特集
2020年11月15日放送「ガラホナイ国立公園」
山の上に残る太古の森の秘密
大西洋に浮かぶカナリア諸島、ラ・ゴメラ島にある「ガラホナイ国立公園」。ここには1万年以上も前から続く照葉樹の森が残されています。なぜ、この島に貴重な森が残っているのか、森がどんな姿で現存しているのか、さらに島の成り立ちなどついて、現地の撮影スタッフと連携して番組を作り上げた江夏ディレクターに聞きました。
水平の雲が生んだ照葉樹の森
麓は乾燥地帯なのに、標高1000m以上の山の上は緑豊かな森。そんな自然が出来上がった秘密は雲にありました。
──「ガラホナイ国立公園」とはどういった世界遺産なのでしょうか?
江夏ディレクター(以下、江夏):スペイン領のカナリア諸島、ラ・ゴメラ島にある世界遺産です。ラ・ゴメラ島は火山が噴火してできた円形の島で、その中心部である山の上がガラホナイ国立公園です。そこには照葉樹の森が広がり、少なくとも1万年前には、現在見られるような植生ができあがっていたと言われています。照葉樹の森は、かつてヨーロッパ南部に広く分布していましたが、氷河期に多くが失われ、現在でも残っているのは貴重なのです。
カナリア諸島、ラ・ゴメラ島の中心部分にある、貴重な照葉樹の森が「ガラホナイ国立公園」です。
──森があるのは山の上ということですが、麓にはないのでしょうか?
江夏:はい。山の麓や海岸付近は、岩だらけの乾燥地帯です。そこに生えている植物は、乾燥に適応したものしかありません。それが標高1000mより上になると様子がガラリと変わります。照葉樹が鬱蒼と生い茂った森が広がっているのです。
山の麓には多肉植物など、乾燥に強い草や木しか生えていませんが、1000mを超えると景色がガラリと変わります。
──一般的には、山の麓は木々が豊富で、標高が上がるにつれ荒涼としてくるイメージがありますが、その逆なのですね。1000mを境に上と下で何が異なっているのでしょうか?
江夏:それは雲です。カナリア諸島では、厚みのない水平な雲が高度1000m付近で発生するのです。山の上でもあまり雨は降らないのですが、雲に含まれる水蒸気が森を潤しています。雲が森を育んでいるのです。
照葉樹の森が残っている秘密は、島の上、高さ1000m付近にかかる厚みのない水平な雲にありました。
──どうして1000m付近に雲が発生するのでしょうか?
江夏:それは、貿易風が大きく関係しています。カナリア諸島の上空1000m付近には、北東から吹く貿易風の層があります。この風が、海上でできた雲を集めて島に運ぶのです。カナリア諸島の島を遠くから望むと、山に水平な雲がかかっている様子を見ることができます。
──その一定の高さの雲によって照葉樹の森が保たれてきたのですね。
江夏:はい。この雲が生む現象で注目していただきたいのが、山の稜線から滝のように流れ落ちる「滝雲」です。貿易風がラ・ゴメラ島に数日間吹き続けて、十分な量の雲が集まり、さらにその雲と山の高さが絶妙になったときだけに発生する現象です。こうした条件がそろうのが年に20日ほどだけなのですが、それを空撮で収めた映像をお届けしますのでご覧ください。
雲の量と山の高さなどの条件が重なったとき、滝雲という現象が発生します。
──雲が滝のように流れるなんて絶景ですね。その雲の中の森はどんな様子なのでしょうか?
江夏:雲で霞がかかった中に木々が鬱蒼と生えています。湿度が高いため、木の幹や枝についている苔類や地衣類に水滴がしたたる様子が見られます。日照が少ないので、木々の寿命が短いと言われています。そんな中でも、樹齢1000年と言われる巨木を番組では取り上げています。
──幻想的な太古の森の風景が思い浮かびます。番組が楽しみです。
湿度が高く鬱蒼とした照葉樹の森。日照が短いため、木の寿命は短いと言われていますが、中には樹齢1000年を超える巨木もあります。