ってお腹を見せるという、珍しい行動をカメラに収めることができましたので、ご覧ください。

夏、知床の沖にはシャチの群れが集まってきます。撮影時も数十頭ものシャチが現れ、お腹を仰向けにする珍しい行動を見せてくれました。

──植物プランクトンから生態系の頂点に立つシャチまで、本当に幅広い種類の生物を知床では見ることができるのですね。登録の理由のひとつである、陸と海とが循環する生態系というのはどういうものなのでしょうか?

三浦:毎年秋になると、鮭やマスといった魚が産卵のために知床の川をさかのぼります。それらの魚は、ヒグマに食べられて糞から森の栄養になったり、産卵後力尽きて死骸となって土に帰るのです。こうした海と山がつながった生態系が知床では見られます。今回は、北海道の自然を長年撮り続けている映像作家の今津秀邦さんに協力いただき、ヒグマの親子が鮭を採っている自然な姿を撮影できました。

川を遡上する鮭やマスを採るヒグマの親子。生命が循環する知床の環境で重要な役目を担っています。

──ヒグマは海と陸をつなぐ生命の循環の一部なのですね。ダイナミックな知床の自然を観られる番組が楽しみです。

三浦:あと、ぜひ観ていただきたいのが知床岬の映像です。岬の先端に、まるで「人間が手入れをしたのでは?」と思えるほど同じ高さに生えそろった平原があるのです。知床岬に常時吹き付ける強風によってできたと言われています。この不思議な場所をドローンとヘリコプターを駆使して空から撮影しました。

強風が一年中吹き付ける知床岬。ここには刈り取ったように植物の高さがそろった不思議な平原が広がっています。

──本当に見所満載ですね。最後に視聴者の皆さんへメッセージをお願いします。

三浦:通常1つの世界遺産につき10日ほどの日程で取材することが多いのですが、今回は合計90日間にもわたって撮影を行いました。その分、天候や動物などの条件が整うのを「待つ」時間も長く、大変な取材でしたが、多くのご協力のおかげで知床の特別な風景をカメラに収めることできました。1月10日は地上波なので、8K撮影した映像をハイビジョンに変換して放送しますが、それでも映像の美しさは実感できると思います。過去の放送とはまた違った、観たことのない知床のより自然な風景をたくさんお届けします。ぜひお楽しみください。

ほかにも見所満載の「知床」。スペシャルな映像をお楽しみください!

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